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「お姉様、ご無事にロバート様と逃げおうせたかしら?」
「大丈夫、懇意の商人にはしっかり迎えをお願いしてあるから。」
今日はリリアンナ・セルトルート侯爵令嬢とレイモンド王太子殿下の婚約式。
3ヶ月前まで姉のマリアンナが王太子殿下の婚約者であったが
王太子と妹リリアンナが恋に落ち、国を騒がせるスキャンダルを経て
姉と王太子は婚約破棄。妹を迫害したとして幽閉。
妹と王太子の婚約が正式に発表された折には、姉の国外追放も決まった。
妹の温情で、姉には小さい頃からの侍従のみが付き添うことが許された。
婚約式に影が落ちてはいけないので、同日姉は幽閉先の侯爵家監禁部屋より
連れ出され、侍従とともに国境の森に捨てられることになっている。
しかし、これは表向きの予定。
マリアンナに歪んだ恋慕を持つ王が、国境近くの崖に
馬車を落とす計画を立てていた。
”崖に落とす前にマリアンナのみ回収し、一生地下牢に閉じ込め愛してやろう。
マリアンナが生きているといえば、マグノリアもわが手に落ちるかもしれぬ。”と
執務室で暗部に命じているのを、自分の影から伝え聞いた王太子は
マリアンナの幸せを共に願うリリアンナに伝え、早急に対策を練った。
本当は王太子もリリアンナも、心から
マリアンナと恋人の侍従の幸せを願っていた。
せっかくうまく芝居を打って婚約破棄をし、姉とロバートを国外追放という名で
避難させることができるというのに、王はどこまでも狂っていた。
マリアンナとリリアンナは母違いの姉妹。
貴族家ではよくあることで、夫人同士仲が良ければ安泰だが
リリアンナの母は実家が下級貴族なのを僻み、マリアンナの母を目の敵にしていた。
マリアンナの母は公爵家の出。
品格も美貌もマリアンナの母のほうが数段上なのにも関わらず
“あのお高く留まった女の娘には絶対に負けるな!”とリリアンナに厳しく命令し、
家庭内であっても交流をさせなかった。
しかしリリアンナは優しく美しい義母と姉が大好きで、実母に隠れて
交換日記をしたり、お揃いの物を宝物にし隠し持っていた。
姉は侍従のロバートと将来誓いあった仲であったが、狂った王の命により
突然に引き裂かれた。
姉と王太子の婚約が決まった日、涙に塗れた日記のページには
『私は愛する人と添い遂げられないが、リリアンナは幸せな結婚をしてね』
と綴られていた。
王妃の嫉妬による厳しい王太子妃教育に、どんどん表情をなくしやせ細っていく姉。
マリアンナを想うが、何もできずに血が出るほど手を握りしめ耐えているロバート。
そんな二人を見て、リリアンナは姉と恋人の仲を絶対に守ると心に誓った。
姉を口実に王太子に近づき、好みの女性を演じ自分に目を向けさせるよう頑張った。
するとある時、レイモンドはリリアンナにこう耳打した。
「リリアンナ、君は僕の事が好きじゃないよね?」
リリアンナの笑顔が凍り付いた。なぜバレた。
順調に王太子の関心を得たと思っていたのに。
「僕は、その理由も知っているよ。そして、僕もまた
君の姉と彼が幸せになってくれたらと思っているよ。」
レイモンドは、姉とロバートの事を知っている。知っていて、
幸せになってくれればと思っている・・・どういうことだろう?
