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パーティーのお誘い 6
しおりを挟むその後私たちは、参加者たちに囲まれてしまった。
社交界にほとんど顔を出すことがなかった末の王子、そして魔術師団長と縁を繋ぎたいという意図が透けて見える……。
けれど、予想外にも私の周囲も、貴族令嬢や夫人であふれかえっていた。
「そのドレスは、もちろんレインリーフの主任デザイナーメルリスの新作ですわね!?」
「ええ、もちろんですわ」
こうなったら、レインリーフの宣伝を頑張ろうと心に決めて、貴婦人の微笑みを貼り付ける。
少しだけ離れたところで、やはり囲まれてしまったレザール様も、もちろん美しいけれど冷たくて近寄りがたい笑みを浮かべている。
「――――王都での噂は本当なのですか?」
「噂……。ですか」
「ええ、レザール・ウィールディア殿下との」
「あ、それは……」
その噂話を先ほどまで知らなかったため、答えに窮してしまう。
レザール様に関する話題は網羅していたつもりだったのに、どうして情報が入らなかったのだろう。
(それに……)
先ほどの言葉を思い出して、頬が熱くなるのを感じたその時、手首を掴まれてそっと引き寄せられる。
それだけでも、高いヒールを久しぶりに履いた私は、姿勢を崩してよろめいてしまった。
当たり前のように支えられる体。
もう、知ってしまった。ハーブとシャボンの香り。
振り向かなくたって、誰なのか分かってしまう。
「申し訳ないのですが、俺の片思いですので、彼女を困らせないでいただけますか?」
その声は、いつもと違って大人びていて冷たい。
レザール様の言葉に、会場がざわめく。
私は、ますます熱くなってしまった頬を隠すために扇を広げて、目元だけで微笑んだ。
「……フィアーナ。行きましょうか」
「え、ええ……」
辺境では、風と自然と近しい人たちとだけ過ごしていたから、たくさんの人に囲まれている状態から離れることができてホッとする。
けれど、それと同時に心臓は高鳴るばかりだ。
(でも、推しが私に片思いなんて、あっていいはずがない)
けれど、先ほどから何度も言われている。
いくら、私が恋愛ごとに疎いからといって、幾ら何でもこれは勘違いではないだろう。
「すみませんでした……」
「……どうして謝るのですか?」
「あなたを巻き込んでしまった自覚があります」
「私を?」
テラスには誰もいなかった。
静かに輝く月が、レザール様の美しい水色の髪をきらめかせている。
これは、間違いなく、ヒロインと初めてパーティーに行ったときのスチルだ。
「レザールきゅん」
「……ふふ。あなたは、そのままでいたほうがきっと幸せなのでしょうね」
「はい!! レザールきゅんを見ているだけで幸せです!」
思わず出てしまった言葉は、違う世界の私とフィアーナとしての私、まごうことなき二人の本心だ。
私は、レザール様のことが好き。それだけは、間違いない。
「でも、俺の隣にいれば、今日みたいなことばかりだ。そして、危険にもさらされる……」
「…………」
「それなのに……」
レザール様は、笑っているけれど、その表情には憂いがにじんでいる。
かつて、フィアーナのことを「お姉様」と呼んで会いに来てくれたレザール様は、いつだって幸せそうに笑っていたのに。
「笑って欲しいな……」
「え?」
口をついて出た言葉。
そう、私はレザール様に笑っていて欲しい。
それは、いつだって共通している私の気持ちだ。
「そう……。恋とか愛とか分からないけれど、私はレザールきゅんが誰よりも大好きで、幸せそうに笑っていて欲しいんです」
「…………」
レザール様の両手をギュッと掴む。
もしも、その笑顔が見られるなら……。
「そうすれば、きっと私は幸せなのだと思います」
たぶん、今私が見せている笑顔は、心からの……。
その瞬間、離れてしまった両手を目で追う。
その手はそのままレザール様の口元を隠した。
暗いはずなのに、その頬はハッキリと赤い。
「…………」
「…………」
数秒の沈黙は、次の瞬間私を抱きしめた両腕にかき消された。
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