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二度目の婚約だなんてあなたは知らない 2
しおりを挟む「もう、大丈夫ですから」
「そうか……。夕食は届けさせよう。あなたは、ゆっくりと休むように」
「お心遣い、感謝します」
ライハルトが、ティアーナが泣き止んだのを確認して、部屋を出て行く。
生まれ変わり、やり直していることを伝えるべきだろうか、とティアーナは一人残されたベッドで寝返りを打った。
……けれど、伝えたところでどうなるというのだろうか。
ティアーナが、今となってはロンド王室唯一の血筋、という事実は誰にも変えられない。
つまり、ライハルトは、王位継承権をいまだ持ったまま、ロンド王国の抗争にも足を踏み入れなければならないのだ。
「――――私が、ミリティアだなんて知ったら、絶対に手を引かないわね……」
後先考えず、婚約解消なんてしないと言ってしまったことをティアーナは後悔した。
それでも、たった一人、泣くこともできずに、ミリティアのことを「太陽」なんて言った人のことを、放っておくこともできなかった。
思い出すのは、そっと家庭教師の授業から抜け出して、庭園を裸足で走り回っては怒られた幼い日。
ずっと一緒にいよう、と無邪気に約束した、幼い婚約お披露目の日。
ライハルトは、初陣に行ったあの日、ミリティアが渡した刺繍入りのハンカチを、まだ持っているのだろうか……。
「でも……」
ティアーナは、ロンド王国の王都が陥落したあの日、すべてを諦めたのだ。
ロンド王国唯一の直系となってしまったティアーナも、流行病で命を落としたミリティアも、この王国には、いないはずの存在なのだから。
景色のよい窓辺からは、傾き掛けた太陽に照らされて、オレンジ色に染まっていく庭園が見える。
そこには、ミリティアが好きだった花が、色とりどりに植えられている。
間違いなく、ミリティアが好きだった花ばかりが……。
「そういえば、ミリティアの最後の願い……。叶ってしまったわね」
病床のミリティアは、ひと目会いたい、と願った。
その相手が、誰なのかなんて、悩む必要すらない。
もうすでに、ティアーナにとっても最優先になった人。
ライハルト、その人以外にいるはずがないのだから。
「……会いたかった」
記憶をなくしても、何度も未来視の中で見る、黒髪の人。
ティアーナの未来視は、基本的には見知った人を中心に展開される。
だから、まったく会ったこともない人が、未来視に現れるのは、例外中の例外だ。
「…………前世の幼馴染みで、婚約者だったのなら、納得がいくわ」
ハッキリと、顔まで見えたのは、王都の陥落直前だ。
けれど、ティアーナは、物心ついた頃から、何度も傷つきながら、本心を隠しながら生きていくその人の姿を、おぼろげに未来視で見ていた。
「私にできることは、あるのかな……」
運ばれた夕食は、ほどよい量と、優しい味付けだった。
ライハルトが、指示してくれたことは、間違いないだろう。
かわいらしい、飾り切りの花々も、もしかしたら、ライハルトの指示なのだろうか……。
「……いつまでも、折れそうな手足と腰なんて、言わせないわ」
ベッドから降りて、ティアーナは壁に備え付けられた大きな鏡の前に立つ。
そこに映っているのは、背が高くてスタイルがよく、公爵令嬢らしく、いつも堂々としていたミリティアではない。
ライハルトの言葉通り、手も足も、腰も細くて折れてしまいそうな、背が低くて儚くも見える容姿のいまだに子どもと間違えられるティアーナだ。
出された夕食は、ティアーナにとっては少々量が多かった。
「これ以上、子ども扱いされたくないもの……」
けれど、それだけつぶやき、ティアーナは完食したのだった。
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