頭が混乱し、黙りこむリリアンナにレイモンドは優しく言った。
「僕と君は同士だ。協力し合わないか?」
それから、リリアンナとレイモンドはお互いの気持ちや今後の方針を
全て打ち明けあった。
リリアンナからは、姉を慕う想いと姉・ロバートの国外追放という名の避難計画。
レイモンドからは、自身の血に対する嫌悪とマリアンナ達の本当の愛への羨望。
2人は、マリアンナとロバートのため 何としても婚約破棄からの国外追放を決行し
彼らの幸せを守ろうと誓いあった。
まず、リリアンナが計画していた国外避難を完璧にするため、
レイモンドが懇意にしている商人に避難の手助けを依頼した。
これでマリアンナとロバートの国外での暮らしも安泰になった。
次に、王の歪んだ愛が暴走しないか王太子専属の影に王宮をくまなく見はらせた。
どこで悪事が計画されるかもわからない。どんな小さな予兆も逃さぬよう
レイモンドは自分の警護を削ってでもしっかりと見張るように命令した。
計画は順調に進んでいた。レイモンドとリリアンナは恋仲と周りに見られ、
マリアンナはそんなリリアンナを邪魔に思い、いじめをしていると噂が立ち始めた。
レイモンドは、愛しいリリアンナをいじめる姉を叱責。
公式なパーティーで婚約破棄を宣言し、それと同時にリリアンナとの婚約を宣言。
将来の王妃を迫害したと姉の幽閉を命令した。
2人は見つめ合い、計画の第一段階成功に安堵した。
しかし、事はそう安念には進まなかった。
もうすぐ婚約式だという頃になって、
影から『王のマリアンナ誘拐計画』の報告が上がってきた。
狂った王に対抗すべく、リリアンナは侯爵家から連れてきたメイドに
”かわいそうなお姉様にせめてもの餞別”と裾に王の計画を書いた手紙を
密かに縫い付けた 汚いドレスを届けさせた。
姉は、妹からのドレスの細工に気づき 婚約式の前日、侯爵家から逃げ出した。
隣国までの旅路や今後の生活はレイモンド懇意の商人が完璧に手筈を整えた。
一方、リリアンナたちは王に姉の動向がばれぬ様 どうするべきか頭を抱えていた。
すると、暗部よりレオナルドに『次期王の命に随行す。』という文章が届けられた。
暗部も現王のマリアンナに狂った言動に、国の未来を憂い仕える主を選んだようだ。
レオナルドは早々に暗部を呼び、王には
“谷に落ちた馬車と恋人を追い、マリアンナも谷に飛び降りた“と報告させた。
怒り狂った王は、暗部に谷底の捜索を命令。マリアンナの死体を確保し
“娘に合わせてやる”とマグノリアをおびき寄せることにした。
しかし、マリアンナの死体などどこを探してもあるわけがなく
計画は暗礁に乗り上げる。
リリアンナは王宛に無記名の手紙で王妃のマリアンナいじめを告発し
それを読んだ王は、さらに狂い王妃を叱責。
“お前のせいでマリアンナは絶望し死んだ”と、王城の廊下で王妃を罵った。
八つ当たりにも等しい言動に、貴族たちは王の精神を危ぶみ
王太子の1日も早くの王就任を望んだ。
王妃も狂った夫に恐怖を感じ、後宮に引きこもった。
王の狂った愛は、マリアンナの母マグノリアにも手を伸ばした。
咎人の母に、罰として宮中で奉仕するよう愛妾にさせようと企んだ。
しかし、この企みも実行する前に暗部からレイモンドに知らされていた。
リリアンナは、早急にマグノリアに秘密裏に手紙を送り
マグノリアが娘の死に打ちひしがれて、病に倒れたと噂を流した。
マグノリアは手紙に記された計画通り、屋敷に引きこもり病の振りをする。
暗部の用意した医者が診察し、衰弱死を偽装。
リリアンナの連絡から10日後には、娘のいる国外に逃亡した。
娘と第1夫人を亡くした侯爵家は、悲しみに浸ると思いきや
リリアンナの母リンデラが、新第1夫人披露の茶会を開き貴族達から顰蹙を買った。
そして、リンデラを止められなかった侯爵も非常識な男と言われ、
侯爵家親族から代替わりを要求される事態に陥った。
レイモンドとリリアンナは今後の自分たちの事について話し合った。
レイモンドもリリアンナも後ろ盾となる実親たちはそろって失脚。
