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元悪役令嬢と年下王子 5
しおりを挟む応接室には、なぜかレザール様が座っていた。
レザール様が飲んでいるのは、ブラックコーヒーだ。
三年前にお茶会をしていたときには、ミルクティーを飲んでいたはずなのに、やはり大人になってしまったようだ。
「……おい、なんでそんなに残念そうなんだ」
「まさか、残念だなんて。成長を喜ぶべきなのですわ」
「……よく分からんが」
ロレンス様は、三年間少なからず一緒に過ごしていただけあって、私のことがよく分かっている。
そんな私たちを前に、レザール様は席を立った。
ロレンス様は、王族に対する礼をするべく膝をつく。
「ロレンス・リーフと申します。レザール・ウィールディア殿下にご挨拶申し上げます」
「――――ロレンス・リーフ殿。どうか立ち上がってください」
レザール様から差し伸べられた手をロレンス様は、しっかりと掴んだ。
ロレンス様は、今や大陸中を飛び回る魔道具師。
そして貴族籍を返上していたお父様が辺境伯家を継ぐということは、今後は広大な領地を治めるリーフ辺境伯家の令息として生きていくことになる。
(それはともかく、二人並ぶとものすごく絵になるのよね……)
ロレンス様の黒い髪と金色の瞳。
金色の瞳は、隣国の王族から血を継いでいる証拠でもある。
真面目な顔をしていると、切れ長の瞳、整った鼻筋のロレンス様は、ものすごい美形だ。
一方、レザール様の淡い水色の髪と瞳は、夜に輝く神秘的な星のようで、男らしい中にもどこか幼さを残す笑顔は言うまでもなく絶世の美男子と言っていいだろう。
(どうして、ロレンス様が攻略対象キャラクターでなくモブだったのかは、世紀の謎だわ)
……ちなみに、私の真っ赤な髪と金色の瞳も、隣国の姫君だったお母様から受け継いだ。
隣国については、乙女ゲームの中では詳しく語られてはいない。
けれど、ウィールディア王国に並ぶ大国で、両王家はお互いに血縁を結び、深い関係にある。
そういう意味でも、隣国に国境を接し、隣国の血を強く受け継いでいるリーフ辺境伯家の立ち位置は、王国でも重要だ。
「レザール様、そういえば本日はどんなご用件で?」
「…………フィーリアに会いたくて、という理由で訪れるのはダメですか?」
「っ……!? 大歓迎ですわ!!」
推しにそんなことを言われて、ダメだなんて言える人はいるのだろうか。
否、いないに違いない。
「そうですか。……よかった」
レザール様の微笑みは、全大陸中が恋に落ちてしまうほど甘く麗しい。
あまりの麗しさに、思わず『レザールきゅん!!』と叫びたくなってしまったが、ロレンス様がいらしているのでなんとか思いとどまったのだった。
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