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「・・・どうして、どうしてなの。どうしたら私だけを愛してくださるの。」
あぁ、今日も私のかわいいお嬢様が悩んでいらっしゃる。
あのくそ婚約者のせいで、美しく可愛らしい天使のようなお嬢様のお顔が
ここのところずっと曇っている。ゆるすまじ、くそスイート。
はっ、私としたことが。由緒正しきシット伯爵家ジェラシーお嬢様専任侍女として
あるまじき思考。心頭滅却、観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時・・・。
ふぅ、般若心経のお題目を唱えると心が落ち着くわぁ。
私は、シット伯爵家にお仕えする侍女。名前はカンゼ。
ジェラシーお嬢様のお世話を専任で任されて6年になる。
お仕えし始めた当時のお嬢様(10歳)のかわいらしさと言ったらもう・・・。
天使が舞い降りたかと思うほど。美しい黄金色の髪と青い瞳。
私の挨拶にまるで小鳥のさえずりのような可愛らしいお声で
“よろしくね、カンゼ”と言って微笑んでくださった時は昇天するかと思った。
その時私は心に決めた。お嬢様に一生お仕えし、必ず幸せになっていただくと!
私には前世の記憶がある。
前世 寺の娘であった私は、尼になるため仏教学部に入学し、
独り暮らしを始めた矢先 アパートが火事になり焼死した。享年18歳。
どんなに心頭滅却しても火事には勝てなかった。が仏様が転生をさせてくださった。
信心深く読誦を欠かさなかった私に、仏が輪廻の輪からお救い下さり、
”この世界に転生し、お嬢様にお使いせよ”と申されているのだ。
お嬢様に出会った時 私はそう確信した。
現世は、私が大好きだったラノベの世界にすごく似ていた。
まぁ、ジェラシーお嬢様も私も所謂モブで私なんか名前も出てこない。
ノンフクションとなったラノベは、書き込まれていない背景で
人が生き・思考する当たり前の世界であった。
前世の記憶があるため、少々頭の良い子として騎士爵子女ながら
伯爵家に奉公することができ、お嬢様のお世話を任される侍女にもなれた。
私は、ジェラシーお嬢様を菩薩様のごとく崇め奉り、
毎晩お嬢様の部屋に向かって読誦している。
先日、少々読誦の声が大きかったためか、執事長に“悩み事でもあるのか?”
と聞かれてしまった。反省。
現在、私の大切なお嬢様はくそバカ婚約者キザ伯爵家次男スゥイートのせいで、
毎夜眠れぬ夜を過ごしている。
決してR18な件ではなく、あのくそバカが何度もやらかす浮気のせいである。
本当にあのくそバカは、どんだけ脳内が腐っているのか
ちょっと見目麗しい女性がいれば、声をかけずにはいられない。
で、頭もゆるけりゃ下半身もゆるいので、婚約者がいながら
愛人を作ってはバレ、別れてはまた作り、を繰り返す。
もう恋愛依存?性行依存?かと思うほどのお盛んさ。人というより獣である。
そんなくそバカに日夜悩まされているお嬢様に、周りがいくら
”別れたほうがいい”、”もっと他にいい男はいっぱいいる”
と言っても、肝心のお嬢様が婚約解消に首を縦に振らない。
一途なお嬢様は、こんなくそバカでも愛していて
ヤツが愛人とともに出かければ現場に行き、ヤツを問い詰める。
ここでお嬢様が素晴らしいのは、決して相手を責めることはなさらない。
あくまでもヤツだけを問い詰める。菩薩様(ー人ー)
そしてくそバカが表面上反省し、3日ほど聖人君子な態度をすると
またふらふらと花を探す蝶のように、女を探す。そのくりかえし。
婚約を交わした翌日に婚活舞踏会に行くようなくそ野郎なのだから、
お嬢様も見切りをつければよいものを、恋は盲目。痘痕も靨。
未だほれ込んでいる。
「カンゼ、旦那様がお呼びだ。お嬢様には ばれぬ様に執務室に行くように。」
執事長が、お嬢様用のお茶を運んでいた私にそっと耳打ちしてきた。
遂に来た。お嬢様が一番恐れていた”伯爵のご決断”だ。
私は、嘆くお嬢様のおそばにそっとお茶を置き 静かに部屋を出た。
執務室にご挨拶をして入ると、中には旦那様と奥様、
次期当主のアンガー坊ちゃまがいらっしゃる。
「カンゼ、ジェラシーの様子はどうだ?」
「はい、毎夜スィート様の不実に 悩み苦しんでらっしゃいます。」
「そうか・・・先日も、逢瀬の場に出向いたとか。」
「はい、12回目でございます。
今回はメイド喫茶のアンアンという女が相手でした。」
「ジェラシーは、あの馬鹿とまだ婚約を続けるつもりなのか?」
アンガー様がイライラを隠すことなく、旦那様とのお話し中に口を挟まれた。
「はい、毎夜どうすればジェラシーお嬢様だけを愛してくださるのかと
思い悩んでおられます。」
「馬鹿な義妹だ。あんな顔だけの男、はやく捨ててしまえばいいものを。」
「恐れながら申し上げます。お嬢様には、スイート様を超える男性が必要かと。」
「超える男?」
「はい、お嬢様を愛し慈しみ いついかなる時もお側でお守りくださる。
昔からお嬢様の愛読されている 物語の騎士様のような方がおられれば、
すぐにでも婚約解消をご決断なさると思います。」
「そ、そんな男 どこにいるのだ。あの義妹に言い寄る輩でもいるのか?」
「アンガー、落ち着きなさい。カンゼは“そんな方がいれば”といっただけで
“いる”とは言ってないわよ。」
お嬢様そっくりの菩薩のような奥様が、坊ちゃまをなだめてくださる。
助かった。坊ちゃまは普段は冷静沈着であられるのに、事お嬢様のことに関すると
感情の制御がお苦手になられ、暴走気味になられる。
