【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら

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ヒロインと隣国の王太子

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 岬にはすぐに辿り着くことができた。
 観光名所というだけあって、立て札もあったし、道も整備されている。
 私は、かつてこの世界に生まれ変わる前に、過ごしていた街の記憶を思い出す。そう、こんなふうに、岬と灯台があった。

「……次はベルン様と一緒に来たいな」

 少しだけ寂しいのは、もう帰れない思い出の場所の記憶が蘇ったからだろうか。
 ううん。たぶん、ベルン公爵が、隣にいないからだろう。
 いつのまにか、私は、ベルン公爵の隣にいるのが当たり前になっている。それは、幸せで、少しだけ自分が弱くなったようで、ふわふわ心許ない。

「あっ」

 その時、強い風に、帽子が空高く舞い上がる。
 強い海風だ。あっという間に、遠くに帽子が飛んでいく。その拍子にかんざしまで抜けて、まとめていた髪の毛が、風に煽られる。

「……どうしてここに」

 その声は、不意に耳に飛び込んできた。
 低くて心地よい響き。
 振り返るまでもなく、この声はあの人のだと、半ば確信する。

 振り返った先には、想像通り黒い瞳と髪をした、怖くなるほど美しい男性がいた。ツノはない。良かった。

 カイル・ルドラシア王太子殿下。どうして、メリルお姉様を探しにきて、隣国の王太子殿下と遭遇しているのだろうか、私は。

「セリーヌ・フリーディル公爵令嬢。君がどうしてここに」

 どうしてって、ベルン公爵のお姉様を探しにきたんですよ? とは、流石に言えない。

「アイリ様と、聖女として視察に。ルドラシア王太子殿下こそ、我が国に来るのが、お聞きしていたご予定より、少し早いようですが。それに、私はもう、フリーディル公爵令嬢ではなく、フェンディス公爵夫人です」

 見れば見るほど、ゾッとするほどに美しい。正統派王子様がベルン公爵だとすれば、黒王子様だ。
 たしかに、私も続編がプレイしたかったかもしれない。

「失礼した……。大使館に用があってね。申請はしていたはずだが」

「そうでしたか。失礼いたしました。……あの。ご婚約おめでとうございます」

「ああ、そうだな。……もし、彼女が生きていれば、あなたが、義理の妹になっていたかもしれないのか」

 それはどうでしょう? たぶん、ベルン公爵が呪いを受けたりせず、メリルお姉様がご無事なら、断罪された悪役令嬢と、フェンディス公爵の運命なんて、どうしたって噛み合わなかっただろう。

 それとも、誰も呪われてない世界では、公爵家同士のつながりで、私たちは出会うことが出来たのだろうか。

「……ルドラシア王太子殿下は、なぜここに」

「最後に彼女に会ったのが、この場所だったから」

 ドクンッと、心臓が音を立てた。
 カイル殿下の表情を見れば、どれだけメリルお姉様が好きだったのか、痛いほど伝わってくるから。

「…………あの。あの日、どうして」

「何の話かな?」

「っ……。何でもありません」

 あの日、フェンディス公爵邸で見たのは、確かにカイル殿下だった。でも、どうやってあの場所に? 転移魔法でも使ったのだろうか。

 でも、本人がわからないとでもいうような表情をしているなら、これ以上問いただすわけにはいかないだろう。

「そういえば、ピンク色の髪の少女が、会いに来たよ。もしかして、彼女が王太子妃殿下だったのかな? 不思議なことに、周囲は誰も、彼女が入り込んだことに違和感を持たなかったようだが」

「はぅ」

 アイリ様は、やはりルドラシア王太子殿下に、接触していたらしい。そして、見咎められていたのか。
 フェンディス公爵家の結界すら素通りする、アイリ様のヒロインチートも、メインキャラクターには、効かないのだろうか。

「あの、国際問題……」

「別に。俺しか気が付いてないのに、騒いだら俺がおかしいと思われるだろう? まあ、似たようなことを俺も」

 ――――あ、認めたわ。このお方。

 あえての失言だったのかは、分からない。けれど、こちらの反応を楽しんでいるように見えるこの人は、やはり気を許すことが出来ないと思った。
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