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実は白い結婚でした 2
しおりを挟む王都のお屋敷は、そこまで大きくはないけれど、レザール様の所属する魔術師団の本部近く。
きっと、レザール様のお姿を毎日拝見できるに違いない。
「私のように噂の渦中にいた人間が見ているなんて、決して気づかれてはいけないけれど……。うふふ」
魔法の力を組み込んだ双眼鏡片手に、魔術師団本部の正面玄関を眺める。
まだ、薄暗い早朝。正面玄関に現れたのは、背がとても高く淡い水色の髪をした美しすぎる男性だった。
(あら……? レザールきゅんと同じ色合いだわ?)
双眼鏡で覗きながら、私は首を傾げる。
その時、その男性が、髪と同じ色をした薄い色素の瞳をこちらにまっすぐ向けた気がした。
「…………目が合った」
それが、気のせいだと思おうとしたのに、なぜかその人は私から目をそらすことなく、ものすごく美麗な微笑みを見せる。
「…………え? カッコいい、じゃなくて明らかに私に気がついていた?」
頭の片隅で『スチル』という単語がよぎる。
魔術師というのは、不思議な力で遠くにいる相手の気配まで分かるのかもしれない。
そう結論づけた私は、推しへと思いをはせる。
レザール様とは、記憶を取り戻す前、王太子の婚約者だったときによく関わっていた。
当時は、「お姉様!」なんて言って、可愛い姿で慕ってくれていた。
けれど、私は三年という月日を甘く見ていたのだ。
そう、三年間離れていれば、年齢差は変わらなくても、身長差なんてものは逆転してしまう。
***
「……今日もこちらを見ていた気がするわ?」
翌日も、その翌日も、男らしい男性と双眼鏡越しに目が合った……。
双眼鏡で覗いているから表情まで見えてしまう。
今日もその人は、私に向かって眩しすぎる笑顔を見せた……気がした。
「それにしても、目が合いすぎるわ。他の人は気づきもしないのに……。不審人物として警戒されてしまったのかしら?」
私の中では、レザール様は乙女ゲームの年下枠でしかなかった。
ゲームの登場人物が成長するという概念が、私にはなかった。
そのことが、まさかあんな急展開を招くなんて……。このときの私は、まだ知らない。
***
毎日、レザール様のお姿を探していたけれど、結局見つけることが出来ないまま、一週間が過ぎた。
しびれを切らした私は、もしかしたらお会いできるかもしれないという期待を胸に、街に出かけることにした。
そんな私の目の前に現れたのは、レザール様と同じ色合いの超絶美男子だった。
「…………お久しぶりですね。フィアーナ様」
「あ、あの。こんな美形の知り合いは、存じ上げないのですが……」
「何を言っているんですか。お姉様、レザールですよ?」
「えっ……。えぇ!?」
掴まれた手首。ゴツゴツした指先は、すっかり大人の男性のものだ。
高くて可愛らしかった声も、低くて耳の奥がしびれそうな声に変わっている。
「え? 可愛かったレザールきゅ……いいえ、レザール様が、こんなに男らしく?」
呆然としている私の、赤色の髪の毛を一房手にのせて、落とされる口づけ。
信じられない出来事に震えながら、私はその光景を見つめていた。
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