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キスはお終いです。
しおりを挟むキスをした後に、一瞬の静寂が訪れる。
目の前にいる人は、モフモフのままだった。
「――――ベルン様」
「セリーヌ、本当に何があったんだ」
「……少しだけ体調が良くないのかもしれないです」
そんなのもちろん嘘だけど、気持ち的には今すぐに布団をかぶってしまいたい。
ベルン公爵の姿が変わらなかったことで、逆に私は今までどうやってその姿を元に戻していたのか理解した。やはり、光魔法を無意識に使っていたのだ。
でも、私の予想が正しいのなら、ベルン公爵はヒロインと出会うまでこの姿の方が良かった。
呪いは一つではなかったのだから。
「――――セリーヌを抜きに話をしたのは悪かった」
「……それくらいのことで、怒っていませんよ?」
アルト様に、何を頼んだのか実は予想がついてしまっている。
ベルン公爵は、呪いが二重にかかっていることを私が知らないと思っているのだから。
『このままじゃベルン様の呪いが解けなくてかわいそう』
ヒロインの言っていたことの意味。
それは、ベルン公爵が完全に呪いを解く方法を、ヒロインは知っているということ。
そして、私にはそれができないということ。
「キスをするとベルン公爵が、元の姿に戻る訳が分かりました」
「え……?」
私は、光魔法を意識して使ってみた。
すると、ベルン公爵の姿が麗しい人に変わる。
「今まで、無意識に光魔法の力を使っていたみたいです。やっと気がつきました。だから、元の姿に戻る必要があるときは、いつでも言ってもらえればできますよ」
だから、キスするのは今のでおしまいにする。
「――――セリーヌ」
「さ、テーブルクロスを食堂にセットするのを手伝ってもらえませんか? 一年待ちですよ? どうやって手に入れたんですか」
「作っている工房に、代金のほかにも幻といわれている布をつけたら、キャンセル枠に入れてくれたんだよ」
「じゃあ、早くセットしてお茶にしましょう!」
さっき、もしアルト様が来なければ、きっと私は取り返しがつかないことをしていた。
呪いを解く方法が、光魔法なのだとすれば、私はそこまで強い力を持っていないから。
「――――ああ、そうだな」
侍女のアンネが入れてくれた紅茶は今日も一流だったし、並べられたスイーツもいつも通り素晴らしかった。
でも残念ながら今日の私は、笑顔で喜んでいるそぶりを見せるのに精いっぱいで、味が全く分からなかった。
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