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狼の呪いと泊まり込み 2
しおりを挟む壁際まで後退った私に、バサリとマントが被せられる。
しゃがみ込んだ騎士団長様が、金色の瞳で私を見つめた。
「風邪を引く、シャワーを浴びてきなさい」
「騎士団長様こそ、びしょ濡れです」
「鍛え方が違う。風邪を引いたこともない」
「……でも」
「ほら、早く」
前髪から雫がこぼれ落ち、濡れたシャツが透けて大胸筋があまりにも色っぽい。
直視するのが辛すぎて、私はお言葉に甘えてしまった。
――あとで、ものすごく後悔するとも知らずに。
出来るだけ急いで、もう一度出してもらったシャツに着替えて、濡れてしまったズボンを干す。
結局のところ、私は騎士団長様のシャツだけを着ているという、あられもない姿になった。
「……とりあえず、魔法で乾かすか」
「その前に、シャワーを浴びてきてください」
「目のやり場に困るんだ!!」
そう言うと、騎士団長様は、自分のことを後回しにして、借り物のズボンを乾かしてくれた。
そして、くしゃみをひとつすると、バスルームへと消えていった。
騎士団長様がシャワーを浴びている間、貸してもらったペンにインクをつけ聖水と書いた文字の横にバツをつける。
あと、呪いを解く一般的な方法といえば、神殿で神官の祈祷を受けることだろう。
けれど、もう夜遅いから、明日にならないと試すことができない。
「あとは、騎士団長様が元々持っている加護の力を強めるか……。あるいは、誰かに呪いを移すか」
「……リリアーヌ嬢」
「騎士団長様?」
「食事にしようか」
シャワーを浴びてきたのに、やっぱり騎士団長様の髪からは、雫がこぼれていた。
「拭けていませんよ?」
「そうか? 耳が乾かないのかな」
「……いいえ。髪の毛がびしょびしょなのだから、そこはあまり関係ないと思います」
近づいて、腕を思いっきり上に伸ばして、髪をゴシゴシと拭く。
耳が痛くならないように気をつけつつ拭いている私を何か言いたそうな顔をした騎士団長様が見下ろす。
「どうしましたか?」
「ん……。こんなことを誰かにしてもらうのは、子ども時代以来だな、と」
「ちゃんと拭けていないのですから、いつでも拭いてあげますよ」
「そ、そうか……」
顔を背けた騎士団長様の頬は赤かったけれど、そのときの私は、シャワーを浴びたせいかな、と思っただけだった。
――呪いを受けると、それだけで体に大きな負担がかかる。
「使用人が不在だから、パンとベーコンと目玉焼きくらいしか出せず申し訳ないが」
「騎士団長様が、用意してくださったのですか?」
「俺と君しか、いないからな」
騎士団長様が作ってくださった食事は、シンプルだけれどとても美味しかった。
――いつもなら問題ないことでも、弱った体では耐えられない、そんなことにも気が付かないまま、私は用意してもらった温かい食事を食べて、案内された客室で布団を被る。
そして、騎士団長様が遠征から帰ってこないことが心配で、最近よく眠れていなかったこともあり、久しぶりにぐっすり眠ったのだった。
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