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逡巡と友情
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バッチーンと乾いた破裂音が響く。
「あわわ……」
目の前の信じられない光景。現聖女が、元魔王を平手打ちにした。遠慮のかけらもなく。
「あわわ……」
アレクシアの王太子妃が、ルドラシアの王太子を平手打ちした。遠慮のかけらもなく。
国際問題。破天荒なヒロインは、そんな事お構いなしなのだろうか。アグレッシブすぎないか。
そんなこと、お構いなしとでもいうように、フワフワのストロベリーブロンドを揺らして、蜂蜜色の瞳を鋭くしたヒロインが、隣国の王太子相手にまくし立てる。
「あんたね! 幼馴染以上の大事な女性を亡くしたからって、世界を巻き込む呪いになんて蝕まれて! 私とあいつまで巻き込んだくせに、何いまだに寝ぼけたこと言ってるの?!」
「――――お前な……」
頬を押さえたままなのに、怒りだす様子のないカイル殿下が、思いっきりため息をついた。
二人の妙に近い距離と、急激な展開についていけない私は、もはや声すら出せない。
え? お知り合いですか?
「――――あの子が死んだのは、あんたのせいじゃない。しかも、魔王の呪いに魅入られたのだって、あんたのせいじゃない!」
「いや、全部俺の招いたことだろう?」
「――――そうやって、全部自分のせいにしていたら、楽でしょうよ! でも、メリル・フェンディスは、まだ生きている! おたんこなす、意気地なし、ヘタレ! しかも、セリーヌ様を巻き込んでいるんじゃないわよ! 一人で引きこもっていなさいよ!」
ぐいっと、手が惹かれる。
たぶん、このままベルン公爵のいるフェンディス邸にメリル・フェンディスが戻れば、家族愛ハッピーエンドだ。すでに王妃になっているらしいアイリ様と、セルゲイお兄様は、少なくとも幸せにこのまま暮らせるはず。
抵抗しかけた私のことを、アイリ様が蜂蜜色の瞳を金色に輝かせ強く見据える。
「――――セリーヌ様が、みんな助けたいなんて、バカらしいって思ってた。自分が生き残って幸せをつかむことに必死だったから。それは、違うのかもって思わせておいて、セリーヌ様が先に諦めてるんじゃないわよ!」
「アイリ様……?」
「――――っ、諦めたりしないでよ。大事な友人のために、仕方がないから巻き込まれてあげる。……残念ながら、私には友達が少ないの」
返答ができない私を、アイリ様がどこにこんな力があるんだろうというくらい力強く連れ出した。
「もう遅い。この屋敷から、二人を出す気はない……」
扉を開けたとたん、歪む床と廊下。消えていく階段。窓も外とつながっていないのか、真っ暗だ。
「――――アルト様と、セルゲイが、不在の時に忍び込むなんて」
「……なにか、あったのですか」
「ベルン様に呼び出されたの……。まさか、記憶をもう一度なくしているなんて」
この様子では、外に出ることは出来なそうだ。
でも、アイリ様は、まったく諦めた様子がなく、むしろ不敵な笑みを浮かべている。
「行くわよ」
廊下の端にたどり着く、確かに感じる、運命の扉の存在。
決心しきれずに、アイリ様を見つめると、「私はね。ヒロインとして、全員が幸せなトゥルーエンドを目指すわ」と、デコピンされた。本気で痛い。
「お兄様に、怒られますよ」
「ふふ。一緒に怒られてくれるわよね?」
ヒロインが男前だ。惚れ直す。
「私も、友達がいないのですが、友達になってくれるんですか?」
「は? もう友達だわ。何回言わせるの」
二人で、頷きあう。
ヒロインと悪役令嬢が友達だなんて、乙女ゲームはすでにシナリオ崩壊だろう。
でも、そんな展開があってもいい。
もう一度、ここからやり直す。
間違ってしまった、選択を。
私たちは、廊下の端の、壁にしか見えない空間に思いっきり飛び込んだ。
「あわわ……」
目の前の信じられない光景。現聖女が、元魔王を平手打ちにした。遠慮のかけらもなく。
「あわわ……」
アレクシアの王太子妃が、ルドラシアの王太子を平手打ちした。遠慮のかけらもなく。
国際問題。破天荒なヒロインは、そんな事お構いなしなのだろうか。アグレッシブすぎないか。
そんなこと、お構いなしとでもいうように、フワフワのストロベリーブロンドを揺らして、蜂蜜色の瞳を鋭くしたヒロインが、隣国の王太子相手にまくし立てる。
「あんたね! 幼馴染以上の大事な女性を亡くしたからって、世界を巻き込む呪いになんて蝕まれて! 私とあいつまで巻き込んだくせに、何いまだに寝ぼけたこと言ってるの?!」
「――――お前な……」
頬を押さえたままなのに、怒りだす様子のないカイル殿下が、思いっきりため息をついた。
二人の妙に近い距離と、急激な展開についていけない私は、もはや声すら出せない。
え? お知り合いですか?