王になるにはあまりにも地盤が弱い。
「ねぇ、リリ。君は王妃になりたい?」
「いいえ、レイ様。私はもともと男爵家出身の母の子。
王妃などになれる器ではございません。」
「そうか、僕も本当はあの狂った父の血を王家に残したくないんだ。
後ろ盾のない僕たちは臣籍降下し、公爵の中から次代を選んでもらおう
と思っているんだよ。」
「レイ様は、王になりたくないのですか?」
「うん、あの狂った父も王太子だった時はきちんと状況を判断し、
初恋をあきらめることができていた。
なのに、王になって権力を得てあのように狂ってしまった。
僕にはあの狂った男の血が半分流れ
後の半分にはあの嫉妬深い女の血が流れている。
将来どのように狂ってしまうのか、自分でも恐ろしいのだよ。
ならば、たとえ狂ったとしても民に迷惑のかからないように臣籍降下し、
前々から興味のあった鉱石の研究者になろうと思うんだ。」
「私もこの姉と揃いのかんざしにある空青の石が大好きです。
これはなんという名の石か、レイ様ご存じですか?」
「これはアマゾナイトという石だね。大きな河川の側でとれる石だ。
侯爵領でもよく取れる石だよ。」
「そうなのですね。私も姉も瞳の色に似ているこの石が大好きなのです。
私もレイ様と一緒に、素敵な石を探したいですわ。」
「ならば、私たちが臣籍降下できるように計画を立てなければね。」
「そうですね、”策士 策に溺れる”にならぬよう綿密に致しましょう。」
こうして自分たちの臣籍降下のため、レイモンドとリリアンナは動き出した。
まずリリアンナは、マリアンナが良く着ていたドレスを身に纏い王妃に面会した。
マリアンナのようにふるまうリリアンナに、
王妃は怯え『いじめたことを復讐に来た』と騒ぎ立てた。
看病といいながら足蹴く通い、王妃を追い詰めていくリリアンナ。
最後には王妃が発狂しリリアンナに襲い掛かったが、影が難なく王妃を拘束。
”このままでは母が壊れリリアンナが殺される”というレイモンドの言葉で、
王妃は幽閉塔に監禁された。
王は、王妃を訪ねるリリアンナをたまたま見かけ その後ろ姿をマリアンナと惑い
リリアンナを付け回すようになる。
王の狂行を憂い、レイモンドと宰相が会談。
王を王妃と共に病気療養という名の幽閉とすることを決めた。
その際レイモンドは、宰相に
“王太子てして今後国を背負うには後ろ盾がなさすぎる自分ではなく、
公爵家から出すべき”と進言し リリアンナの実家に身を寄せると申しでた。
宰相は反対したが
“私は狂人の息子だ”と苦しげに伝えると、宰相は何も言えなかった。
こうしてレイモンドとリリアンナは、計画通り臣籍降下。侯爵家に身を寄せた。
侯爵領は鉱石産地を多く持つが、侯爵の無能さであまり開発がされていなかった。
レイモンドは、まず侯爵から実務を取り上げ リンデラと共に隠居させた。
リンデラは抵抗したが“またお茶会で笑われたいか?”と言われ、隠居を受け入れた。
侯爵はレイモンドに頭を下げ、“リリアンナを頼む”と言って
隠居先に旅立っていった。
レイモンドとリリアンナは、侯爵家の財政を見直し
領内で多く取れるあのアマゾナイトの販路を開拓。
隣国で商人として成功している姉夫婦・義母にも協力を依頼し、
センスの良い義母にデザインさせた装飾品を販売、社交界に流行させた。
レイモンドは、他の鉱石も出ないかと領内の鉱山をくまなく調べ金鉱山等を発掘。
生涯、鉱山を渡り歩き探鉱侯爵とあだ名された。
リリアンナは、姉と頻繁に手紙をやり取りし レイモンドが発掘した色石を使い
次々と装飾品を作成、美しい姉妹で身に着け流行を牽引した。
アリアンナとロバートの間には娘が生まれたが、
レイモンドとリリアンナは生涯、子を作らなかった。
レイモンドの“狂った血は残したくない”という思いを尊重したものだった。
セントルート侯爵家は、のちにアリアンナとロバートの娘リリアを養子に迎え
リリアを女公爵として引き継がれることとなった。
リリアンナは、リリアに夫婦の仲を聞かれた時にこう答えたという。
「そうね、レイ様はいつも鉱山を回ってらして、
