【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら

文字の大きさ
上 下
9 / 33
第2章

まさか、聖女のキスにそんな副作用が 1

しおりを挟む


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 私は、三日三晩意識を失っていたらしい。
 離れることなく、看病してくれていたミルさんが、涙ながらに教えてくれた。

「……レナルド様は?」

 寝ている間に、魔力は回復したらしい。
 ヨロヨロと私は、ベットから起き上がる。
 あの時、呪いのせいで、私以上に限界だったのは、レナルド様の方なのに。守護騎士様は、相変わらず無理をする。

 ここ数年、いつでも近くにいてくれた、その姿が見えないせいで、嫌な予感が胸を占める。

「レナルドは、無事よ? 安心して休んでいなさい」
「っ……無事なら、どうしてここに、いないんですか?」
「……私が、嘘ついたことある?」
「……ないです」

 ミルさんの発した、その問いに関する正確な答えは『ない』ではなく『出来ない』だ。

 魔法使いとしての力には、制約がある。
 強大な力を使うことができる代わり、ミルさんの場合、嘘をつくことが出来ないらしい。

 そのことを、以前そっと教えてくれたミルさんに、「どうしてそんな大事なこと私に」と聞いたら、「信頼がほしいから」なんて答えが返ってきて、号泣したのは記憶に新しい。

「……じゃあ、どうして」

 私がつぶやくと、長いため息のあと、ミルさんはカーテンにそっと隙間を作った。

「黙っていても、いつか分かることね。……見てみなさい」
「あ……」

 私は、慌ててカーテンを閉め直す。
 今いる部屋は、三階らしい。
 目の前には、大きな庭があるけれど、その先にある門の前に、たくさんの人が集まっているのがみえたから。

 遠目にも分かるほど、どの人の顔も、険しい。
 
「あちらは、レナルドに任せておけば良いわ。ところで……」

 胸を揺らしながら、ガバリとミルさんが、私のベッドに体を乗り上げてきた。

「み、ミルさん?!」
「これは、一体どうしたことかしら?!」

 妙に興奮しているミルさんと、理解の追いつかない私。二人で、ベットの上で見つめ合う。
 どういう状況なのだろうか、これ。

 でも、よく見るとミルさんの視線は、私ではなく私の少し横に逸れているようだ。

「…………にゃ?」

 私の左肩上には、もう封印の箱は浮かんでいない。だって、封印の箱シストは……。
 そうやって、毛繕いしている姿は、首に赤いリボンを巻いた、ただの白い子猫みたいだけれど。

「かわいいわぁ!」

 ミルさんが、猫好きだなんて、知らなかった。
 シストを愛でるミルさん。
 その時、勢いよく扉が開いた。

「リサ!」

 弾丸のように、飛び込んできた人は、確かにレナルド様だ。でも、何だろう、この違和感。

 そろりとミルさんは、起き上がり、名残惜しげにシストを一瞥すると、なぜかレナルド様に「ちゃんと伝えなさいよ?」と、言って部屋を出ていく。

「リサ……。目が覚めて、よかったです」

 ぎゅっと、レナルド様に抱きしめられる。信じられないくらい、良い香りがする。

 急に近づいた距離感。私の頬は、誰がみても分かるくらい、紅潮しているに違いない。

 そうだ、名前。

「レナルド様? 私の名前……」
「ああ、やっとリサの名前を呼ぶことができる」
「え?」
「ずっと、こんなふうに名前を呼びたかったんです。気がつきませんでしたか?」

 気がついてない。たしかに、この世界に来てから、私の名前が呼ばれたのは、守護騎士の誓いを立ててくれた時、レナルド様に呼ばれた、ただ一回だけだった。
 その後から、三日前の事件まで、私の名前を呼ぶ存在は、シストしかいなかった。

 そういえば私、聖女では、なくなったんだ。

 今まで自然と使うことが出来た、魔法の大半が発動できなくなっている。治癒魔法だけは、何とか使えるみたいだけれど。

 それは、確かに聖女という称号が失われてしまったことを意味している。

「……外に集まっている人たちは」
「そんなことより、婚約して下さい」

 そんなことって、たぶんあの人たち、私が聖女じゃなくなったこととか、魔神が現れたことで、押しかけてきているんですよね?
 この場所がどこなのか分からないけれど、間違いなくレナルド様には、多大な迷惑をかけているに違いない。

「そんなことって。…………ところで、今さっき、なんて言いました?」
「リサ、俺と婚約して」

 聞き間違いではないらしい。それに、私を見つめて少し目元を赤くした、美貌の騎士様。
 吐息がかかりそうなくらい、距離が近い。

 いつもと全く違うレナルド様の様子と距離感、その言葉に、自分が置かれた状況も忘れるくらい、私の頭の中は、真っ白になるのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

奏音 美都
恋愛
 ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。  そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。  それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【短編】隣国から戻った婚約者様が、別人のように溺愛してくる件について

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
転生したディアナの髪は老婆のように醜い灰色の髪を持つ。この国では魔力量の高さと、髪の色素が鮮やかなものほど賞賛され、灰や、灰褐色などは差別されやすい。  ディアナは侯爵家の次女で、魔力量が多く才能がありながらも、家族は勿論、学院でも虐げられ、蔑まされて生きていた。  親同士がより魔力の高い子を残すため――と決めた、婚約者がいる。当然、婚約者と会うことは義務的な場合のみで、扱いも雑もいい所だった。  そんな婚約者のセレスティノ様は、隣国へ使節団として戻ってきてから様子がおかしい。 「明日は君の誕生日だったね。まだ予定が埋まっていないのなら、一日私にくれないだろうか」 「いえ、気にしないでください――ん?」  空耳だろうか。  なんとも婚約者らしい発言が聞こえた気がする。 「近くで見るとディアナの髪の色は、白銀のようで綺麗だな」 「(え? セレスティノ様が壊れた!?)……そんな、ことは? いつものように『醜い灰被りの髪』だって言ってくださって構わないのですが……」 「わ、私は一度だってそんなことは──いや、口には出していなかったが、そう思っていた時がある。自分が浅慮だった。本当に申し訳ない」 別人のように接するセレスティノ様に困惑するディアナ。  これは虐げられた令嬢が、セレスティノ様の言動や振る舞いに鼓舞され、前世でのやりたかったことを思い出す。 虐げられた才能令嬢×エリート王宮魔術師のラブコメディ

処理中です...