【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら

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褒めると三倍で返ってくるんですね。

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 私は今、一心不乱に雑巾がけをしている。
 使用人たちは、たぶんもう私のそんな姿を見慣れてしまったのだろう。通常営業だ。
 静かに近づいてきたアンネが黙ってバケツの水を替えてくれた。

 考え事をしすぎて、なにも良い案が浮かばなくなった時には、心を集中させるために家事に精を出すに限る。

「セリーヌ? そろそろ準備しないと」

 最近は、所用のため王子様モードでいることが多いベルン様。振り返ると、今日の装いはシックな黒でまとめられていて、妖艶さすら感じる。

「カッコいいです。目がつぶれそう」

「……微妙に、褒められているのかけなされているのか分かりにくい」

「――――褒めているんですよ」

 あれから、数日間。実に平和な毎日を過ごしている。
 働く人を増やした最初の頃は、使用人の皆さんに趣味を奪われてしまっていたけれど、最近は私の分を残してくれるようになっている。

 仕事のできる人たちは違う。この絶妙な忙しさ。素晴らしい。

「そう? モフモフって言っているときの姿の方が好きなのだと思ってた」

 ……モフモフは最上級に好きだ。

 でも、このカッコよさは、乙女ゲームで攻略対象者として出会っていたら、一目で一推しだっただろう。それくらい、ベルン公爵は私の好みを全て凝縮したような見た目をしている。

「見た目を褒められるの、好きじゃないのかと思って。でも、私の好み全て凝縮したような姿をしています。今のベルン様は……」

「えっ? いきなり全力で攻めてくるの、やめて欲しい」

 なぜか、ベルン様が目の下をうっすらと赤くした。
 なるほど。十五年容姿について褒められていなかったせいで、自己評価が低めなんですね?
 もっと褒めた方がよさそうです。

「セリーヌだって、俺の好みのど真ん中だ。宵闇のような髪と、上品な黄金。……俺の月の女神」

 うわー、もっと褒めようかと思った矢先に三倍になって返って来るんですね! 
 
 だから褒めるの嫌なんです!
 
 そのまま、私の髪の毛を一房掴んで口づけをする様子を、どこか他人事のような気持ちで見つめる。
 すべてが私に起こっている事態だと認識してしまうのは、心臓に負担がかかりすぎる。

「さ、この姿でずっといるのも厳しいものがあるから。……まあ、俺としてはセリーヌとこんな風に過ごすために、すべての時間を使ってもいいと思っているけれど? いっそこのまま二人で部屋に籠ろうか」

 バチンッ、と一筋だけ雷みたいな魔力が弾けて消えていった。
 いかにも無念といった様子で、ベルン公爵が伸ばしかけていた手を引っ込める。

「――――速攻で、準備してきます!」

 直後、私たちの会話を聞いていたらしいアンネと、商人のハンネスさんの紹介で増えた侍女たちが私を連れ去っていく。

「月の女神ですって! ちょうど、旦那様も黒でまとめておられますもの。今回のテーマは決定ですね!」

 なぜか私の何倍もさっきの発言に盛り上がっているらしい侍女たち。
 私は、もみくちゃにされながら、今日もベルン公爵に少しでもふさわしくあるための婚約者の皮をかぶらされた。
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