24 / 36
兄妹
しおりを挟む「あ、あの……お義兄様?」
「少しだけでいい、このまま」
「……」
激しい心臓の鼓動はいったいどちらのものなのだろう。
しばらくその音に耳を傾けていると徐々に気持ちが落ち着いてくる。
「……すまない、アイリスがあまりに綺麗で消えてしまいそうに思えた」
腕の力が緩んだので、クルリと向きを変えて義兄と向き合う。
義兄の金色の瞳は、暗闇に負けず月のように光り輝いている。
義兄は一人取り残された幼子みたいな表情を浮かべていた。
「大丈夫です、私は消えたりしませんよ」
「記憶があるなら危険だとわかるだろうに、アイリスは、なぜあの場所に来たんだ」
「お義兄様こそどうしてお一人で……」
お互いの質問にすぐに答えることができず、見つめ合う。
「アイリスには父上が必要だ」
その言葉を聞いた瞬間、私の中でなにかが崩れた。
「私にとって、お義兄様だってお父様と同じくらい大切な人です!!」
声が枯れそうなほど叫んだ。
想定外の言葉を聞いたかのように義兄が目を丸くしているのが腹立たしい。
(違う、お父様のことは大切だけれど私は出会った瞬間から……)
大粒の涙がこぼれ落ちてしまった。
いくら暗がりだからって、もう誤魔化すことはできない。
「どうしてですか……確かに私が駆けつけたって足を引っ張るだけだったけれど……」
確かに、私が行かなければ義兄は一人で解決したのかもしれない。
(でも、どうしてなの……生きることを諦めてしまったように思えたのは)
「私を家族だと思ってくれるのなら、ちゃんと相談して、ちゃんと帰ってきてほしいです」
「……」
義兄は黙ったまま、スルスルと私の手袋を外した。そして、傷だらけになって爪まで剥がれてしまった私の指先を見つめた。
「……!?!?!?」
壊れ物を扱うような仕草で私の手を持ち上げた義兄が、私の指先にそっと口づけした。
「もう二度と誰にも傷つけさせない。アイリスを傷つける全ては俺が」
顔を上げた義兄が、暗がりの中で微笑んだ。一瞬だけ、肉食獣に狙いを定められた獲物のような気分になる。
「あの、良い兄になるのでは」
「そうだな……良い兄になって、この世界の全てから守るから」
「……この、世界の、全て?」
「そう、全てから君を守るよ」
私の抱く兄と義兄が抱く兄の概念には、もしかして天と地ほどのズレがあるのでは。
月下で金色の瞳を煌めかせながら妖艶な微笑みを見せた義兄を前にふと思う。
(そんなはず……ないよね)
「さて、父上に叱られに行くか」
「……言いつけを破ってしまいましたものね」
「それに、心配しているだろう」
ふわりと足下が宙に浮く。
子どもみたいに抱き上げられ、その不安定さに思わず義兄の肩にしがみついた。
「歩けます」
「足にも怪我をしていた」
「お義兄様こそ、大怪我でした」
「もう治った」
「わかりきった嘘をサラリと!?」
離れようと身じろぎしたけれど下ろしてもらえそうもなかったため、私は諦めてもう一度義兄にしがみついたのだった。
470
お気に入りに追加
1,302
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。
氷雨そら
恋愛
聖女としての力を王国のために全て捧げたミシェルは、王太子から婚約破棄を言い渡される。
そして、告げられる第一王子との婚約。
いつも祈りを捧げていた祭壇の奥。立ち入りを禁止されていたその場所に、長い階段は存在した。
その奥には、豪華な部屋と生気を感じられない黒い瞳の第一王子。そして、毒の香り。
力のほとんどを失ったお人好しで世間知らずな聖女と、呪われた力のせいで幽閉されている第一王子が出会い、幸せを見つけていく物語。
前半重め。もちろん溺愛。最終的にはハッピーエンドの予定です。
小説家になろう様にも投稿しています。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
我慢してきた令嬢は、はっちゃける事にしたようです。
和威
恋愛
侯爵令嬢ミリア(15)はギルベルト伯爵(24)と結婚しました。ただ、この伯爵……別館に愛人囲ってて私に構ってる暇は無いそうです。本館で好きに過ごして良いらしいので、はっちゃけようかな?って感じの話です。1話1500~2000字程です。お気に入り登録5000人突破です!有り難うございまーす!2度見しました(笑)
異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?
夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる