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エイプリルフール ifストーリーSS 箱入り公爵令嬢は野獣に嫁ぐ
しおりを挟むギュッと手を握ったままの、お兄様。
目の前には、紫色の雷鳴が轟く大きなお屋敷。
「本気で、ベルン・フェンディス公爵に嫁ぐのか? 相手は、野獣だぞ」
「そんな、野獣公爵様と親友のお兄様が、なにをおっしゃっているのですか」
「たしかに、あいつは優秀だ。魔法の腕は王国随一、魔道具の発明も、建築の設計もこなす天才だ。資産においても、我がリオーヌ公爵家を凌駕するだろう。……ん? 完璧だな」
「しかも、野獣の呪いですよ。モフモフです。神ですか」
悪役令嬢として生まれ変わった私は、断罪フラグを避けまくってきた。そして、噂に名高い、野獣公爵様との婚約をようやく取り付けたのだ。
「……本当に、いいのか? あいつ、引きこもりだぞ」
「はい! それに、いつぞやパーティーで、お会いした時、優しかったです」
ベルン公爵は、家族全てを失って、野獣の呪いまで掛けられたという。そんな、悲しい出来事が起こる前、お兄様の後ろに隠れて、ベルン様にお会いした瞬間、私は前世の記憶を取り戻したのだ。
王子様みたいな人だった。その姿は、もう朧げでよく覚えていないのだけれど……。
その、ベルン様が、野獣の呪いを受けてしまったという情報を秘密のルートから得たとき、私の心は決まったのだ。
『全ての悪役令嬢フラグを完全に避けて、ベルン様の婚約者になる!』
それが、私の人生の目標になったのだった。
「すまないが、ここから先、フェンディス公爵邸に入ることを許されているのは、セリーヌだけだ。だが、今なら」
「行ってきます!」
「あ、おい!」
私のことを白髭の執事が迎え入れてくれる。穏やかな笑顔。そして、気になる屋敷内の暗い雰囲気。
「こ、これは。やりがいがありそうです。掃除道具は、ありますか?」
私と、ベルン公爵が出会うまであと少し。
婚約者というものが、まったくわかっていなかった私が、ベルン公爵の重すぎる愛に翻弄されるシナリオは、はじまりの音を告げたのだった。
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