生きる意味

紅子

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私 の話

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『死にたいけど死ねないの。』君はきっとこの意味に気づかないんだろうね。でもやっと言えたの。ごめんね。

私は君にべったりだった。家でも学校でも、私の居場所なんかなかった。私が何をしたわけでもないのに、人はすぐ私を叩きたがる、怒鳴りたがる。もう感覚が麻痺してきたのか、涙すら出なくなった。だけど、君に会いに行くと、自然と涙がこぼれちゃうの。安心するのかな、なんでだろうね。君はいつも通り、泣きじゃくる私を無言で抱きしめてくれる。ああ、君が居るなら生きてもいいかもしれない。そう思えた。

でも、彼の温かさを知ったせいで、彼以外の人の冷たさを知った。今まで我慢できたのも、我慢できなくなった。泣きたくないのに、涙が出てくる。涙を流すと、余計にひどくなる。私はいつしか、彼のせいにしていた。彼と出会ったから。彼が私に優しくするから。だからこうなってしまったんだと。

何度も自分を傷つけようとした。でもその度に、彼の顔が浮かんできて。彼の温かさを思い出して。彼の優しさに泣けてきて。そうして私は、彼に会いに行く。彼はやっぱりいつものように私を抱きしめる。君しか私のこと理解してくれない、ってぐずる私に君は、大丈夫っていうんだもん。なにが大丈夫なんだよ、って思ったけど、なんだか大丈夫に思えたりもした。

日に日にひどくなる暴言、暴力。死にたかった。なのに死ねなかった。彼が居るから。私は、彼が居るから、生きてられた。でも、もう無理みたい。
私は彼に馬鹿みたいな提案をした。
『一緒に死んでくれない?』と。彼にも殴られるかと思った。もう抱きしめてくれることもないのだろうと思った。それでいいんだと思ってた。彼が頷いた。え、頷いた?私と一緒に死ぬの?馬鹿じゃないの。そう思いたいのに、本心は、死ぬほど嬉しかった。

ビルの屋上で、彼と最後の会話をしている。中身のない会話。ああ、ここから彼と死ぬんだなあ。これでやっと死ねるんだなあ。そう思ってた。ネットを跨ぐ。彼と手を繋ぐ。一緒に死ぬ。昨日まではそのつもりだった。でも、私の生きる意味は彼なのだ。彼の存在が、私を生きさせていたのだ。そうなると、彼がいる以上、私は死ぬことができない。彼の優しさに溺れて死ぬことも出来ない。そうして今朝、ある決心をしたの。


彼が屋上から落ちる時の、あの、寂しげな、悲しげな顔を私は脳裏に焼き付けて、私も飛び立った。
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