アンガー様は旦那様の弟君のご子息で、ジェラシー様ご誕生後、
次子は望めないと医師に言われたシット家に養子として引き取られた。
ジェラシー様とは2歳違いで、お嬢様を目に入れても痛くないほど溺愛している。
いっそ、アンガー様がジェラシー様を娶り伯爵家を継げばよいのに・・・。
と奉公人一同が思っているが、
あくまでも兄という態度を崩さず厳格なアンガー様と
厳しい態度のお兄様が少々苦手なジェラシー様。
この二人が添い遂げることは難しいだろう。
旦那様も奥様も特に何もおっしゃらないので、奉公人達の思いは実らない。無念。
「どんなにジェラシーが思っていても、相手があれでは無理であろうなぁ。」
「父上、自分が奴を成敗してまいります。なに、闇討ちすれば伯爵家に害は」
「落ち着きなさい、アンガー。普通に破棄すればいいだけだ。」
「しかし、それではジェラシーの心がいつまでも奴に残って」
「だから、落ち着けと言っている。そうならぬ様にジェラシーには
きちんと言い聞かせればよい。あれも貴族の娘。そこは弁えているだろう。」
「・・・はい。」
「キザ家からのたっての願いで結んだ婚約だったのだから、
ジェラシーさえ納得すれば解消に拒否はできないだろう。
もちろんそんな生ぬるいことでは許さぬ。破棄を喰らわせてやるがな。」
旦那様のお顔が、不動明王のように怒りに染まっています。恐ろしや。
「アンガー、ジェラシーを大事に思っていますか?」
「母上、なにをいきなり。もちろんジェラシーは我が家の宝。
何よりも大事に思っています。」
「では、なぜいつもちょっと口調が強いのです?」
「それは・・・あの子は警戒心もなくあちこちの男に笑顔を見せるので・・・。
変な虫がついてしまうと叱っているのに無自覚で・・・。」
「母から見ると、普通の貴族の娘の対応だと思うけれど?」
「いえ、シット家の宝石が微笑めばどんな男も恋焦がれます。
不埒な輩があの子に手を出すのではと心配で・・・。
いつも警戒しなければいけないのです。」
「スイート様との婚約時、あなたは反対しなかったじゃない。
当時から彼は少々恋多き方だとうわさがあったと思うけど?」
「自分は、スイートに
”婚約したら、脇目も振らずジェラシーに尽くす”と約束させました。
そうすれば、自分はジェラシーと奴に家督を任せ 実家の男爵家に戻ると。」
「なんだと?そんな勝手な約束をしたのか?」
「自分はもともと男爵家の子。伯爵家に養子にいていただき、父上母上の子となり、
ジェラシーの兄となり、裕福な生活としっかりした教育を授けていただきました。
ジェラシーがこの家を継ぐのであれば、生涯伯爵家の寄り子として
男爵家の仕事をしながら生きていこうと考えております。」
坊ちゃまは男爵家の次男。お戻りになっても爵位は継げません。
なのに、生涯伯爵家ひいてはジェラシー様に仕えると。なんて深い愛なのでしょう。
お嬢様を幸せにできるのは坊ちゃまが一番だと思うのですが。
「アンガー、あなたは自分の手であの子を幸せにしたいとは考えないの?」
「自分は不器用で、あやつのようにジェラシーが望む言葉を
かけてやることもできない朴念仁です。ジェラシーが自分との婚姻を望むことなど
万に一つもありません。」
「恐れながらアンガー様。お嬢様の好きな男性のタイプご存じですか?」
「・・・スイートのような男であろう。王子のような外見と優しい口調甘い言葉。
どれをとっても、自分にはないものだ。」
「いいえ、お嬢様は自分を愛し慈しみ、
いざという時は何をおいても自分を守ってくれる騎士様のような方が理想です。」
「騎士?王子ではなく?」
「はい、王子さまは基本守られていらっしゃいます。
いざという時は断然騎士様のほうは心強い。
お嬢様はそんなたくましい方が好みです。
スイート様のご面相は美しいと思ってらっしゃいますが、
体系は断然アンガー様のほうが好みです。」
「な・・・こんなごつい男でいいのか?
スイートのように足が長く、細い男ではなく?」
「はい、間違いありません。
アンガー様も 御髪をオールバックを止め ナチュラルに戻し、
きっちりと着込んだお洋服を2つほど釦を開け筋肉を見せれば、
お嬢様はイチコロです。
何ならお姫様抱っこをして差し上げれば、もうゾッコンです。」
「・・・・・・ゾッコン。」
あら、アンガー様。止まっちゃいました。
お嬢様のゾッコンを想像して、真っ赤になっていらっしゃる。
「アンガー、私はお前を引き取った時 ゆくゆくはジェラシーと添い遂げ、
伯爵家を継いでほしいと思っていたのだ。
しかし、二人はいつまでたっても兄妹から進まなんだ。
だから、縁はないと思っておったがなぁ。」
「旦那様、アンガーの朴念仁は旦那様似ですわね。
私は二人がとても似合いだと小さなころから思っておりますよ。」
「なんだ、それならば早く言えばいいものを。」
「いいえ、アンガーとジェラシーそれぞれが自覚しなければ恋は始まりませんわ。
旦那様だって、私が手を繋いでやっと自覚してくださったじゃないですか。」
「コホン まぁ あ、あれだ。アンガーも自覚したようだし、あとはジェラシーだな。」
「恐れながら旦那様、それならば私に考えがございます。」
「なんだ?カンゼ言ってみよ。」
「次にあのスイート様が目をつけてらっしゃるのは、巷で悪女と呼ばれている
ズレー子爵家のアバ嬢です。あの男は、きっと10日後の王家主催 夏の舞踏会で
アバ嬢にモーションをかけるでしょう。そこに、お嬢様は必ず向かわれますので
アンガー様がそこで華麗にヤツを撃退。お嬢様に告白!