忙しいからなかなかお会いできないけれど、私はレイ様を尊敬し信頼しているの。
レイ様もまた私を信頼してくださっているわ。
それは、二人で困難に立ち向かい共に戦った同士であった歴史から来るものだから
なかなか他のご夫婦では成立しえないものかもしれないわね。
あなたの母様父様は、万難を排し すべてを捨てても愛を貫いた。
私たち夫婦は、万難を乗り越え 欲しいものを勝ち取るために共に戦った。
夫婦の在り方はいろいろだわ。リリア、あなたは自分の信じる道を行き
生涯信じられる方を見つけなさい。
愛することと信じること、きっとそれは同義だわ。」
そう語るリリアンナの髪には、空色に輝くアマゾナイトのかんざしが飾られていた。
アマゾナイトの石言葉 それは 希望への導き。
姉妹をそれぞれの希望へ導いたその石は、長くセルトルート侯爵家にて
大切にされたという。
終
「大丈夫、懇意の商人にはしっかり迎えをお願いしてあるから。」
今日はリリアンナ・セルトルート侯爵令嬢とレイモンド王太子殿下の婚約式。
3ヶ月前まで姉のマリアンナが王太子殿下の婚約者であったが
王太子と妹リリアンナが恋に落ち、国を騒がせるスキャンダルを経て
姉と王太子は婚約破棄。妹を迫害したとして幽閉。
妹と王太子の婚約が正式に発表された折には、姉の国外追放も決まった。
妹の温情で、姉には小さい頃からの侍従のみが付き添うことが許された。
婚約式に影が落ちてはいけないので、同日姉は幽閉先の侯爵家監禁部屋より
連れ出され、侍従とともに国境の森に捨てられることになっている。
しかし、これは表向きの予定。
マリアンナに歪んだ恋慕を持つ王が、国境近くの崖に
馬車を落とす計画を立てていた。
”崖に落とす前にマリアンナのみ回収し、一生地下牢に閉じ込め愛してやろう。
マリアンナが生きているといえば、マグノリアもわが手に落ちるかもしれぬ。”と
執務室で暗部に命じているのを、自分の影から伝え聞いた王太子は
マリアンナの幸せを共に願うリリアンナに伝え、早急に対策を練った。
本当は王太子もリリアンナも、心から
マリアンナと恋人の侍従の幸せを願っていた。
せっかくうまく芝居を打って婚約破棄をし、姉とロバートを国外追放という名で
避難させることができるというのに、王はどこまでも狂っていた。
マリアンナとリリアンナは母違いの姉妹。
貴族家ではよくあることで、夫人同士仲が良ければ安泰だが
リリアンナの母は実家が下級貴族なのを僻み、マリアンナの母を目の敵にしていた。
マリアンナの母は公爵家の出。
品格も美貌もマリアンナの母のほうが数段上なのにも関わらず
“あのお高く留まった女の娘には絶対に負けるな!”とリリアンナに厳しく命令し、
家庭内であっても交流をさせなかった。
しかしリリアンナは優しく美しい義母と姉が大好きで、実母に隠れて
交換日記をしたり、お揃いの物を宝物にし隠し持っていた。
姉は侍従のロバートと将来誓いあった仲であったが、狂った王の命により
突然に引き裂かれた。
姉と王太子の婚約が決まった日、涙に塗れた日記のページには
『私は愛する人と添い遂げられないが、リリアンナは幸せな結婚をしてね』
と綴られていた。
王妃の嫉妬による厳しい王太子妃教育に、どんどん表情をなくしやせ細っていく姉。
マリアンナを想うが、何もできずに血が出るほど手を握りしめ耐えているロバート。
そんな二人を見て、リリアンナは姉と恋人の仲を絶対に守ると心に誓った。
姉を口実に王太子に近づき、好みの女性を演じ自分に目を向けさせるよう頑張った。
するとある時、レイモンドはリリアンナにこう耳打した。
「リリアンナ、君は僕の事が好きじゃないよね?」
リリアンナの笑顔が凍り付いた。なぜバレた。
順調に王太子の関心を得たと思っていたのに。
「僕は、その理由も知っているよ。そして、僕もまた
君の姉と彼が幸せになってくれたらと思っているよ。」
レイモンドは、姉とロバートの事を知っている。知っていて、
幸せになってくれればと思っている・・・どういうことだろう?
