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第1章
聖女召喚されましたが、中継ぎらしいです 5
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聖女召喚されてから、2年の月日が過ぎた。
その間も、魔獣討伐に出かけたり、流行病の調査と治癒に出かけたりと、忙しく過ごしていた。
むしろ、忙しく遠征をしていれば、王宮にいなくて済むことに気が付いてからは、精力的に働いている。
そして、今日は王都から馬で二日ほどの距離の村に起こった流行病の調査に来ている。流行病の調査のため、私とレナルド様だけで村を訪れた。
パーティーメンバーは、王都で待機している。
「レナルド様のこと、付き合わせてしまって申し訳ないのですが……」
「王宮も、貴族社会も、息が詰まります。聖女様の守護騎士になれたこと、人生最大の幸運だったと思っています」
レナルド様は、時々大げさだと思う。でも、嫌われてはいないように思う。まあ、これだけ素敵で完璧な騎士様だ。勘違いしないようにしよう。
改めて、レナルド様を観察してみる。薄水色の髪の毛は、遠征続きでもツヤを失うことがないし、ラベンダー色の瞳は、見つめられるとドキッとするほど美しい。
「……レナルド様なら、騎士団でいくらでも出世できたのに」
それに婚約だって、たぶん私のせいで、出来ていない。
ポツリとつぶやいてしまった言葉は、私の本心だ。申し訳ない気持ちで、いっぱいになる。
でも、レナルド様がいなくなってしまったら、この世界で私は途方に暮れてしまうに違いない。
そんなことを言ってしまってから、失言だったと気がついた。なぜか、レナルド様が、とても悲しそうな顔をしたから。
左肩の上で、くるくる回っている封印の箱、シストが『今のは、レナルドが気の毒すぎる……』と言った。確かに、こんなにも付き合わせておいて、配慮がない言葉だった。
「あっ、あの! ごめんなさい! 私、レナルド様に頼ってばかりで、レナルド様が、いてくれないと全然ダメで!」
「……俺がいないと、聖女様はダメなんですか?」
「っ……もちろんです。いないと、たぶん途方に暮れてしまうから。だから」
その瞬間の、レナルド様の顔を、たぶん私は、一生忘れることができない。
なぜか、とても嬉しそうに微笑んだから。
「……聖女様のお側に、いさせて下さい。ずっと」
「え? ずっとですか?」
侯爵家のこと、騎士としての誇り、そして結婚。
レナルド様には、これからたくさんの幸せが待っている。だから、ダメだと伝えないといけないのに。
『難しく考えなくて、良いと思うな。僕は』
相変わらず、私の左肩の上で、グルグル回っている、シストが私の耳元に囁く。
「そうです。ずっと……。聖女様が許してくださる限り」
私としては、大歓迎なのだけれど。
でも、やっぱり、色々考えてしまうのは、どうしようもなくて、複雑な顔になってしまう。
「……うれしいです」
「そうですか」
素気ない返事。でも、なぜかレナルド様は、もう一度口元を緩めて微笑む。
その顔を見つめて、今度こそ私も微笑んだ。
中継ぎだからこそ、忙しくても穏やかに過ごせるのだと、私はほんの少し、自分が置かれた状況に感謝した。
『今のうちに、幸せを味わって』
シストの、本当に囁くような言葉は、高鳴る心臓に打ち消されて、私の耳には届かないのだった。
平和を壊してしまう、足音は、すぐそこまで近づいてきていたのに。
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