これでお嬢様はアンガー様のとりこです。」
「そ、そんなこと自分にできるわけが」
「大丈夫です。毎晩、ぶつぶつと読み上げている日記の言葉を
お嬢様に伝えればよいだけです。」
「なななななんでそのことを。」
「奉公人全員が知っております。」
「私も知っているわよ。」
「わしも、知っておる。あれはジェラシーに向けての言葉だったのか?
わしはてっきり舞台の再現でもしているのかと」
「だから、旦那様は朴念仁なんですよ。」
「この屋敷で存じ上げないのは、ジェラシー様だけでございます。」
あ、坊ちゃま頭から湯気が出るほど赤面してらっしゃる。
「しかし、自分そそそそそんなことできるわけが」
「出来る出来ないではございません。やるのです。
為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり
でございます。」
「ナセバナル?なんだそれは?」
「できそうもないことでも、その気になってやり通せばできるという
昔の方の尊い教えです。アンガー様、いつやるの?今でしょ!」
「なんだかよくわからないが、今がその時ということは解った。
自分はジェラシーを娶るためなら、どんな苦労もいとわない。
カンゼ協力してくれ!」
「諾!」
次の日より、屋敷中が一丸となり坊ちゃまによるお嬢様獲得作戦が展開された。
まず、敵をよく知るためアバズレを調査。
まぁ、すんごい女で現在3人の男を手玉に取っている。うち一人は既婚者。
衆合地獄に落ちくされ。ついでにくそバカも落っこちろ。
次に、お嬢様の坊ちゃまに対する印象を好印象に変えるべく
奉公人皆で坊ちゃまを褒める。
お嬢様の部屋下で洗濯をしながら、噂話のように坊ちゃまの筋肉を褒め
お嬢様の部屋のドア前で坊ちゃまが平民の子供を助けた武勇伝を、
これまた噂話のようにみんなで盛り上がり、
私はお嬢様の睡眠中に
坊ちゃま作”愛の日記”を、睡眠学習よろしく耳元にて小声で読み聞かせ
これでもかこれでもかと坊ちゃまを後押しした。
坊ちゃまも、“街に行ったら目に入った”と
お嬢様が大好きな焼き菓子や恋愛小説、可愛らしい花束を買ってきて
お嬢様に無言で手渡していた。
困惑しながらも、“お兄様、私のこと心配してくださってるの?”と
可愛らしく首をかしげるお嬢様。
坊ちゃまが鼻血をこらえ“うんうん”と首を縦に振ると儚げな笑顔で
“ありがとうございます”とお礼を述べるお嬢様。眼福。
その時、坊ちゃまの少し空いた胸元の筋肉をチラ見して頬が赤らむお嬢様。
作戦成功。
王家主催 夏の舞踏会当日。
お嬢様は、白いレースで露出を控えた可愛らしいドレスを着用。
坊ちゃまは、濃紺にお嬢様の髪の色の刺繍が施された礼服に
お嬢様の瞳色のクラバットとチーフ。
くそバカは、エスコートする立場のくせに10分も遅刻し、
会場入り口でお嬢様を待たせる体たらく。
会場に入った途端、お嬢様を壁際にいざない“友人と話してくるね”と
そそくさとアバズレの元へ。くそ大バカ野郎。
お嬢様も、何かを感じくそバカの後をこっそり追う。
その後ろに坊ちゃま。
の後ろに私。
控室にいるべきだが、一大事にそんなことは言っていられない。
「なにをしてらっしゃるの(怒」
お嬢様のヒステリックなお声が聞こえてくる。
始まった。
「な、なんでこんなところまで。ジェラシー嬢、は、はしたないヨ。」
「はしたないのはどちらですか?
婚約者がおりながら、別の女性に言い寄るなんて。」
「いや、僕はただ美しい女性を称賛していただけで。」
「わたくしは、あなたに何も誉め言葉をいただいておりませんが?婚約者なのに。」
「あらぁ、怖い子。目が三角になっちゃってるわぁ。
そんなお顔では殿方に嫌われましてよ?」
「口を挟まないでください。今は、わが婚約者と話しております。」
「あらぁ、お邪魔様。ではあとで楽しみましょうスイート様♡」
「あぁ、申し訳ないねぇ アバ嬢。あなたの美しさに彼女は中てられたようだ。
必ず後で君の元にはせ参じるよ。」
アバ嬢にウインクしやがるくそバカ。
お嬢様の目に今にもこぼれそうな大粒の涙が浮かぶ。
「ジェラシー嬢、嫉妬もほどほどにしてくれないかなぁ。
僕は、美しいものをただ美しいと言っているだけなんだよ?
なのにどうしてそれを責めるんだい?
君からの依頼で受けた婚約だが、こうも嫉心を充てられては
僕もこの先を考えなければいけなくなるよ。」
何言ってんだこいつ。お前の家が傾きかけてるから
お嬢様との婚姻で何とか復活できるよう画策してるくせに。
バカすぎて瘴気を放ちそうだから、土に埋めて成敗するぞ?
