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スープの波紋
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ミシェルからは、不調の兆しなんて感じられることもなく、時間を追うごとにつやつやと逆に元気になっていくようだった。
「一緒に食べませんか?」
今夜も山盛り用意された食事。
ミシェルの食べる量は、世間一般に比べてとても多い。
なぜか、だんだんとミシェルから目が離せなくなりつつあるシグル。
その事に気がつくこともなく、ミシェルはそんなことを言う。
「…………」
その問いに、シグルは答えることが出来なかった。
これまで、繰り返されてきた被害者たちの最後が、ミシェルと重なる。
食欲なんてわくはずがない。
とたんに、蒼白になったシグルの異変に気がついたミシェルは駆け寄ろうとした。
「近づくな!」
「え、でもシグル様……。体調が悪いのではないですか? 確かに私はもう、聖女の癒しの力は使えませんが、せめてそばで介抱させてください」
「余計な、お世話だ。とにかく近づくな」
馴れ馴れしすぎたのだろうと、ミシェルは肩を落とした。
一方、シグルは長い溜息をつく。
「本当に、お人好しだな……」
「出過ぎた真似をしました。本当に、聖女の力もないただの平民が、部屋に上がり込んで迷惑ですよね」
その瞬間の変化は、いくらミシェルが鈍感なのだとしても、さすがにわかるものだった。
(え……?)
初めて、シグルの瞳に灯った光は、おそらく自分への嫌悪感という感情だ。
遠く離れた距離を、詰められたらいいのにと、ミシェルは渇望した。
だが、たった今、シグルに拒否されたばかりで、ミシェルは確実に何かに囚われて苦しんでいるシグルに近づくことも出来ずにいる。
「――――話をし過ぎたな。食事をしてくれないか?」
気まずい雰囲気の中、それでもそんな空気の中で食事をすることに慣れてしまっているミシェルは、スープに口を付ける。それは少しだけ塩辛くて、なぜか涙の味がする気がした。
(泣いたことのない聖女。かわいげがない聖女と言われ続けてきたのに、どうして今、私は泣きそうになっているのかな)
どんなに苦しくて、辛くても、悲しいと思うことはなかった。
いつも、助けてくれる人たちがいたし、感謝もされていたから聖女である自分にミシェルは誇りを持っていた。
そう、第二王子レグルスが、ララ・リーム伯爵令嬢を連れてくるまでは。
そのあとからだ、ミシェルの聖女としての力が、どんどん弱まってしまったのは。
(どうしてだろう、私、シグル様のお力になれない事、悲しく思っているみたい)
スープに波紋が一つ。それは、誰にも気がつかれない、ミシェルの瞳からこぼれた雫だった。
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