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王命による結婚 4

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 青い空、いつもふわふわと垂らしていた髪は、高く結われて、少女が大人になる瞬間のまばゆいばかりの美しさを感じる。
 いつもなら、丸い眼鏡に隠されていたすみれ色の瞳は、見るものの目を惹きつけてやまない。

 病弱な深窓の令嬢という噂の、ウェンライト男爵家令嬢ミリア。

 そして、その隣を歩くのは、王国の英雄であり、誰とも相容れなかったはずの竜騎士アーロン・バルミール卿だ。
 いつも冷たく相手を射すくめてしまうような印象の金の瞳は、今日は柔らかく細められ、ミリアだけを見つめている。
 
 いつもの黒い騎士服ではない、白い騎士の盛装は、まるでアーロンのためだけにデザインされたのではないかと思うほどだ。

 しかし、それらの視線と興味の真ん中にいるミリアは、それどころではなかった。

「アーロン様、全く見えないのに、高いヒールの靴とか、無理です」
「しっかり、掴まっていればいい。決して転ばせたりしない」
「そういう意味では信頼してますが……。アーロン様のお顔も見えませんし」
「っ……ほんと、君って人は」

 アーロンは、そっと手のひらに光をまとわせると、ミリアの両目を塞いだ。
 
「……っ! 見える! 眼鏡なしなのに、はっきり見えます!」
「見えない方が良いものも、この場所には多いんだけどね……」

 アーロンの心配をよそに、感動したようにシャンデリアや絵画に目を奪われるミリアが、一部の人間から注がれる悪意を込めた視線に、気がつくことはない。

 それとなくアーロンは、その視線の主を確認しておきながら、弱みを握るべき相手のリストに加えておく。

「アーロン様、番にだけ使える魔法ですか」

 周囲に聞こえないように、扇子で口元を隠しながらミリアがアーロンにささやく。
 そんな様子に苦笑しながら、アーロンも扇子に隠れるようにミリアの耳元に唇を近づけた。

「そうだね……。番は、二人で一対。全てを共有する存在だ」

 ミリアには、理解が追いつかない不思議な理だ。

「……でも、共有ということはアーロン様の目、見えづらくなっているんですか? それは、ちょっと……」

 心配するミリアが、愛しくて仕方なくて、思わずアーロンは笑う。

「そうだね。でも、竜人の目は、本当に遠くまで細かく見えてしまうから、王宮に来たときは、ある意味不便なんだ。これくらいの方が、見えやすい」
「そういうものですか?」

 見るものの視線を全て奪ってしまうような瞳をアーロンは、のぞき込んだ。
 日差しの中で見たミリアは、可愛らしくて、アーロンは、その姿が好きだ。
 けれど、今日のミリアはあまりに美しく、周囲の羨望のまなざしから、隠してしまいたくなる。

「今日は、よく見えるようになったその目で、俺のことだけ見ていてほしいな?」
「また、そんな恥ずかしいこと……」
 
 本音だから仕方ない、とばかりにアーロンはミリアを引き寄せて、歩き出したのだった。
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