「そ、そんな。この婚約はそちらからお話があったはず。」
「はは、負けず嫌いだなぁ。
僕に一目ぼれしたわがまま子猫ちゃんが言い出したことだろ?
その証拠に、君の兄上に“爵位を譲るから、妹を必ず幸せにしてくれ”
と懇願されたよ?」
「お兄様が、爵位を譲る?」
「なんだ、内緒だったのかな?そこまで兄に言わせて平気な顔しているから、
わがままが過ぎるなぁと思っていたけど、知らなかったんなら
まぁしょうがないね。」
「貴様、適当なことばかり言っているその口にサーベルを突っ込まれたいか?」
「お兄様!」
「な、なんて狂暴なんだ。そのようでは、女性が逃げてしまうよ。」
「ジェラシーさえ守れればよい。ほかの女など必要ない。」
「なんだって?君はジェラシー嬢に懸想しているのかい?兄妹のくせに。」
「俺の心の中心にはいつもジェラシーがいる。
ちいさなジェラシーが俺の指をぎゅっと握ってくれたあの時より、
ジェラシーは俺の唯一になった。ジェラシーの幸せが俺の幸せだ。
ジェラシーを泣かせる奴は絶対に許さない。」
「お兄様・・・。」
「はは、なんて美しい兄妹愛だ。そんなにジェラシー嬢が大事なら
自分で守ればいいだろう?なにも僕に頼むことはないさ。
この婚約、君たちの不実で解しょ」
「不実はそなたのほうではないか?」
「?シット伯爵殿。なぜ僕が不実」
「13回もジェラシーに不実を問われているのに、
そなたの頭の中には藁でも詰まっているのか?」
「い、いやあれは相互の認識の違いで決して不実ではなく美しい花を美しいと」
「黙れ愚息!」
「父上!僕はそんな怒鳴られるようなことは」
「五月蠅い五月蠅い五月蠅い。
せっかく裕福なシット家と縁組ができ、家も盛り返せたというのに。
お前は私の言いつけも守らず、まだ女遊びを続けていたのか!」
「女遊びなどと無粋な。それにこの縁談はシット家から来たのでしょう?
婚姻前なんですからちょっとくらい花を愛でても」
「ばかもん!私が頼み込んで結んでもらったんだ!
だがそれも先ほどこちら有責で破棄されたがな!この親不孝者。
二度と我が家の門をくぐるな。勘当だ!」
「えぇ?そんなぁ。僕はどこに行けばいいというのです?」
「どこにでも勝手にいけばよい。これまでの女のところにでも転がり込むんだな。
お前の部屋の服や貴金属は、売り飛ばして慰謝料にするからな。
その服も脱いで行け!」
「いやゃゃゃゃゃ」
女性のような叫び声をあげ、逃げていくくそバカ。因果応報。
「お兄様 お父様、助けてくださってありがとございます。
たとえ相手が悪くても、ああも大声で騒がれれば
わが家の名誉に傷がついてしまうところでした。」
「そんなことはどうでもいい。ジェラシーを泣かせたのだ。
あいつは絶対に許さん。」
「え?私、泣いて・・・。
だって、お兄様が家を出ていかれるって聞いたから・・・。
私、お兄様はずっと家にいてくださるから
何かあったらお兄様が助けてくださるって思っていたのに、
なのにお兄様がいなくなっちゃうなんて・・・。」
「大丈夫だ、ジェラシー。お前のことは俺が守る。
絶対につらい思いはさせない。だから、もう泣き止んでおくれ。
お前が泣いていたら、俺はどうしていいかわからなくなる。」
旦那様は、キザ侯爵の首根っこをひっ捕まえて
ずるずると引きずって 去って行かれました。婚約破棄のお話を進めるのでしょう。
“朴念仁”と奥様にののしられておりましたが、空気の読める男になられました。
奥様の教育の賜物ですね。
「お兄様、どこにも行かない?ずっと私の事守ってくださる?」
「もちろんだ、わが命を懸けてお前を守る。
お前に初めて合ったあの日からお前は俺の唯一。
だからもう泣かないでくれ、わが姫よ。」
「お兄様・・・昔みたいに抱っこしてくださる?」
「いいのか?
俺は筋肉ばかりで、王子様のように優しくは抱っこ出来ないぞ?」
「ううん、お兄様はたくましい私の騎士様だわ。」
おぁ、お二人がそっと抱き合われましたよ。LOVEです、LOVEですわ!
お嬢様獲得作戦大成功!さぁ、わたしもそっとここを離れるとしますか。
出歯亀退散!
その後、坊ちゃまとお嬢様は順調に愛をはぐくみ、半年後に婚約
1年後に盛大な結婚式を挙げ ただいまLOVELOVE新婚旅行中。
タガの外れた坊ちゃまは、もうお嬢様にデレデレ。
いつも手を握り
“愛している”“かわいい”“大好きだ”“大切にするよ俺の唯一”等々、
奉公人が、口にぶち込まれる砂糖で窒息死しそうなくらい甘々である。
その影響で旦那様&奥様もLOVE度が高まり、
あげく奉公人たちもカップル成立が増量し、
私も執事補佐の フツメンだけど細マッチョの仕事の出来る男と結婚した。
お嬢様のお子様の乳母となるため、現在妊娠計画中v
そうそう、あの衆合地獄チームの末路を。
まずくそバカ。
勘当され、女のところを転々としたが誰も受け入れてくれず、
あちこちと流れ流れてスラムへ。
そこで頭目の女に手を出し、阿部定状態 にされ男娼館に売られたとか。
今は女性のごとく、男に使われ気が狂っているらしい。南無。
くそバカ父キザ伯爵。
慰謝料を揃えるのにあくどい商人に金を借り、踏み倒そうとして借金奴隷に。
伯爵家親子ともどもくそだったらしく、元々の借金理由が愛人に貢いだ為と発覚。
見事御家取り潰し。寄り子貴族も誰も助けず。自業自得。
最後にアバズレ。
この女、馬鹿なのか野心家なのか第2王子に毒牙を向け まんまと返り討ちに合い
特殊性癖娼館に落とされた。しかし不屈の精神でなんとか逃げ出し、愛人の元へ。
既婚者だけが味方になり匿ってくれたが、配偶者を逆恨みし刃傷沙汰。
言いがかりも甚だしく“私に彼を返して”とか何とか言って、奥様を刺したらしい。
あっさりつかまり、火炙り。
裁判官からの判決理由が
「不倫は心の殺人。お前は心だけでなく命まで奪った。改心など到底しないだろう。
よって、殺人罪で火炙り。生きたまま大灼熱地獄に落ちるがいい。」
だっだそうだ。え?裁判官も前世 仏門の方?
