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魔法が解けたんですか?
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✳︎ ✳︎ ✳︎
まばゆい光が王都を包んだ事件から、数カ月がたった。
そして今日、二組の結婚式が、新たな王都の話題になっている。
「どうして、お揃いのドレスなんですかっ!」
「ユリア殿下から、贈られてきてしまったのだもの。この後、それぞれ着替えるのだからいいじゃない?」
「ううっ。同じドレスのはずなのに、違うデザインみたいに見えて嫌ですぅ!」
たしかに、清純派ヒロインとしてその生を受けたアイリ様は、清純派な感じのスタイルをしている。
対して、悪役令嬢として形作られた私のスタイルは……。
「あんまり見ないでくださいっ!」
――――いや、でもむしろこのドレスを着こなしているのは、かわいらしいアイリ様だと思うのだけど。この、ヒロイン品質の隣で花嫁として並び立つとか、比べられてしまって私もツライ。
その時、控室の扉が開いて、ベルン公爵とお兄様が現れた。
「――――ところで、何でベルン様は、モフモフのままなんですか? 王子様の頂点みたいなお姿はどうしてしまったんです?」
「……さあ、なぜかベルン様だけはそのままの姿だったのよね?」
「……うーん。私の方も乙女ゲームで、完全にベルン様の呪いが解けたのがいつだったのか。それだけが思い出せないんですよねぇ」
アイリ様にもわからないらしい。そもそも、乙女ゲームのシナリオからは、全てが大きくずれてしまった。
――――エルディオ殿下も、辺境に新しく民主制の国を立ち上げると言って、王都から去ってしまった。
「ぜったいに、遊びに来て」
エルディオ殿下は、何かが吹っ切れたようにすべての仮面を脱ぎ捨てて笑っていた。
きっとそれは、私たちが夢見た王族も、平民もない世界で。
たぶん、どんな困難があろうとも、エルディオ殿下なら成し遂げてしまうに違いない。
つまり、エルディオ殿下は王位継承権を放棄してしまったのだ。
「ベルン様。王太子殿下にご挨拶しなくては」
「ああ、そうだな」
「いや、お前が王位継承しろと言っているだろう?」
「っふ。俺は、この姿だからなぁ……」
「こんな時だけ、ズルいぞお前」
モフモフの姿から、戻ることができないベルン公爵も王位継承権を放棄してしまった。
私としても、王妃なんてごめんなのだ。
むしろ自由に、エルディオ殿下の国にだって遊びに行きたい。
「いいんじゃないですか? さっさと、王政なんて古臭い制度は解体してしまいましょう。エル様が見本を見せてくれるでしょうから」
「簡単に言うなよ……」
「あなたが作った王国なんですから、責任もって解体もしたらいいと思います」
「――――意味が分からない」
お兄様がかつての勇者だったのは間違いないのだろう。
まったくそちらの記憶は、戻っていないようだけれど。
お兄様は、優しいお兄様のままだ。
そして、呪いが解けてしまうと同時に、私とアイリ様はそれぞれ闇魔法と光魔法のほとんどを失った。
闇魔法と言っても、私はちょっと部屋を暗く出来るくらい。
光魔法と言っても、アイリ様はかすり傷を治すことが出来るくらいのレベルだ。
代わりに、お兄様は闇魔法と光魔法もその身に宿してしまったらしい。
昨日も、制御できない魔法を身に着けるためにベルン公爵に特訓されていた。
どうしても、上達しなかった剣術の腕も、めきめき上がっているらしい。
「文武を備えた英雄王と呼ばれるのも、そう遠くないかもしれないな」
そう言ってお兄様を鍛えているベルン公爵は、今までになく楽しそうだ。
きっと、王位を継がないのだとしても、陰に日向にお兄様を支えていくのだろう。
二組の男女が誓いの口づけをした時、再び王都が光に包まれた。
モフモフの口づけは、いつの間にか柔らかい感触に変わって、そっと目を開けば目の前には王子様みたいな人が久しぶりに私を見つめて微笑んでいた。
「――――魔法が解けたんですか?」
「うーん、一時的かもしれないけどね? でも、どんな姿でも、セリーヌのことを生涯幸せにすると約束するから」
「はい……。私も、どんな姿のベルン様もずっと愛すると誓います」
