本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら

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本の虫令嬢は竜騎士に発見される 2

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 夜が更けるのも忘れて、本に没頭してしまったミリア。
 家族に連絡もせずに、こんな遅くまで残ってしまったのは、もちろんすべて自分が悪い。
 それでも、言わずにはいられないのが、人情というもの。

「――――どうして、声を掛けてくれなかったんですか」
「――――すまない、見とれた」
「え……。見とれるような見た目じゃないこと、自分が一番知っています」
「君は、目を離せないくらいきれいだ」

 すみれ色の瞳は珍しいが、丸い眼鏡で隠されている。

 王国ではよく見かける淡い茶色の髪。ミリアの柔らかな毛質には、緩くウェーブがかかっている。
 おしゃれではなく、生まれつきだ。雨の日は広がってしまって大変なのだ。

 大きな瞳は、猫みたいで、小さな唇は愛らしい。
 だれに聞いても、ミリアは可愛いという返答が返ってきそうだ。

 しかし、美女かと言われれば、ほぼ全員が首をかしげるだろう。

 ――――恐らく、目の前のアーロンを除いて。

 番というものは、もしかしたら、独特の色めがねを通して相手を見てしまうのかもしれない。

「帰らないと……」
「家まで送っていこう。ところで」
「はい……?」
「君の名前を教えてもらえるだろうか?」

 その言葉を聞いたミリアは、わかりやすく動きを止めた。
 そういえば、ミリアはアーロンに名乗っていない。
 竜騎士は国王陛下の直属だ。男爵家程度の令嬢が、名前も名乗っていないなんてあり得ない失態だ。

「――――失礼いたしました。ミリア・ウェンライトと申します」

 しかも、アーロンは名乗ってもいない身元不明の人間を、自宅に簡単に入れてしまった。
 あまりに無防備ではないだろうか?

「あの、あまり知らない人間を、家に入れない方がいいと思いますよ?」
「君ならいいんだ」
「――――私が害意を持っていたらどうするんですか」
「そうなの? それなら俺は、喜んで…………」
「――――いっ、いいです! 聞きたくないです!」

 その瞬間のアーロンの瞳は、あまりに暗くよどんでいたような気がしたから、ミリアはその言葉が紡がれるのを必死になって止める。

「そう?」
「――――アーロン様」
「……ウェンライト男爵家だね。送っていくよ」
「――――竜で、ですか?」

 多分、これ以上は王都中が、そして我が家が大騒ぎになってしまうに違いない。
 いや、無断で夜遅くまで帰らないなんていまだかつてないミリアが、教会の夜の鐘が三つ鳴っても帰ってこない時点で大騒ぎになっているだろう。

「竜でもいいけれど……。馬車を出そう」
「――――あの、どうしてそこまで」
「ミリアには、どんなことでもしてあげたい」
「…………そんなの、おかしいですよ」

 ミリアは人間だから、番に対してどんな感情を持つものなのか、それは竜人にとっての常識なのか、まったくわからない。
 見た目に惚れたとか、人間性を知って好きになったと言われたならうれしいかもしれないけれど、番と言われてもピンとこない。

「そうかな? 俺にとっては、当たり前なんだけどな」

 そういったアーロンは、どこかさみしそうに見えた。
 けれど、次の瞬間、手のひらに断りなく口づけされたミリアは、アーロンを気の毒に思うのはやめようと心に決めるのだった。
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