【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら

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思案の外。そして続編。

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 微かな声が聞こえる。

「こうなってしまったら、フェンディス公爵夫人との会話は、しばらく難しいでしょう」

「そう、さすが幼馴染。心得ているわね」

「そうですね……。長い付き合いですから」

「羨ましいわ」

 王宮のさらに奥にある静かな部屋だから、聞き取れないはずのない会話も、思考の波に呑まれた私には、聞こえていなかった。

 ――――隣国の王太子が、魔法の使い手なんて話、聞いたこともない。

「……カイル・ルドラシア殿下」

 もしも、私の推測が正しいのだとしたら、カイル・ルドラシア殿下は……。

 ドアがノックされて、招き入れられた来客にも、私が気がつくことはなかった。
 だから、静かな室内にそぐわない、快活で少し高いその声は、私の心臓を跳ね上がらせる。

「セカンドシーズンの攻略対象者なのよ!」

「ぴぁ?!」

 いるはずのない人の声だった。

 振り返ると、まず目に飛び込んできたのは、ピンクブロンドの艶やかな髪。そして、次に飛び込んできたのは、少し勝ち気な子猫のような蜂蜜色の瞳だった。

「あっ、アイリ様?! いつのまに!」

「……王女宮も、ヒロインの特権が使えるの」

 ……あぁ。どこでも出入り可能な、ヒロインチートですね?

 チラリと、アルト様とユリア殿下に視線を向けるけれど、なぜか乱入してきたアイリ様を、疑問もなく受け入れているようだ。

 しかし、これがヒロインチートなのか、破天荒な行動をとる王太子妃アイリ様への諦めなのか、私には判断しかねた。

「ユリア様、本当に申し訳ないのですが、セリーヌ様をお借りします」

「えっ、ええ。またあとで」

「はっはい。また、中途半端な状況になりまして……ひゃっ!」

「早く!! 私も抜け出してきているの。セルゲイが迎えにきちゃう!」

 この小さく華奢な体のどこにこんな力があるのかというほど、強引に手を引かれる。チラリと横目に見たユリア殿下とアルト様は、肩をすくめた後、なぜか見つめ合っていた。

「……?」

 ようやく、微妙な空気に気づきかけたのも束の間、駆け足のような勢いで、その場を離れ、相変わらず可愛らしさで溢れる、アイリ様の部屋に通された。

「えっと、本日はお兄、いえセルゲイ王太子殿下と、聖女としての活動で出掛けておられたのでは」

「ふんっ! あなたが来ているから、会うために戻って来たに決まってるでしょう? 文句ある?!」

「……私に会いに?」

 ツンツンと、横を向いてしまったくせに、照れているのか耳が赤いアイリ様は、相変わらず私のツボを突いてくる。

 もの凄い攻撃力だ。これでは、すでにアイリ様のツンデレに気がついてしまった純情なお兄様は、太刀打ちできないだろう。

「……今の話、聞いていた? セカンドシーズンの、攻略対象者なのよ!」

「えー? だって、ヒロインのアイリ様は、すでに人妻ではないですか」

 続編は、略奪愛がテーマとでも言うのだろうか? いや、婚約破棄が出てくる時点で、乙女ゲームとは略奪愛がテーマなのか。

「……違うわ。続編のヒロインは、記憶を失った、王太子の元婚約者に生き写しの人なの。そして、略奪愛がテーマの大人向けだわ! だって、ヒロインの年齢も二十代後半なのよ! とてもかわいいキャラデザで、そうは見えないけど」

 本日も、乙女ゲームを語るアイリ様が熱い。
 けれど、その人物に、聞き覚えがあり過ぎて、私は思わず固まる。

「メリル・フェンディス」

 珍しく神妙な表情のまま、私たちは見つめあったのだった。
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