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看病と告白 1
しおりを挟む倒れ込んでいる騎士団長様に走り寄り、膝をつく。呪いが進行したのだろうか、だとしたら命に関わる恐れもある。
「騎士団長様!!」
「ん……。リリアーヌ嬢」
うっすらと開けられた金色の瞳は、なぜか潤んでいる。
そっと額に触れてみると、火傷しそうなほど熱かった。
「酷い熱です……。とにかくベッドに」
「行かないでほしい」
「え?」
「ほかの人間の婚約者になるなんてダメだ」
「……騎士団長様、私は今、あなたの」
婚約者だと言いかけて口をつぐむ。
ふらり、と起き上がった騎士団長様は、膝立ちになり、私に抱きついてきた。
苦しそうな息づかいと、灼熱の身体。
早く休ませてあげなくてはと、気持ちばかりが焦る。
「リリアーヌ嬢が俺を見てくれるのなら、何にだってなるから。……騎士にでも、犬にでも」
「……犬ではなく、犬耳です」
この国を守護する騎士団長様が、犬になってしまったら王国存亡の危機だ。
それに、私が言ったからと犬になるだなんて、少々聞こえが悪い。
「はは……。結果、狼にしかなれなかったが」
「……」
熱に浮かされているのだろうか。
呂律が回っていないような言葉に、きっと意味なんてないのだろう。
それなのに、なぜか狼耳になっただけでなく、騎士になったのまで私のためだったかのように聞こえてしまった。
そんなはずないと首を振り、とにかく部屋で休んでもらおうと決める。
「ほら、立ち上がって部屋に行きましょう」
「……ん、すまない」
そのまま、ゆっくりと立ち上がり、部屋まで一緒に歩く。そこで、ベッドに倒れ込んだ騎士団長様にブランケットを掛ける。
「冷やすものを探してきますね」
「……行かないで、リリアーヌ」
「え……?」
明かりをつけていない薄暗い部屋の中で、茂みの中に潜む野生動物のように金色の瞳だけが輝いている。
その瞳にまるで全身を支配されてしまったように動けなくなった私の手首が掴まれ、引き寄せられた。
「ほかの誰かのところになんて行かないで、そばにいて」
「……ほかの誰かのところになんて」
そのままなぜか、騎士団長様はブランケットをはねのけて、さらに強く引き寄せてくる。
気がつけば、ベッドの上で強く抱きしめられていた。
「離れて行かないと、約束してほしい」
「……大丈夫です。そばにいますよ」
高い熱のせいで、不安になってしまったのだろうか。まるで、飼い主のそばにすり寄って眠りたがる愛犬のようで、こんな状況にもかかわらず、騎士団長様のことが可愛く思えてしまう。
そっと頭を撫でれば、私の指先が掠める度に、ピクピクと動く狼耳。
その柔らかさに触れたいと、自然と指先が伸びる。
「ずっと、こうしていたい」
「騎士団長様」
「……君のことが、好きなんだ」
「えっ?」
その言葉の真意を確かめようとしたけれど、騎士団長様はまぶたを閉じて眠ってしまった。
そして、その夜私は、騎士団長様に抱きしめられたまま、一晩過ごしたのだった。
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