明日、新婚旅行からお戻りになる坊ちゃまとお嬢様。
さぁ、気合を入れて ご夫婦の寝室を愛の巣に仕立てなければ!
「ところでカンゼ。僕らの愛の巣にコウノトリはいつ頃来るの?」
「あら、それは次期当主ご夫婦の妊娠次第ですわ!
ハネムーンベイビーでしたらすぐ仕込まなければ!!」
「ムードないなぁ。でも、そんなところも大好きだよマイハニー。」
「あら、私もですよ。マイダーリン♡」
終
あぁ、今日も私のかわいいお嬢様が悩んでいらっしゃる。
あのくそ婚約者のせいで、美しく可愛らしい天使のようなお嬢様のお顔が
ここのところずっと曇っている。ゆるすまじ、くそスイート。
はっ、私としたことが。由緒正しきシット伯爵家ジェラシーお嬢様専任侍女として
あるまじき思考。心頭滅却、観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時・・・。
ふぅ、般若心経のお題目を唱えると心が落ち着くわぁ。
私は、シット伯爵家にお仕えする侍女。名前はカンゼ。
ジェラシーお嬢様のお世話を専任で任されて6年になる。
お仕えし始めた当時のお嬢様(10歳)のかわいらしさと言ったらもう・・・。
天使が舞い降りたかと思うほど。美しい黄金色の髪と青い瞳。
私の挨拶にまるで小鳥のさえずりのような可愛らしいお声で
“よろしくね、カンゼ”と言って微笑んでくださった時は昇天するかと思った。
その時私は心に決めた。お嬢様に一生お仕えし、必ず幸せになっていただくと!
私には前世の記憶がある。
前世 寺の娘であった私は、尼になるため仏教学部に入学し、
独り暮らしを始めた矢先 アパートが火事になり焼死した。享年18歳。
どんなに心頭滅却しても火事には勝てなかった。が仏様が転生をさせてくださった。
信心深く読誦を欠かさなかった私に、仏が輪廻の輪からお救い下さり、
”この世界に転生し、お嬢様にお使いせよ”と申されているのだ。
お嬢様に出会った時 私はそう確信した。
現世は、私が大好きだったラノベの世界にすごく似ていた。
まぁ、ジェラシーお嬢様も私も所謂モブで私なんか名前も出てこない。
ノンフクションとなったラノベは、書き込まれていない背景で
人が生き・思考する当たり前の世界であった。
前世の記憶があるため、少々頭の良い子として騎士爵子女ながら
伯爵家に奉公することができ、お嬢様のお世話を任される侍女にもなれた。
私は、ジェラシーお嬢様を菩薩様のごとく崇め奉り、
毎晩お嬢様の部屋に向かって読誦している。
先日、少々読誦の声が大きかったためか、執事長に“悩み事でもあるのか?”
と聞かれてしまった。反省。
現在、私の大切なお嬢様はくそバカ婚約者キザ伯爵家次男スゥイートのせいで、
毎夜眠れぬ夜を過ごしている。
決してR18な件ではなく、あのくそバカが何度もやらかす浮気のせいである。
本当にあのくそバカは、どんだけ脳内が腐っているのか
ちょっと見目麗しい女性がいれば、声をかけずにはいられない。
で、頭もゆるけりゃ下半身もゆるいので、婚約者がいながら
愛人を作ってはバレ、別れてはまた作り、を繰り返す。
もう恋愛依存?性行依存?かと思うほどのお盛んさ。人というより獣である。
そんなくそバカに日夜悩まされているお嬢様に、周りがいくら
”別れたほうがいい”、”もっと他にいい男はいっぱいいる”
と言っても、肝心のお嬢様が婚約解消に首を縦に振らない。
一途なお嬢様は、こんなくそバカでも愛していて
ヤツが愛人とともに出かければ現場に行き、ヤツを問い詰める。
ここでお嬢様が素晴らしいのは、決して相手を責めることはなさらない。
あくまでもヤツだけを問い詰める。菩薩様(ー人ー)
そしてくそバカが表面上反省し、3日ほど聖人君子な態度をすると
またふらふらと花を探す蝶のように、女を探す。そのくりかえし。
婚約を交わした翌日に婚活舞踏会に行くようなくそ野郎なのだから、
お嬢様も見切りをつければよいものを、恋は盲目。痘痕も靨。
未だほれ込んでいる。
「カンゼ、旦那様がお呼びだ。お嬢様には ばれぬ様に執務室に行くように。」
執事長が、お嬢様用のお茶を運んでいた私にそっと耳打ちしてきた。
遂に来た。お嬢様が一番恐れていた”伯爵のご決断”だ。
私は、嘆くお嬢様のおそばにそっとお茶を置き 静かに部屋を出た。
執務室にご挨拶をして入ると、中には旦那様と奥様、
次期当主のアンガー坊ちゃまがいらっしゃる。
「カンゼ、ジェラシーの様子はどうだ?」
「はい、毎夜スィート様の不実に 悩み苦しんでらっしゃいます。」
「そうか・・・先日も、逢瀬の場に出向いたとか。」
「はい、12回目でございます。
今回はメイド喫茶のアンアンという女が相手でした。」
「ジェラシーは、あの馬鹿とまだ婚約を続けるつもりなのか?」
アンガー様がイライラを隠すことなく、旦那様とのお話し中に口を挟まれた。
