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作者は誰ですか?
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ベルン公爵と帰路につく王都の真ん中で、私たちの馬車は民衆に囲まれてしまった。
「中にいて?」
「いざとなったら、私の魔法で」
「……」
無言のままにっこりと笑うその笑顔に、私の提案がバッサリと否定されたことを理解する。
「まあ、見ていて?」
不安に思いながら、馬車から外を覗いている。たぶん、今は王子様みたいな姿だから、捕まったりしないだろうけれど。
ベルン公爵が捕まったら、どうやって助けよう。
それなのに、予想に反してベルン公爵は子どもたちに群がられ、大人たちも笑顔だ。
「……?」
なんだか予想と違う。これは大歓迎?
しばらくすると、もみくちゃにされていたベルン公爵が馬車に戻ってきた。
「……あの」
「全部、セリーヌのおかげだ」
「え? そんなはず」
「セリーヌは、俺の手本だから」
まったく意味が分からないままに、ベルン公爵にエスコートされると私にも子どもたちが群がってきた。
しゃがんで目線を合わせてみる。
どの子も元気そうだ。
「セリーヌが、家出している間に助けた人たちだよ」
そういえば、食堂の女将さんは元気だろうか。
後日、お兄様が挨拶に行って伝えられる範囲のことは伝えたと言っていた。
迷惑をかけたお礼をしたら、とても驚かれたと言っていた。
たぶん、公爵家令息の感覚でお礼をしてしまったに違いない。
いつか会って、謝りたいけれど、顔を合わせるのが怖い。
「お姫様……」
小さな女の子が、目をキラキラさせながら近寄ってくる。
そういえば、ベルン公爵がこんな風に人と近くで関わっていたなんて意外だった。
そうこうしているうちに、時間が過ぎてしまったらしい。
ベルン公爵の体が、モフモフに戻ってしまう。
人々が騒めく。
「セリーヌ、いい?」
この流れからの「いい?」の意味は、いくら私でも理解できる。
黙ってうなずくと、軽くキスされた。
羞恥心のあまり、ギュッとつぶっていた目を開けると、王子様みたいな人が目の前にいる。
「――――すごい! お姫様のキスで魔法が解けるの?」
「そうだ」
子供に嘘つかないで下さいと言いたいけれど、どう考えても事実だ。未だに理解が追い付かない。
馬車に戻り、窓の外を眺めながらベルン公爵に質問する。
「あの……。私が家出している間に人を助けたことと、私がお手本ということが繋がらないのですが」
だって、私は特に人助けをしたことなんてない。
ほとんど、お屋敷の中で過ごしているのだから。
「――――その行動も、表情も、言葉も……俺にはないものだから」
「ベルン様が、私みたいになってしまったら困ります」
それを聞いたベルン公爵は、黙って笑っていたけれど。
本当に、いろいろな情報と出来事が一度に起こった今日一日。
私は、最後に起こった出来事のことはすっかり忘れて、ベッドに飛び込んだ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
ちなみに、後日ベルン公爵がどうしてわざわざモフモフの姿を民衆の前に再び見せたのかを理解させられることになる。
「セリーヌ、お土産」
「ありがとうございます。本ですか? ずいぶん可愛らしい表紙ですね?」
最近、王都では恋愛小説が爆発的な人気という話は聞いていた。
内容までは知らなかったけれど、王都では手に入らないほど人気という小説を買ってきてくれたらしい。
「ここで読んでいって?」
――――執務室で?
たしかに、いつもここで本を読んでいる。
最近は、執務室の角に一人用のソファーと照明、サイドテーブルが置かれて、私の読書スペースになっている。
……普段は、勉強や調べもののためにこのスペースを使わせてもらっているけれど、執務室で恋愛小説なんて読んでもいいのだろうか?
「あの、部屋で」
「ここで読んでいってくれると嬉しい」
「そう……ですか」
ベルン公爵に押し切られる形で本を読み始めた私は、開始数ページですでに後悔し始める。
……まさか、まさかね?
大衆向けの本には、挿絵が入っていた。
描いた人は、まさに神絵師だった。
ぜひ今度お招きして麗しい貴公子三人が一緒に過ごす絵を描いていただきたい。
たしかに、物語もとても面白い。どんどん読み進められる。
……でも、でも?!
登場人物の髪と瞳の色とか、特徴とか。
王子様が悪い魔女の呪いで野獣の姿にされ、純粋な心の乙女のキスで元の姿に戻るとか。
読み進める度に、頬がどんどん熱くなっていく。
「あの……」
「三十五ページがおすすめかな」
「読んだんですか?」
「――――まあね。発売当日にいつもの服と一緒にユリア殿下から送られてきた」
ベルン公爵は多才だ。
そして、全てを計算して実行している節がある。
この本もその一環で作られたのに違いない。
しかし、社交界でも、民衆の間でも、ファッションリーダー的な影響力を持つユリア殿下によるプロデュースの可能性も捨てきれない。
最近では、なぜかモフモフの姿のまま出かけていくことが増えたベルン公爵。
ずっと、人の姿でいられないなら、モフモフを民衆に受け入れられるように動く方が良い。そういうことなのだろうか?
ベルン公爵の水面下での戦いの結果なのだと思うことにした。
それにしても、挿絵の主人公のドレスが全部、古のお姫様風なのやめて欲しい。
そういう格好が、お好みだったんですか?
時々、なぜか楽しそうにチラチラこちらに目を向けるベルン公爵。
羞恥心に耐えながら読み終わり、落ち着いて表紙を見てみたら、作者の名前はセバスチャンになっていた。
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