【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら

文字の大きさ
上 下
98 / 177

隣国の王太子と婚約者。

しおりを挟む

「……ユリア殿下、どうしてお兄様と婚約なさらなかったんですか」

「今になって、なぜ?」

 よく考えれば、お兄様こそユリア殿下の婚約者には、立場も何もかもがピッタリだ。

 お兄様とユリア殿下は、いつか政略結婚をすると二人とも口にしていた。

 だから私としては、お兄様とユリア殿下が、婚約するのだろうとおもっていたのだけれど。

「今だからこそ、です」

 ユリア殿下の政略結婚の相手は、隣国の王太子殿下。でも、お兄様だって、国内の情勢や、王位継承権から考えて、むしろ相応しいように思うのに。

「……セルゲイ様だけは嫌だわ。愛する人と結婚したいだなんて、私の立場では思うことも許されない。それでも、あんまりだもの。本当に……アイリ様と一緒になってくれて、ほっとしているの」

「――――あのぅ、どなたか好きな方が?」

「……それは、決して口にしてはいけない類のことだわ。でも、セルゲイ様ではないことだけは、はっきりと明言しておくわね?」

「そうですか……」

 気高く優雅に微笑んだユリア殿下は、嘘をついているようには見えない。
 これは、これ以上踏み込んではいけない、繊細な領域なのだろう。

「出過ぎた真似をいたしました」

「いいえ、私がこんな話をできるのは、セリーヌ様だけ。聞いていただけて、重荷が降りたようですわ」

 隣国の王太子といえば、ベルン公爵のお姉様、ベルン公爵を助けて儚くなった、メリル・フェンディスの元婚約者だ。

 あの日、メリルお姉様は、隣国の王太子に会っていたため、ベルン公爵の呪いに巻き込まれることはなかった。

 そして、まだ息のあるベルン公爵を見つけた……。

 あれから十年余り。隣国の王太子殿下は、新たな婚約者を作ることがなかった。

 そんなこと、立場上許されるはずもないのに。

 ――――もしかして、すごく好きだったのかな? メリルお姉様のこと。

 静まり返った室内。横を見ると、感情を押し殺したように唇の端を歪めたベルン公爵の姿が瞳に映る。

 ――――平気でいられるはず、ないよね。

 私は、ユリア殿下に向き直って口を開いた。

「……そろそろ、退室の許可を」

「ええ、そうね。……ああ、でも帰りに、セリーヌ様だけで、私の部屋に寄って欲しいわ。あなたの可愛らしいドレス姿を楽しめるのも、あと少しだけだもの。付き合って下さるわよね?」

 ピンクの色彩のあんなドレスや、リボンやフリル満載のこんなドレスが脳裏に浮かぶ。

「……光栄でございます」

「ふふっ。セリーヌ様は、着せ替え甲斐がありますわ」

 その直後、ベルン公爵とユリア殿下の、友情の固い握手を見た。さっきまで、気まずい感じの距離があったくせに。

 よく分からないけれど、そんなことで、ユリア殿下とベルン公爵の気が晴れるなら、お付き合いしよう。

 少しだけため息が出るくらいは、許して欲しいけれど。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...