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第4章
エピローグ
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「大丈夫ですか、聖女様!」
よろめきながら、駆け寄ってきたレナルド様に、なんとか頷くのが精一杯。抱きしめてきたレナルド様諸共、地面に倒れ込む。
隣では、ロイド様とミルさんの二人が、同じ現象を起こして、地面に倒れ込んでいた。
力を使い果たした私たちは、助けに来てくれたビアエルさんと冒険者、騎士たちに回収された。残りの魔獣も、倒され、王都に平和が訪れた。
王都の街並みは、残念ながら破壊されたけれど、私の大事な人たちは、みんな無事だった。
騎士たちや、冒険者の中には、重傷を負った人たちもいたけれど、目が覚めた私が、回復魔法をかけて回っている。
「聖女様、参りましょう?」
不思議なことに、私は魔人がいなくなっても、聖女のままだった。
つまり、レナルド様は、私の名前を呼ぶことができない。誰一人、私の名前を呼ぶことは出来ない。
「レナルド様、私の名前を呼べないままなんですね」
でも、はじめて会った時のような、絶望感なんて一欠片もない。今なら笑顔で、そう言える。
「……俺の聖女様。あなたは、俺だけの聖女様ですので、たとえ名が呼べずとも、もう構いません。それとも、愛しいハニーとでも、お呼び致しましょうか?」
「ひぅ?!」
「冗談です。愛しい人」
レナルド様は、俺の、愛する、愛しい、という言葉を連発する。恐ろしい攻撃力の高さだ。
「ところで、シストはあの時」
私の左肩上では、なぜか封印の箱が、今日もクルクル回っている。終わりだと言っていたのに。
目が覚めてすぐ、泣きながら、箱を拾い上げたところ、なぜかふわふわ浮かんで、シストは定位置に収まった。
『僕の聖女に逢えるって、夢で見たから。まだ、終わりにしないって決めた』
「僕の、聖女? だって、もう異世界の扉は閉められて、新しい聖女は来ないんじゃ」
シーンッと、シストが黙り込む。
また、制約というもののせいで、喋ることができないのだろうか?
『でもさ、レナルドはもう気がついているんじゃないの』
「何のことでしょうか。俺は、愛しい妻と娘は、邪な獣から守り抜きますよ?」
『ほらぁ。君の息子になるのは大変そうだ』
「……俺は、強すぎる魔力で、生まれる時に母を死なせた。だからこそ、家族を守り抜くと決めていますので」
『ん、魂の片割れの乙女と、幸せにね?』
レナルド様を、幸せにしたいと、改めて思う。
そういえば、魔人はレナルド様のことを、聖女の何だと言っていただろうか。よく聞こえなかったのだけれど。
『異世界から聖女はもう来ない。でも、聖女がもう生まれないなんて、誰も言っていない。初代聖女も言っていた、異世界から聖女が来ない世界が来たらもう一度会おうって』
リボンがついた、プレゼントの箱は、私の左肩上で、今日もクルクルと回っている。視界の端に、箱が映っていないと落ち着かない。慣れって恐ろしい。
そして、レナルド様が、箱を見つめる氷点下の瞳も、相変わらずだ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
数年後。生まれた少女は、黒髪にラベンダーの瞳。この世界で生まれた、聖女の称号を持つ初めての少女。
そして、その隣には、いつでも可愛らしい白い子猫が、近づく人間を威嚇する。
子猫と少女は、いつもお揃いの赤いリボンを身につけている。
ついでに、極彩色の二匹のスライムも、聖女のそばを、離れることなく飛び回る。
『ね? レナルド頑張って、一万匹の魔獣を倒してよ。あと少しでしょ? 僕らの仲でしょう?』
シストが、元の姿を取り戻すには、魔力で繋がるレナルド様が、魔獣を一万匹倒す必要があるらしい。
「どうして、可愛い娘を奪おうとする邪な獣のために、俺が魔獣を倒さなくてはいけないんですか」
そんなことを言いながら、魔獣を倒し続けるレナルド様は、律儀にも倒した数を記録している。今日までで、3003匹倒したらしい。
この調子なら、新たな聖女が大人になる前に、達成できそうだ。
守護騎士の名前を返上したレナルド様は、今は周囲に英雄様と呼ばれている。カッコいい。
王国には、新しい王がたった。王都もようやく再建した。なぜか、王都から逃げ出した王族と一部の高位貴族の行方は、わからないままだった。
そして、もう、私の世界から、聖女が来ることはない。少し寂しいけれど、仲間と愛しい旦那様がいるから私は幸せだ。そして、愛しい娘も。
聖女の称号は、一つの時代に一つだけ。
聖女を引退した私は、魔女様と呼ばれている。
今は、旦那様とシストだけが、私の名を呼ぶことができる。
「愛しい俺の奥さん、愛しい。……リサ」
「レナルド様、理沙でいいので、愛するとか付けないでほしいです」
なぜか、名前を呼ぶことができるのに、レナルド様は愛しい俺の、という言葉がお気に入りだ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
愛する娘は、周りから聖女様と呼ばれる。
私より力が強いせいか、私は、名前を呼べないのに、白い子猫だけが『僕の真奈』と、彼女の名前を幸せそうに呼ぶのだ。彼女が言葉を喋り、全てを思い出す、再会の日を夢見て。
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