「はい、毎夜どうすればジェラシーお嬢様だけを愛してくださるのかと
思い悩んでおられます。」
「馬鹿な義妹だ。あんな顔だけの男、はやく捨ててしまえばいいものを。」
「恐れながら申し上げます。お嬢様には、スイート様を超える男性が必要かと。」
「超える男?」
「はい、お嬢様を愛し慈しみ いついかなる時もお側でお守りくださる。
昔からお嬢様の愛読されている 物語の騎士様のような方がおられれば、
すぐにでも婚約解消をご決断なさると思います。」
「そ、そんな男 どこにいるのだ。あの義妹に言い寄る輩でもいるのか?」
「アンガー、落ち着きなさい。カンゼは“そんな方がいれば”といっただけで
“いる”とは言ってないわよ。」
お嬢様そっくりの菩薩のような奥様が、坊ちゃまをなだめてくださる。
助かった。坊ちゃまは普段は冷静沈着であられるのに、事お嬢様のことに関すると
感情の制御がお苦手になられ、暴走気味になられる。
アンガー様は旦那様の弟君のご子息で、ジェラシー様ご誕生後、
次子は望めないと医師に言われたシット家に養子として引き取られた。
ジェラシー様とは2歳違いで、お嬢様を目に入れても痛くないほど溺愛している。
いっそ、アンガー様がジェラシー様を娶り伯爵家を継げばよいのに・・・。
と奉公人一同が思っているが、
あくまでも兄という態度を崩さず厳格なアンガー様と
厳しい態度のお兄様が少々苦手なジェラシー様。
この二人が添い遂げることは難しいだろう。
旦那様も奥様も特に何もおっしゃらないので、奉公人達の思いは実らない。無念。
「どんなにジェラシーが思っていても、相手があれでは無理であろうなぁ。」
「父上、自分が奴を成敗してまいります。なに、闇討ちすれば伯爵家に害は」
「落ち着きなさい、アンガー。普通に破棄すればいいだけだ。」
「しかし、それではジェラシーの心がいつまでも奴に残って」
「だから、落ち着けと言っている。そうならぬ様にジェラシーには
きちんと言い聞かせればよい。あれも貴族の娘。そこは弁えているだろう。」
「・・・はい。」
「キザ家からのたっての願いで結んだ婚約だったのだから、
ジェラシーさえ納得すれば解消に拒否はできないだろう。
もちろんそんな生ぬるいことでは許さぬ。破棄を喰らわせてやるがな。」
旦那様のお顔が、不動明王のように怒りに染まっています。恐ろしや。
「アンガー、ジェラシーを大事に思っていますか?」
「母上、なにをいきなり。もちろんジェラシーは我が家の宝。
何よりも大事に思っています。」
「では、なぜいつもちょっと口調が強いのです?」
「それは・・・あの子は警戒心もなくあちこちの男に笑顔を見せるので・・・。
変な虫がついてしまうと叱っているのに無自覚で・・・。」
「母から見ると、普通の貴族の娘の対応だと思うけれど?」
「いえ、シット家の宝石が微笑めばどんな男も恋焦がれます。
不埒な輩があの子に手を出すのではと心配で・・・。
いつも警戒しなければいけないのです。」
「スイート様との婚約時、あなたは反対しなかったじゃない。
当時から彼は少々恋多き方だとうわさがあったと思うけど?」
「自分は、スイートに
”婚約したら、脇目も振らずジェラシーに尽くす”と約束させました。
そうすれば、自分はジェラシーと奴に家督を任せ 実家の男爵家に戻ると。」
「なんだと?そんな勝手な約束をしたのか?」
「自分はもともと男爵家の子。伯爵家に養子にいていただき、父上母上の子となり、
ジェラシーの兄となり、裕福な生活としっかりした教育を授けていただきました。
ジェラシーがこの家を継ぐのであれば、生涯伯爵家の寄り子として
男爵家の仕事をしながら生きていこうと考えております。」
坊ちゃまは男爵家の次男。お戻りになっても爵位は継げません。
なのに、生涯伯爵家ひいてはジェラシー様に仕えると。なんて深い愛なのでしょう。
お嬢様を幸せにできるのは坊ちゃまが一番だと思うのですが。
「アンガー、あなたは自分の手であの子を幸せにしたいとは考えないの?」
「自分は不器用で、あやつのようにジェラシーが望む言葉を
かけてやることもできない朴念仁です。ジェラシーが自分との婚姻を望むことなど
万に一つもありません。」
「恐れながらアンガー様。お嬢様の好きな男性のタイプご存じですか?」
「・・・スイートのような男であろう。王子のような外見と優しい口調甘い言葉。
どれをとっても、自分にはないものだ。」
「いいえ、お嬢様は自分を愛し慈しみ、
いざという時は何をおいても自分を守ってくれる騎士様のような方が理想です。」
「騎士?王子ではなく?」
「はい、王子さまは基本守られていらっしゃいます。
いざという時は断然騎士様のほうは心強い。
お嬢様はそんなたくましい方が好みです。
スイート様のご面相は美しいと思ってらっしゃいますが、
体系は断然アンガー様のほうが好みです。」
「な・・・こんなごつい男でいいのか?
