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聖騎士の本気
しおりを挟むディオ様が、近すぎるのですが?
世界樹の呪いは、呪いではないらしい。闇の魔力なのだと、おそらく違うルートから来たディオ様が言った。話によるとそちらはフリード×リアナのハッピーエンドルートらしい。
……フリードルートの兄の台詞ですら、恋人同士の会話を盗み聞いたみたいで居た堪れないというのに?それが私に向けられるとかちょっと想像できない。
そしてディオ様の手に握られているのは、世界樹の滴と竜の血石を合成して作った賢者の石らしい。ゲーム世界に確かに世界樹の滴と竜の血石はあったけれど、あまりに貴重なアイテムだったため、だれも失敗する確率の高い合成に使おうとは考えなかった。
使い道がないと『春君』をプレイしながら嘆いていたのに、思わぬ盲点だった。でも、賢者の石なんて何に使うのだろう?
「ほら、リアナ?ここに来て」
「あ……あの。世界樹を救うのに、こんなに近い必要って」
なぜか、ディオ様に後ろから抱きしめられながら世界樹の聖域にいる。これから世界樹から黒い蔦を消し去ろうとしているのに、この状況おかしいと思う。
「あるよ」
「本当に?」
「うん、俺が本気を出せるからね」
「そ、そうですか」
よくわからないうちに、今日も丸め込まれた感じがする。
私の前に現れたディオ様は、あっという間にトア様の闇の魔力の暴走を抑え、政治的にも精神的にも追い詰められていた兄を助け出し、ライアス様を説得して聖騎士の立場に戻っている。
設定としては、極秘事件を解決するために3年の間死んだことになっていた。というものらしい。
ほんの数日前まで、すべて終わるのだと諦めかけていたのに。
「リアナのためなら、少しぐらい記録を改ざんしたり、極秘情報を利用するのも仕方ないよね?あっちの世界のフリードがくれた情報に感謝しないと」
そう言って笑うディオ様は、かなり黒い笑顔に見える。あれ?天使のような笑顔をした人という印象だったのは、記憶違いだったのだろうか?
そう思った瞬間「リアナ、可愛い」と言ってやはり天使のような笑顔を見せるディオ様。「愛してる」「愛しい」「可愛い」を連発されてこの天使の笑顔を見たあとは、しばらく私は悶えるしかできない。前の人生から基本私は引きこもりで喪女なのだ。
(とても、困ります……)
その上、ディオ様が現れてからというもの、私の魔力も増える一方だった。
「リアナはずっと、世界樹の闇の魔力を抑えていたから。その負担を少し減らすだけで、元の実力が出せたんだと思うよ?」
そう言ってディオ様は笑っているけれど「ほら、見てごらん?」と言われて鏡を見た時に私の瞳が聖女を表す七色に変化していたのには、本当に驚いた。
さらに、いつの間にか世界樹を救うためにその身を犠牲に呪いを抑え続けてきた健気な聖女という称号までついてきた。
え……記録の改ざんってやつ怖い。
いや、確かに呪いを引き受けて世界樹を救おうとはしていたけど、改めて言われても困る。
「リアナがしてきたことが認められただけだ。でも、俺だけの女神でいて?」
ディオ様が、そう耳元でささやいてくる。もう、全部本当に思えてくる。
各方面への働きかけには、ライアス様と兄が協力しているらしい。
何をしでかしているんだ王太子と二大公爵家の嫡男たち……。
「権力には興味ないけど、こういう時は便利だよね?」
こともなげにディオ様は言っていた。
たしかに、三人は国家の権力最高峰だったよね……。
この三人が組んだら最強ってことをこんな風に証明してくれなくてもいいのに。
そして、私はディオ様を失って以来ずっと着ていた黒いドレスをもう着ていない。というより、ディオ様がドラゴンをさくっと討伐してきたお金で、たくさんドレスを買ってくれて、それをディルフィール公爵家の侍女たちに毎日とっかえひっかえ着せ替えられているのだ。
ドレスの中には黒はない。ディオ様が「リアナとともにある黒は俺だけでいいから」とさらっと赤面するようなことを言う。本当に慣れることができない。
それに、先ほどの会話のあとに世界樹の呪いの蔦は、あっという間にディオ様が賢者の石と自分の魔力で消し去ってしまった。
ディオ様がおかしいぐらい有能なのだが。聖騎士のポテンシャルなのか、それにしてもほかの人と違いすぎないかしら?
「あの日に泣いているリアナの姿を夢に見てから、この日のために強くなってきたからね?」
そう言ってやはりディオ様は天使のように笑った。
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