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二人だけの時間 1
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なぜか、フワフワする足元。
疲労のせいなのか、緊張から醒めたせいか、体が熱くなっていく。
「どうした? 左足を痛めたか」
「え?」
「少し、引きずっている」
急遽準備をしたヒールの高い靴が、足に合わず、ティアーナは、靴擦れを起こしていた。
「……これくらい、なんともありません」
未来視のみを必要とされてきたティアーナは、ヒールの高い靴を履いたことがあまりない。
それに、ちょっとしたケガは、自分で処置をしていた。
公爵家令嬢ミリティアのほうが、よほど姫君らしい生活をしていたくらいだ。
「なにを言っている。傷が化膿でもしたらどうするつもりだ」
「……過保護なところは、変わりませんね」
「……っ、そろそろ、話してくれないか」
「ええ……。っ、ひゃ!」
次の瞬間、横抱きにされて、ティアーナは、必死にライハルトのたくましい肩にすがりついた。
とたんに香るのは、どこか大人びた針葉樹の香りだ。
クラクラする香り。そんなところまで、月日はライハルトを変えてしまった。
「好きですよ」
「……ティア」
抱き上げられたまま、厚い胸板にすり寄った。
幼馴染みのような二人の距離より、きっと今の方が近いに違いない。
「あ、ここは……」
未来視を見たあとに、この場面だったのだと気がつく瞬間、今まさにそうだ。
「ライハルト様……」
「この部屋を、覚えているか……」
「…………」
「そうだな。そんなはずないのに、馬鹿なことを聞いた」
そのまま、ライハルトはティアーナをベッドに腰掛けさせ、床に膝をついた。
「王弟殿下が、床に膝をつくなんて……」
「はは、そんな言葉すら、彼女の言葉に聞こえてしまうなんて、頭がおかしくなったのか」
脱がされたハイヒール。
華奢なその足を、そっと持ち上げて、ライハルトが顔を近づけていく。
「ライハルト様」
「黙っていて」
するりと脱がされたストッキング。
救急箱を持ってきたライハルトは、手慣れた様子で、傷を処置した。
ライハルトには、他意は無いのだろうが、素肌に手が触れるたびに、ティアーナの体はピクリと震えてしまう。
「んっ……」
浅く速くなる呼吸、淡く紅色に上気した肌。
思わず、ライハルトは、平常心を保つために顔を背けた。
「ライハルト様……。どうしましょう、私、なんだか体がおかしい」
「……ああ、先ほど陛下から賜った杯。……そういうことか」
国王陛下は、ライハルトだけに、言葉をかけていた。
『二人の御子は、ロンド王国の血と、我がバラント王国の血を継いだ、彼の国の正当な後継者だ。務めを果たせ』
ライハルトは、ため息を一つついた。
「これは、放っておいて落ち着く類いの熱ではない。俺に任せなさい」
「ライハルト様、私、言わなければならないことが」
「……想像通りなのだとしたら、今聞いたら、歯止めが利かなくなる気がするから、やめてもらえないか」
その意味が、全くわからないほど、ティアーナは子どもではなく、かといってすべてわかるほど、大人でもない。
「……は。ずいぶん強力なのを飲まされたようだ」
そういえば、杯をあおったのは、ティアーナだけではなかったのに。
すでに熱に浮かされて、ぼんやりしてしまった思考と、潤んだ瞳のまま、ティアーナは、ライハルトを見上げた。
「……っ、もう気がついているでしょう? ライハルト様! だって、あなたが私のこと、見つけてくれないわけないもの」
「悪い子だ……。今は、聞かないと言っている」
「どうして……」
「まだ、帰ったら伝えようと思ったことを、伝えていない」
ライハルトが、足首からもどかしいほどゆっくりと撫で上げる。
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