こちら4西病棟特別室〜ワケあり患者様たちに翻弄されています〜

氷雨そら

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ナースコールと真っ暗な部屋 1

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 * * *


 ナースコールのあった部屋は、4人目の患者の部屋だった。今日は、6床中4床しか埋まっていない。平和なのだ。

「ん? 真っ暗」

 基本的に、病院のカーテンは遮光ではない。古都北病院の4階は、淡いグリーンがテーマカラーだ。
 だから、この部屋も少し開けられた窓からの風に、淡いグリーンのカーテンがそよいでいるはずだった。

「暗幕?」
「ごめんなさい。この子が怖がるから」

 特別な対応だろうか? 不思議に思いながら、ようやく慣れてきた暗闇の中、ベッドの下に何かが蠢いているような気がした。

 それに、緑色に光る二つの目?

 目を凝らせば、気のせいだったのか、蠢きは消えて、ベッドの上には十代前半の少女が一人。暗闇でもわかる、真っ直ぐ切り揃えられた前髪、長くて艶々の黒髪。白い肌の少女だ。

 そうだ、そんなに、頻繁に怪異に出会ってばかりいては、身が持たない。

「…………本日担当の橘です」
「木田さくらです」

 可愛らしい返答。
 古都北病院には、小児科があるのに、なぜこの子は特別室にいるのだろう。それだけが不思議だ。

「ナースコールが、あったので来たけれど、どうかしましたか?」

 この暗闇では、視覚からの情報が手に入らない。顔色もわからない。
 それでも、眩しいと訴える患者は少なくない。

「……汗をかいてしまったので着替えが欲しくて」
「すぐ用意しますね?」

 ノートパソコンの淡い光。それを頼りに、体格を確認する。
 病衣はレンタルだ。いつでも、着替えを渡すことができる。

「取ってきますね。Sサイズ……で、いいかしら」

 子ども用のパジャマでは小さそうだ。
 美咲は、Sサイズの病衣を取ってくることにした。

 暗闇では、はっきり見えないが、看護記録によれば、さくらは、喘息がひどく、発作を繰り返しているため、ベッドの上にいることが多いらしい。

 発作が起きてもすぐに対応できるよう、一日中点滴に繋がれている。

「少し待っていてね」
「はい」

 暗い病室の外は、目を細めなければいけないほど明るく、大きな窓から初夏の光が廊下に降り注いでいる。

 特別室のドアから顔を覗かせた美咲は、看護助手の飯田みつけて、「Sサイズの病衣、上下取ってもらえますか?」と頼んだ。
 高校を卒業したばかりで、看護助手になった飯田沙織。真面目ないい子だ。
 すぐに沙織は、ポニーテールを揺らしながら、病衣を取ってきて美咲に手渡した。

「はい!」
「ありがとう」

 来年の4月からは、奨学金を受けて看護学校に通うことになっている。
 美咲を含め、仕事熱心で年若い沙織のことを応援している。

 部屋に戻ると、さくらの部屋には電気がついていた。何の変わりもない室内。

「電気、つけたのね」
「うん、今日は帰ってしまったから」

 なんとなく、気になる物言いをする、さくら。けれど、病院の中のような特殊な環境下だ。
 不思議な発言をしてしまうことは、大人ですらよくある。美咲は、気にするのはやめて、手早く温かいタオルでさくらの体を拭いて、着替えを手伝うのだった。
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