頭が混乱し、黙りこむリリアンナにレイモンドは優しく言った。
「僕と君は同士だ。協力し合わないか?」
それから、リリアンナとレイモンドはお互いの気持ちや今後の方針を
全て打ち明けあった。
リリアンナからは、姉を慕う想いと姉・ロバートの国外追放という名の避難計画。
レイモンドからは、自身の血に対する嫌悪とマリアンナ達の本当の愛への羨望。
2人は、マリアンナとロバートのため 何としても婚約破棄からの国外追放を決行し
彼らの幸せを守ろうと誓いあった。
まず、リリアンナが計画していた国外避難を完璧にするため、
レイモンドが懇意にしている商人に避難の手助けを依頼した。
これでマリアンナとロバートの国外での暮らしも安泰になった。
次に、王の歪んだ愛が暴走しないか王太子専属の影に王宮をくまなく見はらせた。
どこで悪事が計画されるかもわからない。どんな小さな予兆も逃さぬよう
レイモンドは自分の警護を削ってでもしっかりと見張るように命令した。
計画は順調に進んでいた。レイモンドとリリアンナは恋仲と周りに見られ、
マリアンナはそんなリリアンナを邪魔に思い、いじめをしていると噂が立ち始めた。
レイモンドは、愛しいリリアンナをいじめる姉を叱責。
公式なパーティーで婚約破棄を宣言し、それと同時にリリアンナとの婚約を宣言。
将来の王妃を迫害したと姉の幽閉を命令した。
2人は見つめ合い、計画の第一段階成功に安堵した。
しかし、事はそう安念には進まなかった。
もうすぐ婚約式だという頃になって、
影から『王のマリアンナ誘拐計画』の報告が上がってきた。
狂った王に対抗すべく、リリアンナは侯爵家から連れてきたメイドに
”かわいそうなお姉様にせめてもの餞別”と裾に王の計画を書いた手紙を
密かに縫い付けた 汚いドレスを届けさせた。
姉は、妹からのドレスの細工に気づき 婚約式の前日、侯爵家から逃げ出した。
隣国までの旅路や今後の生活はレイモンド懇意の商人が完璧に手筈を整えた。
一方、リリアンナたちは王に姉の動向がばれぬ様 どうするべきか頭を抱えていた。
すると、暗部よりレオナルドに『次期王の命に随行す。』という文章が届けられた。
暗部も現王のマリアンナに狂った言動に、国の未来を憂い仕える主を選んだようだ。
レオナルドは早々に暗部を呼び、王には
“谷に落ちた馬車と恋人を追い、マリアンナも谷に飛び降りた“と報告させた。
怒り狂った王は、暗部に谷底の捜索を命令。マリアンナの死体を確保し
“娘に合わせてやる”とマグノリアをおびき寄せることにした。
しかし、マリアンナの死体などどこを探してもあるわけがなく
計画は暗礁に乗り上げる。
リリアンナは王宛に無記名の手紙で王妃のマリアンナいじめを告発し
それを読んだ王は、さらに狂い王妃を叱責。
“お前のせいでマリアンナは絶望し死んだ”と、王城の廊下で王妃を罵った。
八つ当たりにも等しい言動に、貴族たちは王の精神を危ぶみ
王太子の1日も早くの王就任を望んだ。
王妃も狂った夫に恐怖を感じ、後宮に引きこもった。
王の狂った愛は、マリアンナの母マグノリアにも手を伸ばした。
咎人の母に、罰として宮中で奉仕するよう愛妾にさせようと企んだ。
しかし、この企みも実行する前に暗部からレイモンドに知らされていた。
リリアンナは、早急にマグノリアに秘密裏に手紙を送り
マグノリアが娘の死に打ちひしがれて、病に倒れたと噂を流した。
マグノリアは手紙に記された計画通り、屋敷に引きこもり病の振りをする。
暗部の用意した医者が診察し、衰弱死を偽装。
リリアンナの連絡から10日後には、娘のいる国外に逃亡した。
娘と第1夫人を亡くした侯爵家は、悲しみに浸ると思いきや
リリアンナの母リンデラが、新第1夫人披露の茶会を開き貴族達から顰蹙を買った。
そして、リンデラを止められなかった侯爵も非常識な男と言われ、
侯爵家親族から代替わりを要求される事態に陥った。
レイモンドとリリアンナは今後の自分たちの事について話し合った。
レイモンドもリリアンナも後ろ盾となる実親たちはそろって失脚。
王になるにはあまりにも地盤が弱い。
「ねぇ、リリ。君は王妃になりたい?」
「いいえ、レイ様。私はもともと男爵家出身の母の子。
王妃などになれる器ではございません。」
「そうか、僕も本当はあの狂った父の血を王家に残したくないんだ。
後ろ盾のない僕たちは臣籍降下し、公爵の中から次代を選んでもらおう
と思っているんだよ。」
「レイ様は、王になりたくないのですか?」
「うん、あの狂った父も王太子だった時はきちんと状況を判断し、
初恋をあきらめることができていた。
