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看病と告白 4
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「あの……。本当に大丈夫ですから」
「……君みたいな華奢で可憐な人が、病に倒れたら、目を離せないに決まっている!!」
「……えぇ」
私は中肉中背で、華奢ではないし、ましてや可憐とはほど遠い。
騎士団長様が、私を余命幾ばくもない重病人のように扱い過保護すぎるから、お手洗い一つ行くにも難儀しているのだけれど……。
――耳が完全にペチャンコだし、尻尾も完全に垂れ下がってしまっている。
こんな姿を見て、むげにできる犬好きなどいるだろうか。答えは、いない、それしかない。
「……喉が渇きました」
先ほどから、こちらをチラチラ見ながらうろうろしているので落ち着かない。
仕方がないので、お願いごとをしてみることにした。
「わかった! そうだ、霊峰シルビーティアの湧き水と氷を!」
「待って!! 私は、王都の普通のお水が大好きですし、あまり冷たいのは身体を冷やしますし」
「そ、そうか……。それもそうだな」
……危ないところだった。霊峰シルビーティアといえば、北端にある高山で、その場所の湧き水は聖水の原料になる。
資料によれば、フェンリス狼はその山に生息するという。
「……また、騎士団長様が三ヵ月近く王都を不在にするところだったわ……」
騎士団長様が持ってきてくれたお水は、ものすごく高価そうなクリスタルの器に入っていて、手が震える。
こんなものを何気なく出してくるあたり、本当に彼は侯爵家のお方なのだと再認識する。
「……美しいグラスですね」
「ああ、初代国王が最愛の王妃に贈った器らしいな」
なるほど……。そう言われれば、文献で見たことがあるかもしれない。ずいぶん精巧なレプリカだ。……レプリカだよね?
「あの、騎士団長様こそ体調は」
「問題ない」
「……嘘つきですね」
「え?」
私はこの三日間過保護すぎる看病を受けて、熱も下がって元気だ。
けれど、日に日に騎士団長様は、憔悴していっている。無理をしているのは明らかだ。
「眠れないのですか?」
「……この姿になってから、君が恋しくてしかたがないんだ」
「え?」
そういえば、私を抱きしめて眠って以降、騎士団長様は夜は別室に行く。
ちゃんと眠れていないのだろうか、色濃く浮かんだ隈をそっとなぞる。
「……狼の魔獣は、生涯番とともに暮らすらしいですね」
「……らしいな」
自分にとって唯一の存在を愛し、そばにいて、いなくなれば片割れも命を失う。
ずいぶんロマンチックなのだな、と思っていたけれど……。
――狼耳と尻尾、そして八重歯に嗅覚。呪いは騎士団長様を作り替えてしまった。……そして。
「……本当に、なぜそこまで」
魔獣がかける呪いの存在を私は資料から知っているだけだけれど、騎士団長様は本物を目にしてきたはずだ。
だから、耳と尻尾だけのはずがないなんて、もちろん理解していただろう……。
「寒いです」
「えっ!? 今すぐ暖炉を最高の火力に!! いや、暖かい服と布団を用意……。え?」
引き寄せて、抱きしめれば、屈強な騎士団長様は、あっけなく私のなすがままになって、ベッドに倒れ込んだ。
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