スイートのように足が長く、細い男ではなく?」
「はい、間違いありません。
アンガー様も 御髪をオールバックを止め ナチュラルに戻し、
きっちりと着込んだお洋服を2つほど釦を開け筋肉を見せれば、
お嬢様はイチコロです。
何ならお姫様抱っこをして差し上げれば、もうゾッコンです。」
「・・・・・・ゾッコン。」
あら、アンガー様。止まっちゃいました。
お嬢様のゾッコンを想像して、真っ赤になっていらっしゃる。
「アンガー、私はお前を引き取った時 ゆくゆくはジェラシーと添い遂げ、
伯爵家を継いでほしいと思っていたのだ。
しかし、二人はいつまでたっても兄妹から進まなんだ。
だから、縁はないと思っておったがなぁ。」
「旦那様、アンガーの朴念仁は旦那様似ですわね。
私は二人がとても似合いだと小さなころから思っておりますよ。」
「なんだ、それならば早く言えばいいものを。」
「いいえ、アンガーとジェラシーそれぞれが自覚しなければ恋は始まりませんわ。
旦那様だって、私が手を繋いでやっと自覚してくださったじゃないですか。」
「コホン まぁ あ、あれだ。アンガーも自覚したようだし、あとはジェラシーだな。」
「恐れながら旦那様、それならば私に考えがございます。」
「なんだ?カンゼ言ってみよ。」
「次にあのスイート様が目をつけてらっしゃるのは、巷で悪女と呼ばれている
ズレー子爵家のアバ嬢です。あの男は、きっと10日後の王家主催 夏の舞踏会で
アバ嬢にモーションをかけるでしょう。そこに、お嬢様は必ず向かわれますので
アンガー様がそこで華麗にヤツを撃退。お嬢様に告白!
これでお嬢様はアンガー様のとりこです。」
「そ、そんなこと自分にできるわけが」
「大丈夫です。毎晩、ぶつぶつと読み上げている日記の言葉を
お嬢様に伝えればよいだけです。」
「なななななんでそのことを。」
「奉公人全員が知っております。」
「私も知っているわよ。」
「わしも、知っておる。あれはジェラシーに向けての言葉だったのか?
わしはてっきり舞台の再現でもしているのかと」
「だから、旦那様は朴念仁なんですよ。」
「この屋敷で存じ上げないのは、ジェラシー様だけでございます。」
あ、坊ちゃま頭から湯気が出るほど赤面してらっしゃる。
「しかし、自分そそそそそんなことできるわけが」
「出来る出来ないではございません。やるのです。
為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり
でございます。」
「ナセバナル?なんだそれは?」
「できそうもないことでも、その気になってやり通せばできるという
昔の方の尊い教えです。アンガー様、いつやるの?今でしょ!」
「なんだかよくわからないが、今がその時ということは解った。
自分はジェラシーを娶るためなら、どんな苦労もいとわない。
カンゼ協力してくれ!」
「諾!」
次の日より、屋敷中が一丸となり坊ちゃまによるお嬢様獲得作戦が展開された。
まず、敵をよく知るためアバズレを調査。
まぁ、すんごい女で現在3人の男を手玉に取っている。うち一人は既婚者。
衆合地獄に落ちくされ。ついでにくそバカも落っこちろ。
次に、お嬢様の坊ちゃまに対する印象を好印象に変えるべく
奉公人皆で坊ちゃまを褒める。
お嬢様の部屋下で洗濯をしながら、噂話のように坊ちゃまの筋肉を褒め
お嬢様の部屋のドア前で坊ちゃまが平民の子供を助けた武勇伝を、
これまた噂話のようにみんなで盛り上がり、
私はお嬢様の睡眠中に
坊ちゃま作”愛の日記”を、睡眠学習よろしく耳元にて小声で読み聞かせ
これでもかこれでもかと坊ちゃまを後押しした。
坊ちゃまも、“街に行ったら目に入った”と
お嬢様が大好きな焼き菓子や恋愛小説、可愛らしい花束を買ってきて
お嬢様に無言で手渡していた。
困惑しながらも、“お兄様、私のこと心配してくださってるの?”と
可愛らしく首をかしげるお嬢様。
坊ちゃまが鼻血をこらえ“うんうん”と首を縦に振ると儚げな笑顔で
“ありがとうございます”とお礼を述べるお嬢様。眼福。
その時、坊ちゃまの少し空いた胸元の筋肉をチラ見して頬が赤らむお嬢様。
作戦成功。
王家主催 夏の舞踏会当日。
お嬢様は、白いレースで露出を控えた可愛らしいドレスを着用。
坊ちゃまは、濃紺にお嬢様の髪の色の刺繍が施された礼服に
お嬢様の瞳色のクラバットとチーフ。
くそバカは、エスコートする立場のくせに10分も遅刻し、
会場入り口でお嬢様を待たせる体たらく。
会場に入った途端、お嬢様を壁際にいざない“友人と話してくるね”と
そそくさとアバズレの元へ。くそ大バカ野郎。
お嬢様も、何かを感じくそバカの後をこっそり追う。
その後ろに坊ちゃま。
の後ろに私。
控室にいるべきだが、一大事にそんなことは言っていられない。
「なにをしてらっしゃるの(怒」
お嬢様のヒステリックなお声が聞こえてくる。
始まった。
「な、なんでこんなところまで。ジェラシー嬢、は、はしたないヨ。」
「はしたないのはどちらですか?