なのに、王になって権力を得てあのように狂ってしまった。
僕にはあの狂った男の血が半分流れ
後の半分にはあの嫉妬深い女の血が流れている。
将来どのように狂ってしまうのか、自分でも恐ろしいのだよ。
ならば、たとえ狂ったとしても民に迷惑のかからないように臣籍降下し、
前々から興味のあった鉱石の研究者になろうと思うんだ。」
「私もこの姉と揃いのかんざしにある空青の石が大好きです。
これはなんという名の石か、レイ様ご存じですか?」
「これはアマゾナイトという石だね。大きな河川の側でとれる石だ。
侯爵領でもよく取れる石だよ。」
「そうなのですね。私も姉も瞳の色に似ているこの石が大好きなのです。
私もレイ様と一緒に、素敵な石を探したいですわ。」
「ならば、私たちが臣籍降下できるように計画を立てなければね。」
「そうですね、”策士 策に溺れる”にならぬよう綿密に致しましょう。」
こうして自分たちの臣籍降下のため、レイモンドとリリアンナは動き出した。
まずリリアンナは、マリアンナが良く着ていたドレスを身に纏い王妃に面会した。
マリアンナのようにふるまうリリアンナに、
王妃は怯え『いじめたことを復讐に来た』と騒ぎ立てた。
看病といいながら足蹴く通い、王妃を追い詰めていくリリアンナ。
最後には王妃が発狂しリリアンナに襲い掛かったが、影が難なく王妃を拘束。
”このままでは母が壊れリリアンナが殺される”というレイモンドの言葉で、
王妃は幽閉塔に監禁された。
王は、王妃を訪ねるリリアンナをたまたま見かけ その後ろ姿をマリアンナと惑い
リリアンナを付け回すようになる。
王の狂行を憂い、レイモンドと宰相が会談。
王を王妃と共に病気療養という名の幽閉とすることを決めた。
その際レイモンドは、宰相に
“王太子てして今後国を背負うには後ろ盾がなさすぎる自分ではなく、
公爵家から出すべき”と進言し リリアンナの実家に身を寄せると申しでた。
宰相は反対したが
“私は狂人の息子だ”と苦しげに伝えると、宰相は何も言えなかった。
こうしてレイモンドとリリアンナは、計画通り臣籍降下。侯爵家に身を寄せた。
侯爵領は鉱石産地を多く持つが、侯爵の無能さであまり開発がされていなかった。
レイモンドは、まず侯爵から実務を取り上げ リンデラと共に隠居させた。
リンデラは抵抗したが“またお茶会で笑われたいか?”と言われ、隠居を受け入れた。
侯爵はレイモンドに頭を下げ、“リリアンナを頼む”と言って
隠居先に旅立っていった。
レイモンドとリリアンナは、侯爵家の財政を見直し
領内で多く取れるあのアマゾナイトの販路を開拓。
隣国で商人として成功している姉夫婦・義母にも協力を依頼し、
センスの良い義母にデザインさせた装飾品を販売、社交界に流行させた。
レイモンドは、他の鉱石も出ないかと領内の鉱山をくまなく調べ金鉱山等を発掘。
生涯、鉱山を渡り歩き探鉱侯爵とあだ名された。
リリアンナは、姉と頻繁に手紙をやり取りし レイモンドが発掘した色石を使い
次々と装飾品を作成、美しい姉妹で身に着け流行を牽引した。
アリアンナとロバートの間には娘が生まれたが、
レイモンドとリリアンナは生涯、子を作らなかった。
レイモンドの“狂った血は残したくない”という思いを尊重したものだった。
セントルート侯爵家は、のちにアリアンナとロバートの娘リリアを養子に迎え
リリアを女公爵として引き継がれることとなった。
リリアンナは、リリアに夫婦の仲を聞かれた時にこう答えたという。
「そうね、レイ様はいつも鉱山を回ってらして、
忙しいからなかなかお会いできないけれど、私はレイ様を尊敬し信頼しているの。
レイ様もまた私を信頼してくださっているわ。
それは、二人で困難に立ち向かい共に戦った同士であった歴史から来るものだから
なかなか他のご夫婦では成立しえないものかもしれないわね。
あなたの母様父様は、万難を排し すべてを捨てても愛を貫いた。
私たち夫婦は、万難を乗り越え 欲しいものを勝ち取るために共に戦った。
夫婦の在り方はいろいろだわ。リリア、あなたは自分の信じる道を行き
生涯信じられる方を見つけなさい。
愛することと信じること、きっとそれは同義だわ。」
そう語るリリアンナの髪には、空色に輝くアマゾナイトのかんざしが飾られていた。
アマゾナイトの石言葉 それは 希望への導き。
姉妹をそれぞれの希望へ導いたその石は、長くセルトルート侯爵家にて
大切にされたという。
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