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お互いのことを、同じように。
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モフモフした、毛並みに包まれて目覚める爽やかな朝。紫色をした小さなモフモフが、視界の端に映り込む、幸せな夢を見た気がする。
「チビもふもふに、早く会いたいです」
「それは、一睡もできなかった俺を、誘っているのだろうか……。違うと、分かっているから、夜は一緒にいなくないのに、困ったことに離れたくない」
「んっ。……ベルン様、おはようございます。寝られなかったのですか? 怖い夢でも見ましたか」
「……いや、セリーヌは、そのままでいて」
モフッ、と抱きしめられれば、甘くて爽やかな香りがする。この香りが、私は大好きだ。
抱きしめ返せば、その香りはさらに鮮やかに香る。大好きだ。
「好きだ」
大好きだと、実感した途端に、その言葉が降ってくる。幸せな感触と、音と、香り。
「……私も、大好きです」
「幸せだ」
「私も、です」
全て先に、ベルン公爵に口にされてしまった。私だって、もっと好きだと伝えたいのに。
そんなことを思いながら、新緑の瞳を見つめていると、グシャリと頭を撫でられた。子ども扱いされているのだろうか。
文句を言おうと思ったのに、ベルン公爵は、思いの外、真剣な表情をしている。私は、口をつぐむ。
「……さて、セリーヌの安全が、確保できたことだ。姉上の問題を解決しなければならないな」
「……ユリア殿下は」
「そこは、アルトに任せよう」
アルト様は、確かに頼りになるけれど。
隣国の王太子殿下との婚約が、打診されていたユリア殿下。そういえば、好きな人がいるようだったけれど、誰なのだろうか。
このまま、メリルお姉様と、カイル殿下は、無事ハッピーエンドを迎えられるのだろうか。
お互いの好感度は、最高値まで振り切れている気はするけれど。もはや、モブになったであろう私には、関与できない。
「……一緒に来てくれるかな」
「え?」
「カイル・ルドラシア殿下の元に行くのに、一緒に来て欲しい」
いつも、単独で危険に飛び込むベルン公爵にしては珍しい。その、淡い緑の瞳を覗き込む。
「……あの」
やっと、私にも頼ってくれる気になってくれたようだ。そう、記憶を取り戻した私は、元聖女なのだ。全属性が、ほんの少しずつと、闇魔法が使える…………。聖女って言えるのかな?
「セリーヌは、目を離すと危険に飛び込んでしまうから」
ん? お互い相手のことを、同じように思っているのでしょうか?
「そうだとしたら、私の近くにいると危険ですよ」
「喜んで飛び込むよ」
即答されたその言葉は、嬉しくもあり、怖くもある。たぶん、乙女ゲームのあるべきシナリオを、改変してしまった張本人だという自覚がある。
どんなことが起こるか、心配だ。
「とりあえず、食事にしようか?」
「そうですね。腹が減っては戦はできぬ、と言いますからね」
「変わった言い回しだが、その通りだな」
その日でてきた食事は、鉄板のベーコンエッグだった。それなのに、不安のせいなのだろうか。
なぜか私は、胸がいっぱいで、ほとんど食べることができなかった。
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