【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら

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二倍の幸せ

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 とりあえず、その日から、ベルン公爵プロデュースによる、完璧な健康管理が始まった。
 まあ、想像は出来ていたことだ。つまり、今回の育成ゲームは、私の体調管理から始まるのだろう。

 遠い目をしながら、無心になって床の雑巾がけをする。

「――――セリーヌ。そろそろそれくらいに」

「えっ? まだ平気です! しかも、床掃除は健康のために……」

 しゃがみ込んだベルン公爵が、ため息をつきながら私のわきの下に手を入れて立ち上がらせた。
 モフモフじゃないほうの王子様バージョンのベルン公爵は、細身に見えて以外にも鍛えているのだ。

 ――――力持ちだなぁ。今の魔法使ってなかったよね?

「なに? その目……。俺は、それなりに剣を持っても強いから」
「え? どうしたんですか、急に」
「たしかに、アルトや、最近力を取り戻したセルゲイには勝てないかもしれない。でも、エルディオ殿とは、いい勝負だと思うんだ」

 それは、パラメーターの問題だろうか。
 ベルン公爵は、魔術師系なので魔力全振りと思いきや、剣もそれなりに仕えるオールマイティーなお方なのだろう……。お兄様はもともと、先頭には向いてない仕様だったのに、今はそんなそぶりもないくらい剣の腕がめきめき上がっている。アルト様は、意外と脳筋……ゴホン。騎士団長ですから。

「……ベルン様のこと、強さとかで好きになったわけでは、ないですから」

「セリーヌ……。だが、誰かと比べられたときに、俺が一番だと思ってほしいんだ」

 子どもですか? その一言は言わないけれど、可愛すぎるので、ギュウギュウと抱きしめておく。
 それにしても、あの食事食べられない日々は、つわりだったのかぁ……、そうかぁ。

 そんなことを思いつつ、自分で焼いたクッキーを一つ口にした。
 サクサクして、甘さ控えめでおいしいのだ。

 ただし、こちらもベルン公爵監修のもと、個数制限が課せられている。

「…………ベルン様? そういえば」

「なに? セリーヌ」

「…………当ててみてください」

「ん? ああ、新しい家事道具を開発して欲しいのかな?」

 ん~。とっても魅力的ですね、それ。冷蔵庫と、魔道ミキサーで料理の幅が、広がりました。
 最近王都の富裕層に、売れに売れているらしいですね!

 膨らんでいくフェンディス公爵家の懐。
 まあ、二人ともお金を使うほうではないため、増える一方だ。慈善事業に手を出したところ、モフモフ公爵人気がとどまるところを知らない。

「魅力的。――――でも、はずれです」
「では、いったい? ああ、カーテンを冬物に」
「それも、採用です。でも不正解」

 首をかしげていたベルン公爵は、ふと意地悪気に笑い、私に口づけをした。

「俺のことをもてあそぶ悪い唇は、永遠にふさいでしまおうか」
「――――息ができないですよ」
「そう? 俺は、ずっと口づけしていたいけど?」
「っ、もう! 私が悪かったですよ。双子です」

 ベルン公爵の、驚いた顔、久しぶりに見た。
 最近、すっかり落ち着いてしまったベルン公爵が、慌てたり照れたり、驚くことは滅多にないような気がする。それは、可愛いベルン公爵が大好きな私にとって、とても残念なことのような気がした。

「ふ、た、ご」
「そ、双子です。どうしました? 嬉しくないんですか?」

 次の瞬間、抱きしめられた。
 でも、おなかを締め付けないように配慮しているのか、その力は弱い。
 それが妙に寂しくなって、私のほうは力いっぱい抱きしめ返す。

「――――そうか。それなら、作りかけだった乳母車。二階建てかな」

 この世界に、質の良い乳母車はない。
 貴族の家なら、乳母が抱っこするし、庶民の家ならおんぶ紐だ。
 ベルン公爵に、前世の乳母車のイメージを伝えたところ、さらさらと書いてくれたデザインが、高級バギーみたいでしびれた。

 楽しみがもう一つ増えたなぁ。と、私は笑みを深めるのだった。
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