婚約者がおりながら、別の女性に言い寄るなんて。」
「いや、僕はただ美しい女性を称賛していただけで。」
「わたくしは、あなたに何も誉め言葉をいただいておりませんが?婚約者なのに。」
「あらぁ、怖い子。目が三角になっちゃってるわぁ。
そんなお顔では殿方に嫌われましてよ?」
「口を挟まないでください。今は、わが婚約者と話しております。」
「あらぁ、お邪魔様。ではあとで楽しみましょうスイート様♡」
「あぁ、申し訳ないねぇ アバ嬢。あなたの美しさに彼女は中てられたようだ。
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「俺の心の中心にはいつもジェラシーがいる。
ちいさなジェラシーが俺の指をぎゅっと握ってくれたあの時より、
ジェラシーは俺の唯一になった。ジェラシーの幸せが俺の幸せだ。
ジェラシーを泣かせる奴は絶対に許さない。」
「お兄様・・・。」
「はは、なんて美しい兄妹愛だ。そんなにジェラシー嬢が大事なら
自分で守ればいいだろう?なにも僕に頼むことはないさ。
この婚約、君たちの不実で解しょ」
「不実はそなたのほうではないか?」
「?シット伯爵殿。なぜ僕が不実」
「13回もジェラシーに不実を問われているのに、
そなたの頭の中には藁でも詰まっているのか?」
「い、いやあれは相互の認識の違いで決して不実ではなく美しい花を美しいと」
「黙れ愚息!」
「父上!僕はそんな怒鳴られるようなことは」
「五月蠅い五月蠅い五月蠅い。
せっかく裕福なシット家と縁組ができ、家も盛り返せたというのに。
お前は私の言いつけも守らず、まだ女遊びを続けていたのか!」
「女遊びなどと無粋な。それにこの縁談はシット家から来たのでしょう?
婚姻前なんですからちょっとくらい花を愛でても」
「ばかもん!私が頼み込んで結んでもらったんだ!
だがそれも先ほどこちら有責で破棄されたがな!この親不孝者。
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「えぇ?そんなぁ。僕はどこに行けばいいというのです?」
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お前の部屋の服や貴金属は、売り飛ばして慰謝料にするからな。
その服も脱いで行け!」
「いやゃゃゃゃゃ」
女性のような叫び声をあげ、逃げていくくそバカ。因果応報。
「お兄様 お父様、助けてくださってありがとございます。
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「そんなことはどうでもいい。ジェラシーを泣かせたのだ。
あいつは絶対に許さん。」
「え?私、泣いて・・・。
だって、お兄様が家を出ていかれるって聞いたから・・・。
私、お兄様はずっと家にいてくださるから
何かあったらお兄様が助けてくださるって思っていたのに、
なのにお兄様がいなくなっちゃうなんて・・・。」
「大丈夫だ、ジェラシー。お前のことは俺が守る。
絶対につらい思いはさせない。だから、もう泣き止んでおくれ。
お前が泣いていたら、俺はどうしていいかわからなくなる。」
旦那様は、キザ侯爵の首根っこをひっ捕まえて
ずるずると引きずって 去って行かれました。婚約破棄のお話を進めるのでしょう。
“朴念仁”と奥様にののしられておりましたが、空気の読める男になられました。
奥様の教育の賜物ですね。
「お兄様、どこにも行かない?ずっと私の事守ってくださる?」
「もちろんだ、わが命を懸けてお前を守る。
お前に初めて合ったあの日からお前は俺の唯一。
だからもう泣かないでくれ、わが姫よ。」
「お兄様・・・昔みたいに抱っこしてくださる?」
「いいのか?
俺は筋肉ばかりで、王子様のように優しくは抱っこ出来ないぞ?」
「ううん、お兄様はたくましい私の騎士様だわ。」
おぁ、お二人がそっと抱き合われましたよ。LOVEです、LOVEですわ!
お嬢様獲得作戦大成功!さぁ、わたしもそっとここを離れるとしますか。
出歯亀退散!
その後、坊ちゃまとお嬢様は順調に愛をはぐくみ、半年後に婚約
1年後に盛大な結婚式を挙げ ただいまLOVELOVE新婚旅行中。
タガの外れた坊ちゃまは、もうお嬢様にデレデレ。
いつも手を握り
“愛している”“かわいい”“大好きだ”“大切にするよ俺の唯一”等々、
奉公人が、口にぶち込まれる砂糖で窒息死しそうなくらい甘々である。
その影響で旦那様&奥様もLOVE度が高まり、
あげく奉公人たちもカップル成立が増量し、
私も執事補佐の フツメンだけど細マッチョの仕事の出来る男と結婚した。
お嬢様のお子様の乳母となるため、現在妊娠計画中v
そうそう、あの衆合地獄チームの末路を。
まずくそバカ。
勘当され、女のところを転々としたが誰も受け入れてくれず、
あちこちと流れ流れてスラムへ。
そこで頭目の女に手を出し、阿部定状態 にされ男娼館に売られたとか。
今は女性のごとく、男に使われ気が狂っているらしい。南無。
くそバカ父キザ伯爵。
慰謝料を揃えるのにあくどい商人に金を借り、踏み倒そうとして借金奴隷に。
伯爵家親子ともどもくそだったらしく、元々の借金理由が愛人に貢いだ為と発覚。
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この女、馬鹿なのか野心家なのか第2王子に毒牙を向け まんまと返り討ちに合い
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「あら、それは次期当主ご夫婦の妊娠次第ですわ!
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「ムードないなぁ。でも、そんなところも大好きだよマイハニー。」
「あら、私もですよ。マイダーリン♡」
終
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