【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら

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眠り姫と勇者

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 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「アイリ様が、帰って来なかった……」

「へるもーど、と言っていたのと関係するのか?」

 朝日が昇ってしまっても、アイリ様が帰って来ない。そのことに私は、ひどく動揺していた。
 続編は、前作ヒロインと、前作悪役令嬢を選択できるって……。

「シナリオに、巻き込まれた?」

 しかも、二人ともプレイしたことがない、続編のシナリオに。
 お、落ち着いて……。

 深呼吸をする私と、思案している様子のベルン公爵。
 甘く見過ぎていたことに、今更ながら気が付く。
 だって、前作だって乙女ゲームのエンディングから始まったのに、そこからが本番だったのだ。

「どうしよう……」
「うーん、だが、アイリ殿に関していえば、任せておいて、俺たちは俺たちで、別行動したほうが、いいのではないか?」
「――――え?」

 アイリ様を見捨てろとでもいうのだろうか。
 思わずジト目になってしまった私と、軽い溜息をつくベルン公爵。

「だって、アイリ殿が危機に陥っているのに、黙っているはずがない」

 私は、ようやくその事に思い至る。
 乾いた喉を潤わせようと、喉が自然とごくりと鳴ってしまう。
 そう、すれ違い続けていた両片思いが嘘みたいに、ヒロインを溺愛する元幼馴染。

「お兄様……?」

 その時背後で、ガラスが割れるような音がした。
 振り返ると、魔王のような雰囲気の、元勇者がそこに立っていた。

「あー、その鏡。転移魔法の媒体にしてしまったのか」
「――――悪いなベルン。だが、何の媒体もなしに、この長距離を移動できるお前がおかしいんだ。自覚しろ」
「生粋の魔術師でもないくせに、長距離転移魔法を使いこなす人間ほどではないと思いますが?」
「相変わらず、気に入らないな……。だが、いくら転移のために必要だったとはいえ、魔道具の鏡を破壊してしまったことに関しては詫びよう」

 あまりお詫びしてる態度には見えないまま、兄は私たちを素通りして、部屋の扉を開ける。
 次の瞬間、兄は姿を消した。転移魔法を発動したのだろう。
 大量の魔力を消費する転移魔法。そんなに何度も使えるはずないのに。

「――――お兄様は、元の力を取り戻しつつある?」

 もしかしたら、アイリ様とお兄様だけが知っている魔王に関する情報だって、あるのかもしれない。

「やはり、そう思うか? セリーヌ」

 お兄様の前世は、勇者だ。
 そして、アイリ様とは前世の幼馴染で……。
 現在のお兄様は、前世から今世にかけての、すれ違いの両片思いだった日々が嘘みたいに、元幼馴染を溺愛している。

「――――もう、こうなってしまったら、セリーヌに関わってほしくないとも、言ってられないようだな」
「行きましょう。たぶん、犯人は現場にもう一度来ます」
「何を言っているのか、よくわからないのだが」
「決まり文句なので、お気になさらず」

 その前に、お兄様が割ってしまった、ガラスの破片を片付けることにしよう。

「どこから持ってきたんだ、そのバケツ」

「もちろん、初日にエルディオ様から、掃除用具一式はお借りしています」

「――――そうか、なんて言うのが、正解か分からないのだが、さすがセリーヌだな……」

 王都から辺境までの長時間の移動に、領主邸での客人扱い。
 私は家事に、飢えていた。
 私は、嬉々として片づけを開始したのだった。
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