「――――あの子が死んだのは、あんたのせいじゃない。しかも、魔王の呪いに魅入られたのだって、あんたのせいじゃない!」
「いや、全部俺の招いたことだろう?」
「――――そうやって、全部自分のせいにしていたら、楽でしょうよ! でも、メリル・フェンディスは、まだ生きている! おたんこなす、意気地なし、ヘタレ! しかも、セリーヌ様を巻き込んでいるんじゃないわよ! 一人で引きこもっていなさいよ!」
ぐいっと、手が惹かれる。
たぶん、このままベルン公爵のいるフェンディス邸にメリル・フェンディスが戻れば、家族愛ハッピーエンドだ。すでに王妃になっているらしいアイリ様と、セルゲイお兄様は、少なくとも幸せにこのまま暮らせるはず。
抵抗しかけた私のことを、アイリ様が蜂蜜色の瞳を金色に輝かせ強く見据える。
「――――セリーヌ様が、みんな助けたいなんて、バカらしいって思ってた。自分が生き残って幸せをつかむことに必死だったから。それは、違うのかもって思わせておいて、セリーヌ様が先に諦めてるんじゃないわよ!」
「アイリ様……?」
「――――っ、諦めたりしないでよ。大事な友人のために、仕方がないから巻き込まれてあげる。……残念ながら、私には友達が少ないの」
返答ができない私を、アイリ様がどこにこんな力があるんだろうというくらい力強く連れ出した。
「もう遅い。この屋敷から、二人を出す気はない……」
扉を開けたとたん、歪む床と廊下。消えていく階段。窓も外とつながっていないのか、真っ暗だ。
「――――アルト様と、セルゲイが、不在の時に忍び込むなんて」
「……なにか、あったのですか」
「ベルン様に呼び出されたの……。まさか、記憶をもう一度なくしているなんて」
この様子では、外に出ることは出来なそうだ。
でも、アイリ様は、まったく諦めた様子がなく、むしろ不敵な笑みを浮かべている。
「行くわよ」
廊下の端にたどり着く、確かに感じる、運命の扉の存在。
決心しきれずに、アイリ様を見つめると、「私はね。ヒロインとして、全員が幸せなトゥルーエンドを目指すわ」と、デコピンされた。本気で痛い。
「お兄様に、怒られますよ」
「ふふ。一緒に怒られてくれるわよね?」
ヒロインが男前だ。惚れ直す。
「私も、友達がいないのですが、友達になってくれるんですか?」
「は? もう友達だわ。何回言わせるの」
二人で、頷きあう。
ヒロインと悪役令嬢が友達だなんて、乙女ゲームはすでにシナリオ崩壊だろう。
でも、そんな展開があってもいい。
もう一度、ここからやり直す。
間違ってしまった、選択を。
私たちは、廊下の端の、壁にしか見えない空間に思いっきり飛び込んだ。
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