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二年目の文化祭
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夏が終わり秋が訪れようとしていた。ミルフェルト様のもとには毎日通っていたけれど、それ以上新たな発見が得られることはなかった。
そうしているうちに新学期、そう文化祭の時期になる。
去年に引き続き、私は生徒会活動のためあまりクラスの出し物に参加することはできない。
ちなみに今年はフローラも生徒会活動で忙しい。不満そうではあったけれど仕方ない。
私たちのクラスは劇をする。これは裏方でいいから是非参加して特等席で眺めたい。
しかも、配役がまた素晴らしいのだ。王子様役にライアス様。うん、そのままですけどピッタリです。
そしてお姫様役はなんと、マルクくんなのだ!
ライアス様は、生徒会活動が忙しいと一度は断ったが、周囲の強い要望に応えることになった。
「私も馬の役がやりたかったのに」
フローラが無念そうだ。
でも、ヒロインが馬の役はダメでしょ。
「生徒会のお仕事については、私たちに任せてぜひ劇を成功させてください。すごい期待してます!」
そうライアス様に伝えると、ものすごく心配そうな、かなり嫌そうな複雑な顔をした。
ちなみにゲームではこの展開はなかった。
ライアス様ルートで悪役令嬢がヒロインのお姫様役を奪おうと暗躍してくるが、何とかヒロインがお姫様役になるというストーリーだったのだけれど……?
(私だったらお姫様役よりも、魔女役のほうがやりたいけど)
悪役令嬢リアナとは趣味が合いそうもない。
✳︎ ✳︎ ✳︎
そして今日も少しだけ劇の練習を見学しに来た。
はっきり言ってマルク姫が可愛すぎて心震える。
当日はマルクくんを飾り立てるのが楽しみだと女子生徒たちが張り切っているから、相当期待できるのではないか。
しかし、マルクくんの瞳が相変わらず光を失っている気がすることだけが気がかりだ……。
「リアナ様」
「マルクくん、演技も美しさも素晴らしいです」
「本当のお姫様みたいな貴女にそんな風にほめられるなんて光栄です」
微笑んで見せるマルクくん。
このお姫様、私が魔王だったら思わず連れ去ってしまうに違いない。かわいい。
当日攫われたら大変だから、公爵家から護衛を連れてこよう。
兄が「当日休みとるからしばらく家には帰れない」って言っていたものね。兄に護衛してもらおう。
お姫様の姿のマルクくんと、護衛騎士の兄。どうしよう、なんだかひどく胸アツ展開ではないか。
「どうせなら、リアナ様がお姫様が良かったのではないですか?」
マルクくんが頬を少し膨らませて言う。
あざと可愛い。しかし、それではゲームシナリオをなぞってしまいそうなので、私としては出来るだけ避けたい。
魔女役の打診がきたら受けてしまったかも知れないけれど。
「マルクくん、当日すごく楽しみにしていますから」
「まあ、やるからにはきちんとやりますよ」
本当に楽しみだ。当日は何としても、舞台袖から観劇させて頂こう。
「ああでも……」
「え?」
「演技担当以外はみんな男女逆転の服装をすることになっているので、リアナ様もきちんと準備してきてくださいね。あとフローラ師匠にも伝えておいてください」
「え?聞いてない」
「良かった。伝わってなかったんですね?当日楽しみにしてますから」
なるほど。確かにそれならクラスメート全員で楽しむことができるかもしれない。
そういう決まりがあるから、ライアス様は、王子様役に選ばれというのもあったのかな?
さすがに、王太子の女装はまずいというのはさすがに私でもわかる。
アッシュブラウンにエメラルドの瞳のお姫様。見てみたかった気がするけど、さすがに不敬すぎるだろう。
✳︎ ✳︎ ✳︎
そして、待ちに待った文化祭当日。
私は、騎士団で借りてきた騎士服に身を包んだ。髪の毛は少し下目に一本でまとめる。
少し毛先だけ巻いたブロンドの髪も相まって、男装の麗人って感じだが、女性にしては背が高く、やや釣り目でクールな印象の見た目。我ながら男装が良く似合うと思う。
一緒に準備したフローラは、大きなすこし垂れ目がちの瞳。お揃いの騎士服に身を包んではいるが、同じ服を着ても男装という感じがしない。可愛いだけだ。
こういうところ、ヒロイン品質よね。
フローラは、ピンクブロンドの髪をポニーテールにまとめて、なぜかうるんだ瞳でこちらを見つめてくる。
「はわわ。リアナ様が素敵すぎる……今日一日お姉さまとお呼びしたいです」
「いいわ。お祭りですものね」
「――――お姉さま」
「フローラ、可愛いわ」
クラス全員がこんな感じならば、とても楽しいかもしれない。
今年はフローラと手をつないで登校した。ちなみに、兄は仕事が終わらずぎりぎりまで働いてから合流すると言っていた。
どうしてそこまで働くのか。兄が心配すぎる。
そして、通行人たちが時々こちらを見て歓声を上げている。まあ、確かにフローラの騎士服姿はとてもかわいい。
攫ってしまいたくなるが、フローラに関してはとても強いので、犯人を返り討ちにしてくれそうだから放っておいて大丈夫だろう。
✳︎ ✳︎ ✳︎
学園に着くと、なぜか学生たちまで騒めいて私たちから距離を置いた。
「……え?どうしたのかしら」
「……お姉さまが麗しすぎるからじゃないですか」
さすがにそれはないだろう。フローラが可愛いとからならわかるけど。
私たち二人は、手をつないだまま距離を置かれ広くなった校内を歩く。時々甲高い悲鳴と共に人が倒れているようだが、今日は暑いから水分をしっかりとった方が良いと思う。
「――普通の登校って概念はリアナにはないのか」
そう言って現れたライアス様は、王子様スタイルだった。
それ、もちろん自前ですよね?この間の肩に房飾りがあるのも素敵でしたが、軍服風の黒を基調にした王子様服も信じられないくらい似合いますね!
フローラから離れて、近くでまじまじとライアス様を見つめる。
なんだか、離れたところから私たちを見ていた学生から、すごい歓声が上がっているが何があったのだろうか。ライアス様がかっこよすぎるからなのか。
さすがメイン攻略者。罪なお人だ。
「こ……この、王子様と男装の騎士、禁断の二人の構図はちょっと目の毒ではないですか?!」
フローラが、何かモゴモゴ言いながら目を覆い隠して手の指の隙間からこちらを見ている。
「じゃあ、私はお兄様と待ち合わせしているから。またね?」
フローラをライアス様に預ける。ライアス様ルートなら、今年の文化祭では劇のキスシーンで本当にキスされてしまうのだ。
そういった意味では全く期待できなさそうな現実のヒロインと王太子。
今年こそきちんと進展を見せてほしいものだ。
少し離れてみると、なんだか仲良く話している男装をしたかわいいフローラと王子様然としたライアス様。これはこれで良い。心のアルバムにそっとしまい込んでおこう。
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