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内緒話って宣言してからしますか?
しおりを挟む部屋で立ったままで待っていたアルト様は、私と目があった瞬間、安心させようとでもするかのように微笑んだ。
だからこそ、事態が深刻なのだと私には伝わってしまう。幼馴染は、いつも全力で私を守ろうとしてくれていたから。そして、そんな時こそ私に向ける表情は「大丈夫だから」と笑顔だったから。
「アルト殿……。貴殿がこのように訪れるとは、何が起こった?」
「……カレント男爵令嬢は、ここを訪れましたか?」
どうして、ヒロインが来たかなんて、そんなことを聞くのだろうか。王太子の婚約者が、そんな簡単に外出できるはずもないのに。
「……いや? そもそも、俺が認めていない人間は、ここに入ることは出来ないはず」
え、それってまさか夫婦喧嘩すると屋敷に入れてもらえなくなるやつですか!?
「――――はあ。セリーヌは無条件で入れるし、逆に俺を追い出すこともできる」
心を読みましたか?! そして、追い出しませんけど?!
間違って、ベルン公爵が屋敷に入れなくなったら一大事。やっぱり夫婦喧嘩は、全力で避けようと、気の早い私は心に誓う。
「……この数日、王宮の様子がおかしい。セルゲイ殿が走り回って調整しているが……。それに、王太子殿下といつも一緒にいたはずのカレント男爵令嬢の姿が見えないんだ」
「そうか。わざわざ、知らせていただき感謝する」
「……セリーヌのためです」
やっぱり、アルト様の幼馴染贔屓がすぎる。私のことを周りと一緒に断罪してしまったことを、引きずっているのだろうか。
アルト様のせいではないのに。
「それでも、感謝する。……ところで、折りいって頼みがあるのだが」
「――――何でしょうか?」
「セリーヌ。アルト殿と内緒話がしたいから、少し席を外していて?」
内緒話をするから席を外せなんて……。でも、逆にそこまでハッキリ言われてしまうとお断りしにくい。
「セリーヌ様、新しいテーブルクロスが届いておりますよ?」
「えっ! 一年待ちじゃなかったの?!」
「急なキャンセルが入ったようです」
――――セバスチャンは、心得ている。
「それでは、アルト様。失礼いたします」
「また、会いましょう。セリーヌ」
私は、テーブルクロスに興味を示したことにして、応接室を後にする。
一年待ちのテーブルクロス。
本当だったら、踊り出してしまいそうなくらい心躍るだろうに……。
「ベルン様なんて……」
私に話せなくて、アルト様に話せることって何だろう。モヤモヤした気持ちを切り替えることができずに、テーブルクロスを後で見ることにした私は、一人にしてもらうことにした。
その時、窓の外に人影があることに気づく。
――――許可した人以外、入れないって言っていたのに。
そこにはなぜか、無邪気な笑顔で私に手を振るヒロインがいた。
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