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二人の距離感
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義兄と婚約することが決まってから、半年が経過した。
義兄と私の関係は、今までと大きく変わらない。というより、ほとんど会うことがなかった。いったん私だけが、領地に戻り過ごしていたからだ。
正式なお披露目のため、今日私は再び王都に来た。義兄と会うのも半年ぶりだ。
「お久しぶりです、お義兄様」
「ああ、久しぶりだなアイリス」
半年合わないうちに、兄はさらに大人びただろうか。
(ううん、私ももうすぐ16歳になるし、背だって伸びたもの!)
しかし、成長期は終わったはずの義兄との身長差は相変わらず縮む様子がない。
まるで私たちの距離のようだ。
そっと手が差し出され、その上に自分の手を重ねる。
「会いたかった」
「ひぇっ!?」
義兄が私を見つめて、甘く微笑んだ。
余りに意外な言葉と、蕩けそうな微笑みに変な悲鳴が出てしまった。
続いて頬がひどく火照ってくる。
「……お義兄様」
「名前で呼ぶようにと言ったはずだ」
「シルヴィス様!!」
「アイリス」
「ひゃっ」
義兄は無自覚なのだろうか。
いつも厳しい表情を崩さない義兄が微笑むのは心臓に悪い。
微笑んだ義兄は、おそらく王都で一番可愛らしくかつ素敵に違いない。
「幼いアイリスは可愛らしかったが、どんどん美しく変わっていくな」
「お義兄様」
「きっと、さぞや美しい女性だったのだろう」
「……」
残念ながら、義兄が夢で知っている三年後、私にその先はなかった。やり直し前の私には、あと二年半先の晩秋死んでしまったのだ。
「アイリス?」
「……っ、さあ! お父様が待ちかねているでしょう。執務室に行きましょう、お義兄様」
「シルヴィス」
「……シルヴィス様」
それにしても、距離が縮んだのか、私だけが近づけていないのか。
私の手を握った義兄の手は大きくて温かい。それだけは、変わることがない。
(それにしても、そんなに名前で呼ばれたいのかしら)
私が緊張のあまり息も絶え絶えになりながら名を呼ぶたびに義兄はとても嬉しそうに笑う。
その笑顔はとても心臓に悪いけれど、もう一度見てみたくてしかたがない。
「シルヴィス様……」
「……アイリスの言うとおり、父上は首を長くして待っている。行こうか」
意を決して、自分から名を呼んだけれど義兄は振り返らなかった。
残念に思いながら見つめる。
(あれ? お義兄様の耳、真っ赤な気がするわ……)
気のせいかな、と首を傾げた私は、なぜか足を速めた義兄に引っ張られるように父の執務室へと向かうのだった。
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