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狼と恋の呪い 1

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 そこからの話の展開は、早かった。
 気持ちを伝え合った私たちは、まず祖父に挨拶に行った。

 祖父はいそいそと、秘蔵のお酒を取り出してきてほろ酔い気分だ。

「それにしても、ディオルトはあきらめが悪かったな」
「仰るとおりです」
「それにしても、老いた身体に現役時代に近い労働は堪えた。そろそろ、儂は腰が痛いから休むかな」
「ご迷惑をおかけしました」
「婿殿のためだ、一肌脱ぐしかあるまい」

 しかし、私は王立中央図書館情報網で知ってしまった。
 祖父が、騎士団長代理として生き生きと新人騎士たちを鍛え上げていたことを。
 おかげで、騎士団の実践能力はものすごく上がったらしい。

「ディオルトが、騎士団に入りたいと儂に頭を下げてきた日が懐かしいな」
「ルードディア卿、その話は……」
「うちの孫娘が騎士功績学を専攻し、司書官を目指しているから、なんていう不純な動機ではあったが、努力と才能は素晴らしかった」
「えっ?」

 そんなのまるで、私が騎士功績学を専門にする司書官になりたがっていたから、騎士になったように聞こえてしまう。

「その耳と尻尾も、魔法で一時的程度なら理解できるが、まさか本当にな……」

 少し酔いが回っているのだろう。
 私に婚約しろという以外は、寡黙な祖父は妙に饒舌だ。

「ほかの婚約申し込みも山ほどあったが、全部邪魔してくるしな……」
「おやめください……」
「儂が妻を手に入れたときとよく似ている」

 チラリと見た騎士団長様の耳は、完全にぺたんこになってしまっている。

「そんなことひと言も……」
「断られたら生きていけない。君が仕事に打ち込んでいるのを良いことに、逃げていた自覚はある」
「……えぇ」

 それで、まさか神話級の魔獣に呪いを受けに行ってしまうなんて……。
 もしも騎士団長様に、求婚されていたら私は……。

「うーん。仕事を選んだかも?」
「……君ならそうだろうな」
「でも、狼耳と尻尾があってもなくても、騎士団長様のことは好きですよ?」

 だからといって、その耳と尻尾の呪いを解かないわけにもいかないだろう。
 騎士団長様は、王国の英雄で、武の象徴なのだ。

「……まあ、問題なかろう。その耳と尻尾については、王都に現れた神話級の魔獣を退けるために受けたという情報はすでに流しておいた」
「……それは」
「ふん。噂を肯定でもして、少しぐらい力になってやりなさい」

 チラリと目線を送れば、騎士団長様は物憂げな表情を浮かべている。

「そうですね……」
「ダメだ。リリアーヌ嬢に迷惑は」
「旦那様」
「……は?」
「求婚してくださって、私はそれを受けました。だから、迷惑ではないですよ」

 ガタリと椅子から立ち上がった祖父は、私たちに背中を向けた。

「さ、腰が痛むから寝るかな」

 そのまま去って行った祖父と、ぶんぶん揺れている尻尾。
 どちらかというと寡黙だと周囲に認識されている騎士団長様が、こんなに感情がわかりやすくては諜報活動や尋問の際困るだろう。
 やっぱり呪いを何とかして解かなくては……。

 ぶんぶん尻尾を振ったまま、騎士団長様が私を抱きしめてくる。

「……嬉しそうですね」
「悪いがこんなに反応してしまうのは、番と認識してしまった君の前だけだ」
「反応って……。何だか」
「ずっと好きだった君のことしか考えられないんだ。……まるで呪いみたいに」

 呪いだなんて、恋とか愛はそこまで悪いものじゃない。そう言おうとしたけれど、その言葉は口づけで阻まれてしまったのだった。

「結婚して、仕事する時間以外、ぜんぶ俺にくれないかな?」

 それは甘い束縛で、断れない私も呪いにかかってしまったみたいだ。
 小さく頷いた私を騎士団長様は、再び強く抱きしめたのだった。
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