やっぱりほんの少し意地悪に見えてしまう口元と透明で美しい緑の瞳で微笑んで、愛する人は私に誓いの言葉を捧げてくれた。
まばゆい光が王都を包んだ事件から、数カ月がたった。
そして今日、二組の結婚式が、新たな王都の話題になっている。
「どうして、お揃いのドレスなんですかっ!」
「ユリア殿下から、贈られてきてしまったのだもの。この後、それぞれ着替えるのだからいいじゃない?」
「ううっ。同じドレスのはずなのに、違うデザインみたいに見えて嫌ですぅ!」
たしかに、清純派ヒロインとしてその生を受けたアイリ様は、清純派な感じのスタイルをしている。
対して、悪役令嬢として形作られた私のスタイルは……。
「あんまり見ないでくださいっ!」
――――いや、でもむしろこのドレスを着こなしているのは、かわいらしいアイリ様だと思うのだけど。この、ヒロイン品質の隣で花嫁として並び立つとか、比べられてしまって私もツライ。
その時、控室の扉が開いて、ベルン公爵とお兄様が現れた。
「――――ところで、何でベルン様は、モフモフのままなんですか? 王子様の頂点みたいなお姿はどうしてしまったんです?」
「……さあ、なぜかベルン様だけはそのままの姿だったのよね?」
「……うーん。私の方も乙女ゲームで、完全にベルン様の呪いが解けたのがいつだったのか。それだけが思い出せないんですよねぇ」
アイリ様にもわからないらしい。そもそも、乙女ゲームのシナリオからは、全てが大きくずれてしまった。
――――エルディオ殿下も、辺境に新しく民主制の国を立ち上げると言って、王都から去ってしまった。
「ぜったいに、遊びに来て」
エルディオ殿下は、何かが吹っ切れたようにすべての仮面を脱ぎ捨てて笑っていた。
きっとそれは、私たちが夢見た王族も、平民もない世界で。
たぶん、どんな困難があろうとも、エルディオ殿下なら成し遂げてしまうに違いない。
つまり、エルディオ殿下は王位継承権を放棄してしまったのだ。
「ベルン様。王太子殿下にご挨拶しなくては」
「ああ、そうだな」
「いや、お前が王位継承しろと言っているだろう?」
「っふ。俺は、この姿だからなぁ……」
「こんな時だけ、ズルいぞお前」
モフモフの姿から、戻ることができないベルン公爵も王位継承権を放棄してしまった。
私としても、王妃なんてごめんなのだ。
むしろ自由に、エルディオ殿下の国にだって遊びに行きたい。
「いいんじゃないですか? さっさと、王政なんて古臭い制度は解体してしまいましょう。エル様が見本を見せてくれるでしょうから」
「簡単に言うなよ……」
「あなたが作った王国なんですから、責任もって解体もしたらいいと思います」
「――――意味が分からない」
お兄様がかつての勇者だったのは間違いないのだろう。
まったくそちらの記憶は、戻っていないようだけれど。
お兄様は、優しいお兄様のままだ。
そして、呪いが解けてしまうと同時に、私とアイリ様はそれぞれ闇魔法と光魔法のほとんどを失った。
闇魔法と言っても、私はちょっと部屋を暗く出来るくらい。
光魔法と言っても、アイリ様はかすり傷を治すことが出来るくらいのレベルだ。
代わりに、お兄様は闇魔法と光魔法もその身に宿してしまったらしい。
昨日も、制御できない魔法を身に着けるためにベルン公爵に特訓されていた。
どうしても、上達しなかった剣術の腕も、めきめき上がっているらしい。
「文武を備えた英雄王と呼ばれるのも、そう遠くないかもしれないな」
そう言ってお兄様を鍛えているベルン公爵は、今までになく楽しそうだ。
きっと、王位を継がないのだとしても、陰に日向にお兄様を支えていくのだろう。
二組の男女が誓いの口づけをした時、再び王都が光に包まれた。
モフモフの口づけは、いつの間にか柔らかい感触に変わって、そっと目を開けば目の前には王子様みたいな人が久しぶりに私を見つめて微笑んでいた。
「――――魔法が解けたんですか?」
「うーん、一時的かもしれないけどね? でも、どんな姿でも、セリーヌのことを生涯幸せにすると約束するから」
「はい……。私も、どんな姿のベルン様もずっと愛すると誓います」
やっぱりほんの少し意地悪に見えてしまう口元と透明で美しい緑の瞳で微笑んで、愛する人は私に誓いの言葉を捧げてくれた。
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