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魔女と家族の絆と。

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 魔塔の長。その次席であるミーナは、いわゆる天才だ。というよりも、魔法に携わっていながら、王の傘下である魔術師団に所属していない時点で、魔塔に所属する全員が、天才という名の変わり者だ。

「ベルセーヌ殿! あちらに、美味しそうなお菓子が沢山ありますよっ!」
「新作スイーツの誤解で、昨夜死ぬ思いをしたから、しばらく甘いものは見たくない」
「そうですか? じゃあ、あたしがベルセーヌ殿の分まで食べてあげますねっ」

 ぴょんぴょん跳ねながら、ミーナがベルセーヌについていく姿は、尻尾を振った子犬のようだが。

 魔塔で扱うのは、今は廃れてしまった、神代の古代魔法や、禁術スレスレの魔法または禁術そのもの、そしてエレノアが担う神代の魔道具研究まで様々だ。

 その中でも、ミーナは卓越した魔法の能力を持つ。その能力だけを言えば、先代の長であるアリシアを凌ぐとまで言われるほどに。

 もちろん、エレノアのように、自身は魔法を使うことが基本的には出来ない人間が、魔塔に所属していることは、例外中の例外。

 エレノア以外の魔塔のメンバーは、全員類い稀なる魔法の資質を持っているのだから。

(ふむ。こう考えると、なぜ私が魔塔の長になったのか、不思議で仕方なくなるわね)

 そこにはおそらく、貴族の血を引き、出自がたしかなエレノアに魔塔を収めさせたい王家や、メンバーの一部とは確執が深い神殿の思惑も絡んでいたことは否定できない。

 もちろん、エレノアの作った魔道具や魔法薬がもたらした功績は、他のメンバーに比べ、分かりやすく民衆の支持が得られやすいものばかり。国民がそれを望んだということもあるだろう。

「それはつまり、いわゆる消去法の結果?」
「エレノア?」
「それとも、便利な駒」

 ミーナが、去った後、急に静かさが訪れたせいで、つい思考の海に沈んでしまっていたらしい。大事な儀式の最中だと、エレノアは軽く首を振った。

 エレノアが、魔塔の長に選ばれた、あるいは選ばれてしまったのは、その能力故か、それとも運命なのか、あるいはそれすらも神の手のひらの上か。

 それは誰にもわからないことだった。
 
「エレノア!」
「お父様、お母様! ミル姉様、フェリ姉様! ついでにラーク!」
「……俺は、おまけか」

 クレリアンス伯爵家の双子。長女のミルリアと次女フェリシア。
 そして、父と母、加えて一番エレノアと仲が良い弟ラーク。

 レイの手から離れると、転びそうになりながら、家族に駆け寄って、嬉しそうに笑うエレノア。
 その姿を見つめながら、レイは眩しいものを見るように目を細めた。

 クレリアンス伯爵家は、由緒正しい家柄でありながら、自由な家風だ。貴族には珍しく、家族仲も良い。

 もちろん、エレノアに対して貴族としての教育は厳しかったが、それさえこなしていれば、魔道具の開発も止められはしなかった。

 しかし、エレノアが魔塔に所属した時と、魔塔の長に就任したときは、流石に家族全員が大反対したという。

 それでも、エレノアの意思は固く、現在に至る。

「やはり、義兄上からは逃げきれなかったな」
「え……。王家の思惑と言うやつでしょう?」
「え……。まだそんなことを言っているのか」

 ラークは、気の毒そうな目をレイに向ける。
 レイが、誰からも反対されることなくエレノアを手中に収めるために、どれだけ苦労したかを、エレノアの弟は知っているのだから。

「いや、そこまで、姉上でなくてはいけないのかって、思わなくもない執着具合だったけどな。……ほら、義兄上! そんなところに立ってないで、こちらにいらして下さい」
「ああ……」

 今となっては、レイのことを受け入れているラークだが、エレノアが視力を失った時、魔塔に閉じこもった時には、レイのことを強く責めた。

「……仕方ないな。義兄上くらい、しっかり捕まえてくれる相手にしか、姉上の相手は務まらないでしょうから。二人を祝福します」
「ありがとう」
「ラークったら。小さい頃は、いつも私のことを追いかけてきて可愛かったのに」
「俺たちは、一歳しか違わない。いつもついて来たのは、姉上の方だ」

 仲の良い二人だが、実際に会うのは三年ぶりだ。
 やっと、エレノアが魔塔の外に出て来たことは、ラークにとってある意味、結婚よりも嬉しいことだった。
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