18 / 23
王命による結婚 4
しおりを挟む青い空、いつもふわふわと垂らしていた髪は、高く結われて、少女が大人になる瞬間のまばゆいばかりの美しさを感じる。
いつもなら、丸い眼鏡に隠されていたすみれ色の瞳は、見るものの目を惹きつけてやまない。
病弱な深窓の令嬢という噂の、ウェンライト男爵家令嬢ミリア。
そして、その隣を歩くのは、王国の英雄であり、誰とも相容れなかったはずの竜騎士アーロン・バルミール卿だ。
いつも冷たく相手を射すくめてしまうような印象の金の瞳は、今日は柔らかく細められ、ミリアだけを見つめている。
いつもの黒い騎士服ではない、白い騎士の盛装は、まるでアーロンのためだけにデザインされたのではないかと思うほどだ。
しかし、それらの視線と興味の真ん中にいるミリアは、それどころではなかった。
「アーロン様、全く見えないのに、高いヒールの靴とか、無理です」
「しっかり、掴まっていればいい。決して転ばせたりしない」
「そういう意味では信頼してますが……。アーロン様のお顔も見えませんし」
「っ……ほんと、君って人は」
アーロンは、そっと手のひらに光をまとわせると、ミリアの両目を塞いだ。
「……っ! 見える! 眼鏡なしなのに、はっきり見えます!」
「見えない方が良いものも、この場所には多いんだけどね……」
アーロンの心配をよそに、感動したようにシャンデリアや絵画に目を奪われるミリアが、一部の人間から注がれる悪意を込めた視線に、気がつくことはない。
それとなくアーロンは、その視線の主を確認しておきながら、弱みを握るべき相手のリストに加えておく。
「アーロン様、番にだけ使える魔法ですか」
周囲に聞こえないように、扇子で口元を隠しながらミリアがアーロンにささやく。
そんな様子に苦笑しながら、アーロンも扇子に隠れるようにミリアの耳元に唇を近づけた。
「そうだね……。番は、二人で一対。全てを共有する存在だ」
ミリアには、理解が追いつかない不思議な理だ。
「……でも、共有ということはアーロン様の目、見えづらくなっているんですか? それは、ちょっと……」
心配するミリアが、愛しくて仕方なくて、思わずアーロンは笑う。
「そうだね。でも、竜人の目は、本当に遠くまで細かく見えてしまうから、王宮に来たときは、ある意味不便なんだ。これくらいの方が、見えやすい」
「そういうものですか?」
見るものの視線を全て奪ってしまうような瞳をアーロンは、のぞき込んだ。
日差しの中で見たミリアは、可愛らしくて、アーロンは、その姿が好きだ。
けれど、今日のミリアはあまりに美しく、周囲の羨望のまなざしから、隠してしまいたくなる。
「今日は、よく見えるようになったその目で、俺のことだけ見ていてほしいな?」
「また、そんな恥ずかしいこと……」
本音だから仕方ない、とばかりにアーロンはミリアを引き寄せて、歩き出したのだった。
33
お気に入りに追加
1,490
あなたにおすすめの小説
溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。
氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。
それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。
「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」
それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが?
人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。
小説家になろうにも投稿しています。
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
出来の悪い令嬢が婚約破棄を申し出たら、なぜか溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
学術もダメ、ダンスも下手、何の取り柄もないリリィは、婚約相手の公爵子息のレオンに婚約破棄を申し出ることを決意する。
きっかけは、パーティーでの失態。
リリィはレオンの幼馴染みであり、幼い頃から好意を抱いていたためにこの婚約は嬉しかったが、こんな自分ではレオンにもっと恥をかかせてしまうと思ったからだ。
表だって婚約を発表する前に破棄を申し出た方がいいだろう。
リリィは勇気を出して婚約破棄を申し出たが、なぜかレオンに溺愛されてしまい!?
竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
「君を愛さない」と言った公爵が好きなのは騎士団長らしいのですが、それは男装した私です。何故気づかない。
束原ミヤコ
恋愛
伯爵令嬢エニードは両親から告げられる。
クラウス公爵が結婚相手を探している、すでに申し込み済みだと。
二十歳になるまで結婚など考えていなかったエニードは、両親の希望でクラウス公爵に嫁ぐことになる。
けれど、クラウスは言う。「君を愛することはできない」と。
何故ならば、クラウスは騎士団長セツカに惚れているのだという。
クラウスが男性だと信じ込んでいる騎士団長セツカとは、エニードのことである。
確かに邪魔だから胸は潰して軍服を着ているが、顔も声も同じだというのに、何故気づかない――。
でも、男だと思って道ならぬ恋に身を焦がしているクラウスが、可哀想だからとても言えない。
とりあえず気づくのを待とう。うん。それがいい。
初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。
石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。
色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。
*この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです
茜カナコ
恋愛
辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです
シェリーは新しい恋をみつけたが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる