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再会と啓示 1
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「ルシェロさんっ!」
「……黙って、ミシェル様は、俺の後ろにいろ」
焦茶色の髪は、おびただしい量の朱に塗れて、赤く色づいている。
だが、同じ色をしたルシェロの瞳は、戦う意志を失うことなく、真っ直ぐ前を見つめていた。
なぜだ、とルシェロは問いかける。
戦線が崩れ、聖女を失えば、王国には破滅しかないというのに。
魔法は何一つ、ルシェロには届かない。
届くのは、物理的な刃と毒だけだ。
ルシェロの肩口に刺さった矢は、人の手によるものだ。毒が塗られているのだろう、焼け付く痛みと共に、ルシェロの額から冷たい汗が流れ落ちる。
「……っ、毒を」
「……俺には魔法は効かない。ミシェル様にできるのは、結界を維持することだけだ。集中を崩すな、結界が壊れる。魔獣が王都に入り込む」
その言葉を聞いて、ミシェルはルシェロの前に立った。
「ミシェル様は、壁の中に戻れ。サイラスならなんとかするだろう」
たしかに、大神官サイラスであれば、人からも魔獣からも、ミシェルを守り抜くに違いない。
けれど、そう言いながらも、決して聖女としてのミシェルが、目の前にいる人間の命の炎が消えるのを、諦めて待つことなんてないと、ルシェロは知っていた。
「サイラスさん……。私、命が消えるのが、いつも怖いんです」
それは、ミシェルにとって、耐え難い。
目の前で、ずっとミシェルを守ってくれた、騎士団長ルシェロが死んでしまうなんて、耐えられない。
(怖い)
ああ、でも自分の命が消えるのは、そこまで怖くなかったのに。ミシェルは一人心の中で思う。
(今は怖い。命が消えたら、あの人に会えない)
それでも、目の前に迫る魔獣が、王都に入り込むのは、嫌だった。
ここで逃げたなら、命は消えなくても、心はきっと死んでしまうだろう。
「……シグル様」
ありったけの力を振り絞って、結界を構築する。
その後の魔力枯渇も、その後の展開も、今は考えない。
ただ、ひとつだけ。
もし叶うならもう一度、会いたい。
「……ミシェル」
その瞬間、周囲に静寂が訪れた。
目の前に現れたシグルから、一層強く香る、冷たくて悲しい毒をはらんだ魔力。
けれど、今それが、味方に振りまかれることはない。代わりに、周囲にいた魔獣が、生命の糸を、スパリと切り落とされたかのように、折り重なって倒れていく。
全部魔力を使い切ってしまったから、最後に幻を見ているのかもしれないとミシェルは、思う。
それでも、待ち侘びた再会に、その笑顔は、まるで萎れかけていた花が、まるで奇跡のように再び咲いたようだ。
釣られてシグルも、ミシェルに微笑みを向ける。
「会えてうれしい」
「……俺もだ」
ほんの刹那であっても、会えればうれしい。
その後の別れを思うと、身を引き裂かれそうな悲しみで、このほのかな温かさが、冷たい氷で覆われそうになるにしても。
魔力の枯渇で、意識を失ったミシェルを抱き止めて、シグルは俯く。
「……それにしても、役立たずだな」
「……どのような処分でも」
騎士団長ルシェロを見る、シグルの視線は、冷たさと嫉妬のような熱をはらんでいる。
次の瞬間、ルシェロの毒は消えていた。魔法の力ではないのだろう。精霊の力だ。
「処分するなど、俺の境遇ではできない。だが、期待を裏切るな」
抱き寄せていたミシェルを名残惜しさなど感じさせない動作でルシェロに押し付けて、シグルは背中を向け、そして消えた。
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