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すべてを救うと誓うあなたのことを。
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眠気を押して、食堂に行けば、同じく眠そうに見えるアイリ様の姿があった。
「――――眠そうね」
「そうですね、眠いです。アイリ様も……」
二人で見つめあう。結局のところ、シナリオはまだまだ継続するらしい。
私たちは、メインヒロインにとっては、悪役令嬢なのだろう。
「そういえば、隣国の王太子が、公務でここに来るらしいわ」
「え? カイル・ルドラシア殿下が?」
「そ。それにしても、私の周囲の男たちは、どうしてこんなにも意気地がないのかしら。欲しいものなら、どんな手を使ったって、手に入れたらいい。そうは思わない?」
そんなことを言う、ヒロインの姿をしばし見つめる。
言葉とは裏腹に、相手の幸せを願ってしまう人が、私の目の前にいます。
「な、なによ。何か言いたいことでもあるの?」
「いいえ……特にありません」
「――――そういえば、記憶が戻ったそうね? ベルン様と進展があったということかしら?」
その言葉を聞いた瞬間、昨日の会話のあれこれを思い出し、赤面してしまう。
そう、婚約してから結婚直前までの記憶を、私たちは思い出した。
「あら、よろしくしていたようね?」
「ご、誤解です」
ベルン公爵が私のことを好きでいてくれていることは、痛いほどわかった。
でも、結局私たちは、続編のシナリオから逃れることが出来ていない。
メインストーリーのシナリオも、どんな結末なのかわからない。
「……今までの傾向から言って、通常のエンディングでは、私たちに未来はないでしょうね」
「アイリ様?」
「シナリオの中の、ハッピーエンドとバッドエンドのほかにある第三の結末を見つけないといけないのだわ。……そうでなければ、おそらくカイル・ルドラシア殿下は」
「――――魔王になってしまう、ですか?」
真剣な表情で私を見つめる蜂蜜色の瞳。
「そんな結末、あんまりだから。……私は、救いたい」
すべてを救いたいと願った、かつての聖女のような瞳。
でも、かつての聖女が迎えた結末は……。
淡い緑の瞳から、とめどなく零れ落ちる涙を私は忘れることができない。
アイリ様には、そんな結末を迎えて欲しくない。
でも、それでも。
メリルお姉様の選択も、愛しい人を失って魔王になってしまった人も、望まない魅了の力に苦しめられた少女も……。そして、聖女を愛してすべてを捧げた魔術師も、大事な人を救うために戦った勇者も。今、私にとって大事な人に違いないから。
「それなら、アイリ様のことは、私が救います」
「……は?」
「アイリ様が、全てを救いたいと願うのなら、アイリ様のことは私が救います」
その瞬間、わずかに細められる瞳。そして、少しだけ怒ったように吐き出された短い溜息。
「――――前世で、一番ひどい目に合った人間が、何言っているのよ」
「そうだな……。でも、心配しなくていい。今度こそ、セリーヌのことは俺が守るから」
その言葉とともに、後ろから抱きしめてくるのは、私が誰よりも守りたくて、誰よりも頼りにしている人だ。
今日は、モフモフではないらしい。
「そうね……。もっと、助け合ったらよかったのよ、きっと」
そういったアイリ様の言葉には、過去の悲しみも、これからへの決意も含まれているようだった。
今日、カイル・ルドラシア殿下がこの場所を訪れるというのなら、きっと一緒に現れるのは。
シナリオが、どんなものなのかわからなくても、これだけは理解できる。
きっと、家族愛と、恋人たちの幸せは、ともに存在することができるはずだと。
たぶん、無意識に無骨な腕輪に口づけを落としたアイリ様を見つめながら、私はもう一度決意する。
すべてを守りたいと。守ってみせると。
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