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建国祭の舞踏会
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あれから、義兄の過保護さには磨きがかかってしまった。
指先が痛むだろうと、どんなに軽いものでも取り上げられるように代わりに持ってくれるし、段差を越えるにも抱き上げられる始末だ。
その間にも建国祭の舞踏会に参加するための準備は急ピッチで進んだ。
建国祭は、貴族たちが一堂に集まる。
そして、特にその家の女主人が身につける衣装は貴族家の興隆を現すように贅がこらされる。
(それにしたって、やりすぎだと思うの……)
自分のドレスの金額を考えるのが恐ろしい。もしかしたら会場で一番豪華なのは、大陸各地から最高級品を集め、最高の職人たちがその手腕を余すところなく発揮した私のドレスかもしれない。
やり直し前、この年の建国祭には、父の喪に服していたため我が家は参加していない。
本来ならば、私と義兄の婚約を公にお披露目するはずだった。
(何もかもが変わっていく……そんな気がするの)
義兄と私は、やり直した今、兄妹としての結びつきを強固にしているけれど、婚約者ではなくなった。
ちらりと義兄を見上げれば、まるで漆黒の夜空に浮かんだ月のような少々の恐れを感じるほどの美しさだ。
黒髪に金色の瞳をした義兄は、私を見下ろして微笑んだ。
(そう、婚約者ではなくなったはず)
黒い盛装は金色の装飾で彩られ豪華だ。そして、所々に控えめに飾られた淡い紫色の宝石……。
(妹の色合いを建国祭で身につける兄がどこにいますか!?)
私たちが義理の兄妹であることは広く知れ渡っている。こんな色合いを身につけたら、周囲から勘違いされるだろう。
(いや、お父様は私と同じ色合いをしているから、家族で揃えたように見えなくもない……かしら?)
私のドレスは白を基調にしてやはり金色の装飾と淡い紫色の宝石に彩られている。
マントのように肩から飾り布が下げられていて、今流行りのデザインを取り入れつつ、古代の神殿の聖女のドレスを参考にしているため、厳かかつ個性的でもある。
「おや、二人とも麗しいじゃないか。まるで、お揃いのお人形みたいだね」
やや、のんびりとした声がかけられる。
そちらに視線を向けると、白い正装を身につけた父がこちらに歩み寄ってくるところだった。
(お父様こそ、会場中の視線を攫うのでは……)
父と母は王立学園で出会い、卒業直後に私を授かった。まだ父は若いのだけれど、それにしても眩い。
当主として着飾った父は、義兄とお揃いの色違いの正装だ。
淡い紫色の目が細められると、娘の私すらクラクラしてしまうほど格好いい。
「さて、気を引き締めていこうか」
「お父様……」
「大丈夫、アイリスのことは僕たちが守るよ」
父は頼もしさを感じる笑みを浮かべた。
次いで義兄に視線を送ると、やはり口元を釣り上げて微笑んでくる。
(そう、気を引き締めないといけないわ。それにしても、この二人に挟まれて参加したら、私はまったく目立たないわね、きっと)
二人にエスコートされて向かった建国祭の舞踏会。煌びやかなその場所で、しかし私は予想外に、その夜一番の注目を浴びることになるのだ。
そんなことを知らずに足を踏み出す。
身につけていた繊細なチェーンのアンクレットが、私の足下でシャラリと音を立てたのだった。まるで運命が再び動き出すのを告げるように。
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