【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら

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第4章

これが本当の初めて

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 魔獣で溢れかえる、崖下の荒野。
 こんなにたくさんの魔獣、見たこともない。
 翼竜で、空は影が差すみたいだし、地上には全ての種類の魔獣が、勢揃いしていそう。

 それでも、探している人の姿は、直ぐにわかる。
 赤いリボンで繋がれた、私たちの小指。
 私たちが、聖女と守護騎士ではなくなっても、まだ、繋がっている。

 フワリと風になびくリボン。
 本当のリボンじゃない、それは魔力の繋がり。

「レナルド様!」
『このまま、下に降りたら死ぬけど』
「シスト、聖女に戻るには、どうすればいいの?」
『……名前を捨てればいい。僕にも呼ぶことができないほど』

 理沙という名前が、聖女の力に関係することは、なんとなく分かる。でも、具体的にはどうすればいいのだろう。

『愛しい僕の聖女。彼女の名は、もう、僕も呼ぶことができない。それでも、確かに彼女は存在した。だから、名前をなくすことを、怖がることはない…………。僕の可愛い聖女様、君の力になりたいんだ。さあ、願いを言って、僕に名前を預けて』
「シスト、私はレナルド様と一緒にいたい。それに、仲間を守りたい」
『良いんじゃないかな。僕は、君のその考え方、結構好きだ』

 桃色の魔力とともに、戻っていく、ステータスの聖女の文字。

「レナルド様は、守護騎士じゃ、なくなったままなの?」
『レナルドは、聖獣であることを捨てた僕と同じだ。君はたった一つを選べないけど、レナルドは一つしか選ばない』
「……私のため?」
『愚かだと、笑えば良い』

 笑えるはずがない。
 誰かのために必死になっているのは、私もレナルド様も、シストも変わらない。

『とりあえず、好きだと伝えてきたら?』
「シストは、これからどうするの?」
『もちろん、僕は君と一緒だ』

 なぜか、むしろ力は、聖女ではなくなる前より、強くなっている。
 私の体は、もう一回粒子になって、レナルド様の元に、赤いリボンに引き寄せられるように移動する。

 荒野の熱い土の上に、足の裏がつく感触が、一番初めに感じられる。それから、体が再構成されていく。

 音と匂い、そして最後にレナルド様の背中が見えてくる。

「……聖女様、どうしてですか」

 背中を向けたままの、レナルド様が、手の色が白く変わるほど強く愛剣を握りしめる。

 桃色の魔力が、私たちの周囲をグルグルと取り巻きながら、渦巻きみたいに広がっていく。取り囲まれる、魔獣はこの中にしばらく入ってこれない。

 折り重なるような魔獣の屍と、血の匂い。
 白い正装を赤く染めるのは、魔獣の血? それともレナルド様の?

 こちらを向いてくれない、俯いたままのレナルド様。その正面へと回り込む。

「レナルド様は、私と私の名前、どちらを選ぶんですか」

 ラベンダー色の瞳が見開く。私の大好きな色だ。初め、この世界に来た時、あまりに綺麗なその色を、不躾だと思いながら、何度も盗み見た。

「聖女様……」

 そんな顔、しないで。
 レナルド様には、笑っていてほしい。
 だから、一人にはしない。

「…………好きです。世界で一番」

 初めてのキスは、塩辛かったし、人命救助に近かった。やっと出来た、初めての告白にしても、あまりに趣がない。この世界には、黒と金色をした有名な湖も、シュワシュワ音を立てながら散るソーダみたいな花もあるというのに。

 いつか、レナルド様と、もう一度見たい。

 レナルド様から、返答はない。

 私は、回復魔法を唱えながら、レナルド様の首に腕を絡める。レナルド様の髪の毛の色と同じ、薄水色のドレスだけは、私の憧れる告白場面にピッタリだ。

 背伸びした私と、少し屈んだ背の高いレナルド様。申し訳ないけれど、過去2回のキスは、カウントしない。
 だから、これが。この、強く抱きしめられて、泣きたくなるほど甘く柔らかいのが、私の初めてのキス。

 なぜか、今回も少しだけ塩辛い。

 聖女の初めては、特別な意味を持つ。
 初めての告白のせいか、私の足元に浮かぶ、桃色と黄色に彩られた、可愛らしい魔法陣。

 魔法陣の真ん中に光るのは、聖女を表す暁の一番星。魔法陣に描かれた、近くて遠い、月と太陽みたいな私たち。

「名前を呼んでくれなくてもいい。そばにいて」

 暁の光の中で、ほんの一瞬だけ、世界にたった二人きりになったような気がした。
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