ミントなキスは配信外で

Wizards一周年記念配信(1)

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「それでは開始します。五秒前、四、三、二、一……スタートです！」
　何故かニコのアバターだけ反応しない不具合があったものの、準備は滞りなく完了し、Ｗｉｚａｒｄｓの一周年記念配信は開始された。
　長机を前に一列に並んだ四人は、各ペアごと、隣同士になるような配置になっている。
「きょ、今日は僕たちＷｉｚａｒｄｓの一周年記念配信に遊びに来てくれてありがとう。最後まで楽しんでいってね」
「内容としては、四人でゲームを行うよ。事前に発表していたとおり、二人ずつの二チームに分かれて順位を競います。ルールも事前に発表しているけど、もう一度おさらいしよう。五レース走って、総合順位が高かったペアの勝ち。ペアは、ニコとミカド。ボクと……うん、ボクは一人で十分かな」
「おい！　ロゼ！　お前はオレと一緒だろ！」
「ロゼ、イチカ。仲の良さはゲームで発揮して貰っていい？」
　ルール説明で一悶着ありつつも、企画は大きな遅れもなく進行していって、ついには最終レース。抜きつ抜かれつを繰り返し、ここまでの結果はなんと同点。白熱した戦いは、このレースを征したものの勝ちだ。
　コントローラーを握る手に汗が滲む。手どころか、ニコは全身に汗をかいていた。ここまでは、大きな迷惑を掛けずにやって来られたと思う。もっと相手にならないかと思ったけれど、ミカドのサポートのもと、ニコはなんとか踏ん張っていた。
（し、失敗したら、どうしよう……っ）
　ここで何か大きなミスをしてしまったら、そのせいで負けてしまったら。
　泣いても笑ってもこのレースが最後だと思うと、重いプレッシャーに押し潰されそうになる。
「よっしゃ、これが最終レースだかんな。勝っても負けても恨みっこなしだぜ」
「お互い様」
　ぐるぐると肩を回しながら、イチカは気合い十分だ。それに、ミカドが冷静に返す。
「イチカ、お前絶対に変なことはしないでよね。きちんとボクの指示に従って……ってこら、まだアクセルホタンを押すな！　クラッシュする！　おい、このバカが！」
　先走るイチカにキレ散らかすロゼの声も、緊張が限界突破したニコには聞こえない。
「だ、大丈夫、だいじょうぶ……」
　ぶるぶると小さく震えながら独り言ちるニコの手を、ミカドが握った。
「……ニコ、大丈夫。リラックスして？　深呼吸する？」
「う、うん……平気、大丈夫」
「吸って、吐いて。そう、ゆっくり。大丈夫だよ」
「僕は出来る僕は出来る僕は出来る……」
　ミカドの声に合わせて、ニコは自己暗示を掛けるように呟きながらゆっくりと深呼吸を繰り返す。