上 下
7 / 109

禁書庫の司書

しおりを挟む

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 放課後になると、ディオ様が教室まで迎えに来てくれた。わざわざ来ていただき申し訳ない。

 実は学園内の間取りは頭に入っているゲームの地図と同じことが分かったので、図書室待ち合わせでも大丈夫だったのだけれど。

 図書室でもよかったのに申し訳ない気持ちを伝えてみると「俺が早くリアナに会いたかったんだからいいんだよ」と微笑まれてしまった。逆に気を使わせてしまい恐縮した。

 禁書庫のカギは金色のハートの意匠でかわいらしい。鍵を開けて入ると閉め切られていたせいか中は少しかび臭かった。

「……ひさしぶり。ディオ。この春に生きているキミに会えるとは思わなかったよ」

「お久しぶりです。ミルフェルト様」

 禁書庫の中にはアイスブルーの髪と瞳をした幼女がいた。『春君』の世界でも、知識を高めるミニゲームでナビゲーターをしていたツインテール幼女ミルフェルト様だ。

「なるほど。そちらのご令嬢に移ったのか。……本当に忌々しい呪いだな。ん?なんだこれ?」

 ミルフェルト様がすごく近くで私を観察し始めた。可愛い。しかし引きこもりには、ご尊顔が近すぎて、刺激が強すぎます。

「ふーん。ご令嬢。運命そのものが呪いみたいな存在だな。初めて見たよ!おもしろいなぁ」

「あの……」

「理由はわからないけど、18歳で破滅する運命が幾重にも重なり合ってるな。これさあ、ひとつぐらい増えたって大して変わらないんじゃ?おもしろい。ボクに研究、させてくれる?」

 ミルフェルト様、ボクっ子だった!いや、もしかして、もしかしたら幼女ではない、ボクっ子どころか……そちらの線も捨てきれない!?

「あ、あのっ!私もミルフェルト様を研究してもいいですか?!」

「じゃあ、契約成立……なに、ディオ」

 ミルフェルト様が、紫の魔法陣を私に向けると、慌てた様子であいだにディオ様が割り込んでくる。

「リアナ、契約なんて軽々しくしてはダメです!」

「――――ボクの邪魔をするのかな?」

 目を細めたミルフェルト様。先程までの雰囲気と全く違う、すごい重圧感だ。

(あわわ!喧嘩売ったらいけない感じのお方なの?!そのことを分かっていながら間に入りましたね?!ディオ様?!)

「ふー。ま、君のことは気に入ってる。そんな必死な顔もできたんだね!面白かったから許してあげる」

 再び幼女の表情でニコニコするミルフェルト様。それと同時に、周囲を支配していた重圧も霧散した。
 もう騙されないんだからね!でも、やっぱりますます研究したい。

 これがギャップ萌えかしら。

「契約しないでいいからさ。たまに会いにきてよ。楽しい話の対価に、ボクも君の力になってあげる」

「はい!私にもミルフェルト様の楽しい話、いろいろしてくれるんですよね?!」

 ミルフェルト様が何度も瞬きをしている。ディオ様は、手のひらで顔を覆ってしまった。……何かおかしいこと言った?

「ふふふふ!純粋な魂。一体なにに目をつけられて、こんなことになっているんだい?いいよいいよ、君の力になりたくなった。対等な契約だ。これなら構わないだろ?ディオ」

「――――っ。ありがとう、ございます」

 さっきの契約となにが違うのかわからないけど、魔法少女になってとか言われてないし、楽しいお話が聞けてディオ様にも異論がないなら万事オッケーなんじゃない?

 今度こそ紫の小さな魔法陣を受け入れる。胸に吸い込まれていった魔法陣は、心臓に絡み付いていた呪いの蔦と一緒になった。

(んん?これはもしかすると一般的には呪いというのでは)

 ディオ様を見ると、仕方ないなって感じに微笑んでいたので、大丈夫なのだろう。たぶん。

「早速なのですが、禁書を見せていただけるんですよね?」

「ボクと契約した君なら、特別禁書中の禁書だって見せてあげる」

 ディオ様が息を呑んだ音が、隣の私にまで聞こえてきた。

「あ、ディオはそこで待ってて?リアナだけ特別なんだから」

「かしこまりました」

「さ、行こうよリアナ?」

「はい」

 禁書中の禁書ってなにかな!?少し楽しみになってしまった私は、ミルフェルト様に連れられて禁書庫のさらに奥へと足を進めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!

海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。 そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。 そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。 「エレノア殿、迎えに来ました」 「はあ?」 それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。 果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?! これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

召喚から外れたら、もふもふになりました?

みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。 今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。 すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。 気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!? 他視点による話もあります。 ❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。 メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋

処理中です...