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好感度はカンストしていなかったようです。
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見慣れた天井。
いつのまにか、ここが私の帰る場所になった。
「つまり、ここが私のリスポーン地点なのだ」
「意味の分からない単語を発しながら目覚められると、心配になるのだが」
私の目に飛び込んでくるのは、モフモフの毛並みを持った、私の理想を体現した人。
心配させたいわけじゃない。ただ、そう思ってしまうくらい、私はここに帰ってきたい、ということだ。
「ベルン様っ!」
抱きついたその体は、やっぱりモフモフしていて、温かい。
「違った。こっちが本当のリスポーン地点です」
「――よくわからないけれど、喜んでいいのかな?」
「そ、私がどうしても、帰りたい場所って意味ですから」
「そうか、それは、最高にうれしいな」
その声は、どこか弾んでいるみたいだから、私まで嬉しくなってくる。
記憶が戻っても、戻らなくても、私はこの場所が好きだから。そして、この場所に戻るために、この世界に来た。それだけは、間違いない。
それでも、これだけは聞かないといけない。
赤い色とともに思い出した記憶。
本当に、ベルン公爵が魔法使いだったのか。
「ベルン様も、何か思い出しましたか?」
「ああ、思い出したよ。全部」
「全部?! 私は、一場面だけなのに」
モフモフの毛に覆われたベルン公爵は、その表情が見えない。
それでも、その表情は、いつもなら簡単に予想できるのに、今日はよくわからない。
そのことに不安を掻き立てられる。
「セリーヌは、なにも心配しなくていい」
そんなことを言って、私の髪の毛をそっと撫でるフワフワの大きな手。
「また、そういうことを言って」
そんなことを言われたら、私、ますます不安になってしまうんですよ?
だって、ベルン公爵が、私を守るためならどんな無茶だってしてしまうこと、すでに身をもって体験済みなのだから。
「――――すでに過去のことだ。呪いも消えてしまったから、セリーヌが心配するようなことはないよ」
「それは、そうなのかもしれませんが」
でも、もしそうだとしたら、今になって記憶が蘇っていくのはどうしてなのだろう。
そんな疑問が、不安な胸中を、冷たい北風みたいに掠めていく。
「――ところで、セリーヌ。セリーヌが倒れたせいで、今日一日休みになったから」
「うわぁ……。多忙なお兄様は息災ですか?」
陛下が一線を退いてしまったせいで、政務はベルン公爵とお兄様を中心に回っている。
そんな状態で、ベルン公爵が抜けてしまったら、その穴はだれが埋めるのか。
「セバスチャンと、ウィルド伯爵家のヴィルヘルム殿が手伝いに行っているから。いつもより効率がいいくらいだろう」
――――万能執事の双頭が王宮に?!
王宮の影の部分をまとめるヴィルヘルムさんと、表のすべてをまとめていくセバスチャンが手を組んだら、王宮のすべてを手に入れられるのではないだろうか。
そんな馬鹿な考えが、浮かんでは消えていく。
――――うん、たぶんそれは事実だろう。あの二人が、それをしないだけの話で。
「見たい! 執事最強伝説」
「何言ってるの……。それより」
急に熱をはらんだベルン公爵の瞳に、私のどこかが警鐘を鳴らす。
「――――あの」
「こんな時に、他の人間の話なんて、無粋だとは思わない?」
「いや……あの、その」
おやおや? いつも以上に、私を見つめる視線が、熱くないですか? 記憶を取り戻した、せいですか?
「久しぶりに時間が取れたんだ。今日は、俺だけのセリーヌでいて」
「すでにベルン様だけの私ですけど。結婚もしましたよね?」
「……無自覚に、煽らないでくれるかな? そんなことを言われると、片時も離せなくなりそうだ」
――――えっ、じゃあ、どう答えたらいいんですか?!
煽ったつもりのない私と、目を逸らすことなく、その美しい瞳で見つめてくるベルン公爵。
どうも会話の選択肢を間違えてしまったらしい。
未来を考えたとき、この選択肢が正解だったのか、不正解だったのか、誰にもわからない。
わからないにしても、この世界に乙女ゲームみたいなパラメーターがあるなら、この瞬間、それは確実に上がったに違いない。
「好感度の上限はどこにあるんですか……?」
すでにカンストしたと思われたベルン公爵の好感度パラメーターは、もしかしたら青天井なのではないだろうか。
それとも、隠しパラメーターが存在するのだろうか。主に、ヤンデレ属性を上げてしまったり。
「ま、まさかね?」
私は翌日、ベッドの中で、ぼんやりとそんなことを考えた。
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