婚約の条件を『犬耳と尻尾あり』にしたところ、呪われた騎士団長様が名乗りを上げてきました

氷雨そら

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狼の呪いと泊まり込み 3

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 翌朝、今度は私が朝食を作った。
 もちろん、子爵家である我が家にも使用人はいるから、料理する機会は少ない。
 けれど、私の祖母はよく料理する人だった。
 祖母の故郷の料理だという煮物や少し変わったピクルスが祖父の大好物だったから、私も時々料理をしていた。

「手際が良いのだな」
「そうでもないですよ。味の保証もできないですし……」
「君が作ったものなら、どんなものでもごちそうだ」
「……いつもそんなことばかり言っているのですか?」

 騎士団長様は、さぞや女性にもてるに違いない。
 寡黙だと思っていたけれど、こうして一緒に過ごしていると騎士団長様はことあるごとに相手を褒めて、案外饒舌な人だった。

「……リリアーヌ嬢にだけだ」
「……ふふ、ありがとうございます」

 視線をそらして、煮物が煮えたかを確認する。
 味見をしてみれば、思い通りの味が出せていた。

「どうぞ」
「……リリアーヌ嬢が作った朝食が、食べられるなんて、明日死んでも悔いがない」
「この程度の食事で死なれては困ります」
「そうだな。君も仕事で忙しいことは理解しているが、たまには作ってくれると嬉しいな」

 その言葉に驚いて顔を上げる。
 薔薇をもらったときも、見つめられたときも、心臓の鼓動が痛いほど高まった。
 けれど、今の言葉は心臓を鷲づかみしてしまうほどの衝撃を私に与えた。

「あ、あれ……?」

 みるみる顔が熱くなっていく。今の言葉は、ズルい。
 まるで、ずっと一緒にいたいと言っているように聞こえてしまった。
 絶対に真っ赤になってしまったであろう頬を騎士団長様に見られたくなくて、慌てて下を向く。
 そんな私の様子に気がつくことなく、騎士団長様は珍しい煮物やピクルスを味わっているようだった。

「……東方の味付けに近いな」
「――調味料がそろわなかったのに、よくわかりますね」
「ああ、遠征で食べた料理によく似ている」
「……亡くなった祖母は、東方出身だったのです」
「そうか……。そういえば、ルードディア卿から奥方が東方出身だと聞いたことがあったな……」

 騎士団長様は、その体格から想像するとおりよく食べるようだ。
 ここまで、嬉しそうに、美味しそうに食べてもらえたら、作りがいもあるというものだ。

「よろしければ、呪いが解けるまで毎日作りますよ」
「そうか。永遠に呪いが解けないと良いな……」
「はあ、冗談でもそういうことを言ってはダメです」
「……本気だ。それに、この呪いは」
「え?」

 立て続けに3回続いた騎士団長様のくしゃみで会話が中断される。

「……何でもない」
「風邪ですか?」
「……問題ない」

 下を向いて、残った食事を全て平らげた騎士団長様の耳が揺れている。
 確かに、その耳はとても可愛らしいから、もしかすると騎士団長様も気に入っているのかもしれない。

 ――いや、それはないわよね。自分の姿が変わってしまうなんて……。

 もしかすると、私を心配させないための配慮なのかもしれない。
 そんなことを思いながら、私はゆらゆらと揺れる尻尾を見つめたのだった。
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