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悪役令嬢の運命が変わった日 3

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「確かに、会いましたわ……。婚約する前に。でも、夢の話なんてすっかり忘れていました」
「そう……? 今でも俺はよく覚えている」

 私を見つめるレザール様の瞳は、揺らぐことがない。
 美しい水色の瞳。大好きな色……。

「北の地を、魔獣のいない場所にした」
「……まさか、実現してしまうなんて」
「時間がかかってしまったけれど、褒めて欲しいな?」
「え!?」

 悪役令嬢フィアーナの結末は、いくつかある。
 そのどれもが、悲しい結末……。五十年上の辺境伯との思いがけない幸せな日々があったけれど……。

(北の地で魔獣に襲われ命を落とす。生涯塔に幽閉される。神殿に行く途中に何者に襲われて謎の死を遂げる……ひどい結末ですわ)

「……それでも、レザール様に危険な目に遭って欲しかったわけでは、ないのです」

 私は、褒め言葉を見つけることが出来ずに、そのままレザール様に抱きついた。
 リーフ辺境伯のそばで、幸せにのほほんと暮らしていた間、レザール様は北の地で戦っていた。

「ごめんなさい……。夢の話なんて、しなければよかった」
「――――あなたのことを知ることが出来てよかった」
「ご無事でよかった」
「……あの日、あなたを攫って逃げる選択肢を選ぼうと何度思ったか……。でも、それを思いとどまらせてくれたのは、リーフ前辺境伯でした」
「旦那さまが?」

 そういえば、レザール様とリーフ前辺境伯は、手紙のやりとりをしていたという。
 私の知らないうちに……。

「あなたが幸せに生きられるように、しばらく安全を確保してくれると、約束してくださったので」
「……そうですか」

 もう恩返しできないのに、どれだけたくさんのことをしてくれていたのか、今さらになって知ることが多すぎる。
 そう、レザール様にだって、伝えていない。

「レザールきゅんは、可愛いだけでなく、強くて、優しくて、才能豊かで……」
「え? 予想外に褒めすぎ」
「カッコいいし、魔術師団長で、色合いも美しすぎるし、背が高くてスタイルもよくて、ほんと好き……。好きすぎます。好きすぎて、全てを捧げても足りないほどなのですわ!!」

 顔を上げると、レザール様は耳まで赤くなっていた。
 そんなところまで、可愛らしすぎて……。

「――――でも、もう傷つくようなことをしないでください」
「……俺は、魔術師団長だ。それは……」
「私も戦いますわ!」
「え? どうやって」
「ふふふ……。あちらの世界の知識を使えば」

 次の瞬間、唇を塞がれていた。

「そのままでいて」

 離れていく唇。眉を寄せた表情は、私のことを案じているようだ。
 
「フィアーナを守り続けるから……。どうか俺と」

 たぶん、絶対に叶うことがないと知りながらも、私はその言葉をずっと待っていたのだと思う。
 気が早いことに、聞いてもいないうちから涙がこぼれて止まらない。

「結婚してくれませんか? そして、今度こそずっと一緒に……。一緒にいて欲しい」
「はい……。ずっと一緒にいましょう」

 その言葉に、私が持っている答えは、もちろん一つしかなかった。

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