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ニコの嘘
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『いやぁ、何度か触らせてもらってるけどさ、ミカドんとこのPCサクサクでマジやりやすいわ。回線神すぎる』
『一応、配信周りは快適になるようにしてるけどね? イチカはいろんなもの入れすぎなんだよ。負荷かけ過ぎなだけ』
『いやいや、お前の設備がバリ強いからだって。一生ココで配信してぇ~』
『絶対無理。やだ、今日こそ帰って』
『突っ込み早すぎんだろ。つか、お前今日なんかイライラしてねぇ? 牛乳飲むか?』
『……誰のせいだと思ってる? 飲まないよ。てゆうか、人の家の冷蔵庫を勝手に開けないでくれる?』
「……」
テンポ良く次々に展開する会話。安定感のあるキャッチボールは、動揺していちいち投げ方を確認してしまうニコとは大違いだ。
普段の二人の配信と比べても倍近いリスナーが集まり、コメントもあっという間に流れていく。
イチカとミカドのプレイは、見ていてとても爽快だった。走りに安定感があって、はっきり言って上手い。ニコみたいに変なところでアイテムを飛ばさないし、アクセルと間違えてブレーキを踏むことだってない。もうダメだと手に汗握る展開も、ギリギリのところで回避するスリルはエンタメとしてとても面白いと思った。
比べてはいけないと思うのに。どうしても、自分だったら……と後ろ向きに考えてしまう。自分だったら、あの場面で持ち直せない。ミカドに気を遣わせてカバーさせて、やっとのことでゴールテープを切れるレベル。
イチカはゲームに慣れている。自分とはそもそものスタートラインが違うのだと、そうわかっていても卑屈になってしまう。
ニコといるときより、ミカドのアバターは楽しそうに見えた。
「……」
シガレットケースから飴を取り出し、口に含む。
瞳の中を配信画面が移り変わっていくけれど、それはただ目の前を流れていくだけで、ニコの記憶には少しも残らない。
「……やっぱり、僕にはまだ早いみたい」
どれだけ頑張って背伸びをしても、ミカドには少しも届かない。
口いっぱいに広がる、すうっとしたミントの香り。ついこの間まで隣にあった心地よい香り。
今はもう傍にはない。
「……っふ」
鼻から抜ける爽やかな痛みに、ニコの瞳には少しだけ涙が滲んだ。
『一応、配信周りは快適になるようにしてるけどね? イチカはいろんなもの入れすぎなんだよ。負荷かけ過ぎなだけ』
『いやいや、お前の設備がバリ強いからだって。一生ココで配信してぇ~』
『絶対無理。やだ、今日こそ帰って』
『突っ込み早すぎんだろ。つか、お前今日なんかイライラしてねぇ? 牛乳飲むか?』
『……誰のせいだと思ってる? 飲まないよ。てゆうか、人の家の冷蔵庫を勝手に開けないでくれる?』
「……」
テンポ良く次々に展開する会話。安定感のあるキャッチボールは、動揺していちいち投げ方を確認してしまうニコとは大違いだ。
普段の二人の配信と比べても倍近いリスナーが集まり、コメントもあっという間に流れていく。
イチカとミカドのプレイは、見ていてとても爽快だった。走りに安定感があって、はっきり言って上手い。ニコみたいに変なところでアイテムを飛ばさないし、アクセルと間違えてブレーキを踏むことだってない。もうダメだと手に汗握る展開も、ギリギリのところで回避するスリルはエンタメとしてとても面白いと思った。
比べてはいけないと思うのに。どうしても、自分だったら……と後ろ向きに考えてしまう。自分だったら、あの場面で持ち直せない。ミカドに気を遣わせてカバーさせて、やっとのことでゴールテープを切れるレベル。
イチカはゲームに慣れている。自分とはそもそものスタートラインが違うのだと、そうわかっていても卑屈になってしまう。
ニコといるときより、ミカドのアバターは楽しそうに見えた。
「……」
シガレットケースから飴を取り出し、口に含む。
瞳の中を配信画面が移り変わっていくけれど、それはただ目の前を流れていくだけで、ニコの記憶には少しも残らない。
「……やっぱり、僕にはまだ早いみたい」
どれだけ頑張って背伸びをしても、ミカドには少しも届かない。
口いっぱいに広がる、すうっとしたミントの香り。ついこの間まで隣にあった心地よい香り。
今はもう傍にはない。
「……っふ」
鼻から抜ける爽やかな痛みに、ニコの瞳には少しだけ涙が滲んだ。
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