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たぬきときつね
しおりを挟む可愛らしい少女は、シマシマのニーハイを履いている。
セミロングの髪の毛は、二つのお団子がのっていて、たぬきみたいだ。
(え? なんとなく、たぬきっぽいイメージだから、そう見えた?)
そんなことあるはずない。あるはずがないけれど、たぬきが人に化けたというよりは、よほど現実味がある。
「疲れているのかな」
「橘美咲さん」
「へ?」
気がつけば、少女はもう、目先の目の前にいる。思わず身構えるけれど、少女はニコニコと微笑むだけだ。
「颯太くんの耳が見えたんだって?」
「え、颯太くんって」
「吉野颯太。私の幼馴染なの」
美咲の脳裏に、吉野の頭に、あの時確かに見えてしまった狐の耳が浮かんだ。
美咲は、どちらかといえば、インドア派だ。ラノベもマンガも読む。
ケモ耳設定だって好きだ。
だからって、現実とファンタジーを混ぜてしまうほどではないはず。
「……あの」
それに、この少女は、どうして美咲のことを知っているのだろうか。
フルネームを、看護師という仕事をしていることを。
「私の姿も、見えていたよね?」
にっこり笑っているのに、どこか薄寒いその表情は、野生動物に遭遇した時に似ている。
「あっ、あの!」
「…………ごめんなさい。驚かせたって、おじいちゃんに怒られちゃうかな」
「おじいちゃん?」
「うん。美咲さんのおじいさんと、私のおじいさん、友達なの」
そこでようやく美咲は納得する。祖父は交友関係が広い。友人同士らしい二人の祖父の話を、聞いていたのだろう。
それに、入院中でも、連絡を取るなんて簡単だ。吉野とこの少女も、連絡を取り合っているに違いない。
「か、揶揄われた?」
「うっ、うふふ!」
さも、おかしそうに小さな手で唇を塞いだ少女。
狐の耳も、見間違いだったのだろう。
幼馴染同士で揶揄うなんて、酷い話。
「たぬきときつねが、揃って、揶揄わないわけないじゃない? なんで、そんな当たり前のこと言うの?」
「えっ、え?」
「私、近藤すみれって言うの。じゃ、またね?」
気がつくと、すみれと名乗った少女は、美咲の前から姿を消していた。
すっかり陽が落ちて、薄暗くなった境内に、美咲一人を残して。
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