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狼と恋の呪い 3
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仕事の送り迎えは馬車で、と騎士団長様は言うけれど、目立ちすぎるのは勘弁してほしいとお伝えして、徒歩で通っている。
馬車の方が誰にも迷惑を掛けなかったのではないかと、今さらながら気付く。
つまり、家を出てそれほど時間が経っていないにもかかわらず、すでに私はある種の事件に巻き込まれていた。
「……なあ。どうして屋敷の外にいるんだ?」
「……というよりも、フェンさんこそなぜ街中に普通に出没しているんですか?」
恐怖を抑えこみ、ため息交じりに私は口を開いた。
そう、私の真横を当然のように歩いているのは、フェンリス狼のフェンさんだ。
「うん? 数百年ぶりに出会った人族が、思いのほか興味深かったからかな」
「……」
今回は、緊急の通信手段を使っても意味がない。
巻き込んでしまうだけだし、強い者に目がない祖父はきっとフェンさんに戦いを挑んでしまうに違いない。
道行く人たちは目の前で楽しそうに笑っているのが、フェンリス狼だなんて想像もしないのだろう。
フードを被っていても隠しきれない人外の美貌の、白銀の髪と金色の瞳の美男子にひととき目を奪われては通り過ぎていく。
「それで、私が屋敷から出ることがなぜそんなにも興味深いのですか」
「ん? 俺の眷属になったなら、番を屋敷に囲って誰にも見せないのが普通の行動だ」
「……普通は、好きな相手を監禁などしないものです」
「かんきん、というのはよくわからないが、俺たちにとってはそれが本能であり当たり前だ。よくあの男は、制御しているな」
もしも、好きな人を監禁してしまうのが本能になってしまうというなら、それはやっぱり呪いという名前だろう。
けれど、騎士団長様はそんなそぶりを見せていない。
「……フェンさんには、番はいないのですか?」
「そうだ。だから、自由なんだ。お前と遊ぶのも楽しそうだな」
「っ……それは」
三日月型に細められた瞳に後退りたくなる。
けれど、逃げ出したら逆に追いかけられそうだ。
「……お、思ったよりも遅かったな」
次の瞬間、私の足は地面から離れ抱き上げられていた。
たくましい肩に、安堵とともに抱きつく。
「リリアーヌ、遅くなってすまない」
「……ごめんなさい。大人しく馬車で通うべきでした」
「いや、でもまさかこんなふうに接近してくるとは」
騎士団長様は、私を降ろすと背中にかばってくれた。
これからどうなるのかとことの成り行きを見守っていると、笑い声が上がる。
「まあ良い、とりあえずねぐらに帰るから挨拶に来ただけだ」
「……それは、ご丁寧に」
警戒を解いていない騎士団長様。
それはそうだろう。目の前の存在は、簡単に王都など破壊できるのだ。
けれど、彼が去る前にどうしても聞いておかなければいけないことがある。
「……待ってください!!」
「――――なんだ?」
先ほど前の笑顔が嘘のように、冷え冷えとした表情と雰囲気。それでも、これだけは聞かなくては。
「騎士団長様を元に戻すにはどうすればいいのですか?」
「……なるほど」
フェンさんは、騎士団長様の横をすり抜けると、私の耳元にそっと唇を近づけた。
「真実の愛」
「え?」
「つまり、ねんごろになれ、ということだ」
「!?!?!?」
呆然とする私の頬になぜか挨拶程度の口づけを落とすと、フェンさんは白い狼に姿を変えた。
『そうだな、お前たちの子が産まれたら、また会いに来る』
それだけ言うと、白い狼は私たちに背を向けて走り去っていってしまったのだった。
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