ミントなキスは配信外で

ニコの嘘

2

「とりあえず、練習しないと」
　よし、と拳を握って自身を鼓舞する。
　練習のためのコラボ配信だって、ニコにとっては収入に繋がる立派な仕事だ。ただゲームを楽しむための遊びではない。より多くのリスナーを獲得して、メンバーに追いつく使命だってある。ペアを組むミカドはもちろん、他のメンバーにも、これ以上迷惑はかけられない。
「……うん、できる。やる」
　ニコの気持ちは、今は関係ない。やるべきことを、やらなくては。
　早く気持ちを整理して、ミカドともう一度練習をしよう。
　ティロッ
「ん？」
　スマートフォンから音がする。この音は、誰かがライブ配信を開始した合図だ。自分に予定がないときはメンバーの配信を極力見られるようにしたいから、通知をオンにしているのだ。
　朝確認したメンバー共有のスケジュールに、この時間は何も予定が入っていなかったはずだけれど……。
「誰……、ッ」
　いったい誰だろう、確認しようとスマートフォンのロックを解除して、ニコは息を呑んだ。
『ゲリラコラボ！　オレたち二人でテッペン目指すぞ！』
　そうつけられたタイトルに、イチカとミカドの二人が映ったサムネイル。ゲリラというタイトル通り、どうやら突発企画らしかった。
「……！」
　ドキドキ、心臓がうるさい。全身から血の気が引くような、力が抜けていくような、奇妙な緊張感。震える指で、ニコは恐る恐る再生ボタンを押した。
『お～っす！　みんな元気かぁ？　今日はミカドと練習配信するぞ」
『突発配信なのに、見に来てくれてありがとう。一周年記念配信に向けて相手の動向を探ろうってコトで、今日はイチカと練習します』
『相手に手の内見せていいのかって？　いいんだよ。オレはこれしきのことで負けるつもりはねぇからさ』
『……配信すること、ロゼに言った？』
『え？　言ってねぇけど？』
『ロゼに刺されないように気をつけなね』
『やば、悪寒が走った……てか、わざわざ言うことでもないだろ？　お前こそ、ニコに言ったのかよ！』
『俺はちゃんとメッセージ送ったよ……返事なかったけど』
『オレと変わんないじゃねぇか！』
「え！」
　自分の名前が飛び出して、ニコは慌ててスマートフォンを確認する。確かにミカドから連絡が入っていた。もう数時間前の話だ。ニコが、うじうじとクッションの耳をこね回している間に届いていたメッセージ。全然気が付かなかった。